第7話 火を吐く猫
「このポスターは、あなたが公民館の掲示板に張ったものですね」
と私を訪ねてきた警官が言ったので、私は、
「はい、そうです。私のところからいなくなった猫ですけど、見つかりましたか?」
と返事をした。
すると警官は、
「実は、困ったことがありましてね・・・近頃、私の管轄地で、化け猫が出るという噂がありまして・・・」
と、切り出した。私が、
「その話なら、私も研究室の後輩から聞いたことがあります」
と言うと、警官は、
「この前、交番に駆け込んできた女子高生が、『化け猫に襲われた。それが公民館に張ってあったポスターの猫にそっくりだった』と言って、しかもその猫は、『口から火を吐いた』って言うのですよ。そんなことって、あり得ませんよね」
火を扱える動物は人間だけで、口から火を吐く動物など存在しない。
さらに警官は、話を続けた。
「私が困っているのは、その猫を近所の人達で退治しようとしていることです。たとえ人に危害を加える可能性がある野良猫でも、それを殺傷した場合、動物愛護法違反になり、5年以下の懲役または500万円以下の罰金が課せられるのです。
私は管轄地から「猫殺し犯」を出したくないので、その猫があなたの猫なら、保護してもらいたくて来たのです」
何でもその町では、キャットフードに「猫いらず」を混ぜたものを、「化け猫」が出そうな所に置いているということだった。
「猫いらず」、いわゆる殺鼠剤は、ワ ルファリンやリン化亜鉛さらには亜ヒ酸(3価の酸化ヒ素)などを混ぜたもので、ホームセンターでも手に入る猛毒である。
(これは一刻を争う・・・)
そう思った私は、マナミを入れるケージを持って、その町の警察が用意してくれた車で、その町に向かった。
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