第8話 悲しい別れと新たな出会い

 私がその町に着いたのは、日が西に傾きつつある頃であった。

 

 警官が言うように、その町の民家の軒下にはどこも、どんぶりに入ったキャットフードが置かれていた。

 それに殺鼠剤が混じっているのは、火を見るより明らかだった。

 その町はどうも、町をあげて「化け猫」退治をしているようであった。


 冷静に考えると、それは致し方ないことである。

 若い娘さんが夜道で「化け猫」に襲われて、顔に傷でも付けられたら・・・

 「クイーン・エメラルダス」みたいな美人でない限り、頬に傷が似合う女性などいない。


「マナミ~」

 と呼びながら、私はその町の民家の床周りを、一軒、一軒見て回った。


 マナミを発見したのは、時計が午前零時を回った頃であった。

 見慣れた三毛の背中を発見した私は、手を伸ばして床下からマナミを引っ張り出した。

 マナミは、やせ細っていた。


 マナミは私を見て、「みやー」といつもの甘えた声を出したが、それがマナミの発した最後の声になった。

 私は、次第に冷たくなっていくマナミを抱いて、

「ごめんね、ごめんね」

 と、マナミに謝り続けた。


 その時、「ミュー、ミュー」という小さな声がした。

 マナミを引き出したその床下の奥に、四匹の小さな猫がいたのである。


 マナミが産んだと思われる小さな子猫の色は二匹が三毛で、二匹は黒だった。

 その内の三毛猫の一匹と黒猫の一匹は、すでに息絶えていた。

 それは、マナミの母乳の量の不足によるものと思われた。


 私は、死んだ猫を含めて、五匹の猫をケージに入れて、アパートに持ち帰った。

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