第5話 地震

 私の大学がある町を大きな地震が襲ったのは、4月中旬の夜中だった。


 私はその日、研究室で飼っている遺伝子組み換え生物の給餌役として、大学に泊まっていた。

 その地震の時、私は理学部の当直室のベッドの上で、なすすべもなく、激しい揺れが収まるのを待つしかなかった。


 揺れが収まると、私はすぐに研究室の水槽が並んでいる部屋に行った。

 光るメダカを飼っている水槽は頑丈に作られていたので、水槽そのものに破損は見られなかったが、水が地震の揺れに共振したようで、水槽の端から二十匹ほどの光るメダカが床に飛び出し、その大半は死んでいた。


 私は、「マナミ」がどうしているか心配だったが、外部に流出してはいけない遺伝子組み換え生物の確保を優先した。

 

 大きな地震だったので、先生方や研究室の後輩たちは、まずは自分の身と自宅のことを優先したのであろう。その日、大学に出てきた人は、ほとんどいなかった。

 

 徐々に増えた後輩たちに手伝ってもらって、光るメダカの数が判明したのは、地震の三日後だった。

 研究室の端にある排水口から、四、五匹のメダカが流されて、姿を消しているようであった。


 その作業を終えてアパートに帰った私は、信じられない光景を目のあたりにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る