第4話 おきて破り

 私は、「光るメダカ」の給餌役と数の把握をまかされた。 

 

 私の研究室で飼っている「光るメダカ」は、ヒ素や鉛などの重金属が大好きな工学部の河村正臣先生が主たる共同研究者になってJSTから頂いた5億円の予算を使って行った「地域水循環機構を踏まえた地下水持続利用システムの構築」に関して、河村先生をサポートするために作った重金属イオンに反応するメダカだった。

 

 実用上どう使うのかと言うと、飲料水の水路にこのメダカを放っておくと、ヤバい重金属が水路に入ってきたら、メダカが赤く光って警告してくれるのである。

 

 メダカの数の把握をまかされた私は、タブーを破ってしまった。

 私は大学の研究室から数匹の光るメダカを持ち帰り、それをアパートに設えた水槽に入れたのである。

 持ち帰ったメダカの数は、データベースには『自然死したので、焼却処分にした』として、辻褄つじつまを合わせた。

 

 私がそんな「おきて破り」をしたのは、私が重金属に反応するメダカよりも、性ホルモンに反応するメダカの方に興味があったからだった。

 それは、人間の女性を知らなかった、私のいびつな性に対する興味によるものだったのかもしれない。


 私は大学の「特別試料室」から持ち出したエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)をアパートに持ち帰り、メダカを入れた水槽にそれを添加した。その添加量を増すと、メダカは光り始めた。

 

 私が改造したメダカは、女性ホルモンに反応して光るバイオモニタリングメダカになったのである。

 

 大学の研究室にある水槽では、特殊なホルモン剤を添加して、メダカの数があまり増えないようにしてあるが、私が改造した光るメダカは交配を重ね、あっという間に数を増してしまった。

 

 事故が起こったのは、私がマスターの2年生になった時であった。

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