本編

第1話 餅は餅屋! 依頼されたらつきに行きます!

「……の……そこのぬし、聞こえるか」

「か……鏡餅が喋った!?」


 12月28日。その日の分の餅をつき終えた俺は床の間に鏡餅を飾っていた。


 はずだったのだが、どうも夢の中らしい。

 喋る鏡餅なんてあるものか。

 俺が丹精込めてついたんだぞ。


「少し違うな。ワシは鏡餅を通じて喋っておる」

「一緒じゃねえかな!」

「主は電話が喋ってるとは言わんじゃろ。そこは鏡餅から声がする、が正しい」


 細かい鏡餅様だ。


「それで……鏡餅様? が、一体何の御用で」

「餅屋の主の腕を見込んで一つ、ついて欲しい餅がある」

「そりゃ餅屋ですから、つけと言われりゃつきますが」

「では、つきに来てくれと頼んだらつきに来てくれるな?」

「出張料を頂けるなら。遠距離だとそれなりにしますよ」

「そんなケチな事は言わん。望みの餅がつけたあかつきには、望むだけの褒美を出そう」


 最近景気悪い話ばっかりだったしな。

 夢の中でくらい景気よくパーッと行きたいもんだ。

 

「それはそれは羽振りのいいことで。それで、ご予定はいつで?」

「引き受ける、ということでいいんだな?」

「ええ、大船に乗ったつもりで期待してください」


 夢の中でくらい、でかい男でありたい。


「その言葉、まさにいさぎよし。では来てもらおう」

「どちらへ?」

「先も言ったろう。月に来いと」

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