第6話:山の中にある村の周りのモンスターを舐めてはいけない

「「実習課題のクエスト候補がまだ決まっていない?」」


 ニーカを仲間に加える事が決定し、その報告兼次の選択で絶っっっっ対に地雷を踏まないように情報収集でリオ教官の元に向かった二人は、思わぬ事態に揃って首を傾げていた。


「うむ、我々としても頭の痛い話でな」


 事前に改めてリストアップした女の子の、詳しい話を事前に入手して慎重に進めようとしていた矢先の事態に、ユートはもちろんクオンもわずかに顔をしかめている。


「本来ならばこの実習において、まずはチームの目標を決めさせる所から始まるのだが……」

「高難易度実習の雛型となれば、生徒に決めさせるよりも教官側で決めた方が良いと?」

「最終的には難易度にランクを付けて、一定以下の物は不可とする形に収まるだろう。だが、今はまだ――」

「そのランク付けが終わってないってだけならクエストが消える訳がねぇ。近くの村や町からアレコレ出てるだろう?」


 村民や町人からの、自力では解決が出来ない難しい問題は、大体はもっとも近い役場に届けられる事になる。

 その上で役場の担当する部署が解決に動くのだが、役場の人間では手に余る、あるいは動くほどではない問題という物が当然出て来る。

 無論その上で軍や治安維持部隊へと回るのだが、盗賊や魔物といった問題は余りに数が多く、人手が足りていない。

 そういったお零れがクエストという形で各地の学園やクエスト仲介所ギルドに送られるわけだが。


「今回の実習が無くても君達に送ろうと思っていた依頼そのものを、君達がすでに解決してしまってたのだよ」


 繰り返すがこの二人、頭はピンク一色でも腕は確かである。

 平均的な学生なら撤退を選ぶような危機や問題が突然起こったとしても、この二人はそれぞれ単独で解決しうるだけの実力がある。


「……ひょっとして、盗賊問題やらを当てるつもりだったんですか」

「そうだ。だが、クオンは北部山脈の大規模盗賊団と周囲の魔物を。ユートもスヴォラ平原の騎馬盗賊団を一掃していたな」

「全部捕まえたわけじゃねぇ。残党がまだいるだろうが……まぁな」


 よって、本来ならば別個のクエストの対象である存在を討ち取ってしまう事がままあった。

 彼らが他の学生よりも多く実績を認められているのはこのためだ。


「とりあえず最初の一人が決定したので、適当なクエスト受けて連携を確かめてみたかったのですが……」

「ほう、全員揃ってではなくてか?」

「全員揃えてチーム組んで、後から致命的な問題が出るのが怖ぇって判断したんだよ。普通ならともかく、高難易度の依頼こなしていくならチーム選びも慎重にってな」


 お、そうやな。

 慎重にいくべきだったな。


「なるほど、それで騎馬警察。悪くない人選だな」


 本当でございますか?


「騎馬警察からは他にも何名か応募があったが、ニーカはその中でも優秀な一人だ。人格面も優れていて、今も後輩からは頼りにされている」


 …………。


 本当でござるか?


 二人はとっさにそう口にしそうになるのを、必死に押さえている。


「しかし、そうなると先に二人目を考えた方がいいかな」

「とはいえ、次に取るのは戦闘力目当てじゃなくて、商会みてぇな金の扱いに長けた奴だろう?」

「ああ、そうだな」

「そういう連中は曲者が多いぜ。まずは足元を固めておきたい」


 ここから先は非戦闘員でも構わない。

 これが二人が今後について話し合った結果、無駄な牽制合戦の末に出た結論だった。


 少なくともニーカの腕前は本物だろうとい二人の強者は感じていた。

 一応念のために一度実戦を経験しておきたかったが、それに関してはさほど不安は感じていない。

 正確というか性癖的なアレで背中に用心しなければアレなのだが。

 アレなので。


「む? 次は商人を取り込むつもりなのか?」

「はい。クエストの目標がどういう方向に行くか分からなかったので、何があってもいいように金策係をと」


 先述した通り、本来ならばこの実習はまず目標を決めておくものなのだ。

 例えば『一年で討伐クエストを50個達成してみせます』とか、『期限内に100万イェンを貯めこむ』、『ポーション100ケース分を作成した上で売り払う』などである。


 だが今回は色々と急な変更があったために、すべてが運営する側の教官たちも受注するクオン達も、手探りでおっかなびっくり進めている形となっている。


「……これはクエストとは関係ない事だから、君たちの成績に加算されるようなものではないが」


 その事に罪悪感を抱いていたのか、リオの机の上には様々な書類や資料が大量に置かれていた。


「ちょうど数少ない、学内から商人希望の候補者が明日から御者訓練も兼ねた現地見学に出向くんだが、その護衛として同行して見ないか?」







◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇







「山間部の村々を馬車で回る? 訓練にしては中々にハードじゃないかい?」


 本格的にチームが組まれた事で、クオン達には拠点となる施設が与えられていた。

 学園の外部者であるニーカのような人間でも寝泊まりできるように、郊外部の屋敷を与えられたのだ。

 本来の実習ならばこんな豪勢な物は用意されない。

 せいぜいがタコ部屋なのだが、今回は場合によっては本物のお嬢様が来る可能性もあったため、学園側が急遽用意した物だ。

 二階が各々の部屋になっており、一階部分が共用部となっている。

 居間部分が談話室代わりだ。


「騎馬警察官から見てもそう思うか」

「ああ。山間部は統合整備計画でも後回しになっている。ほら、山間部となれば当然高低が激しい所があるだろう?」

「……そうか、軍路というだけでなく商取引の拡大を早めるための計画だ。測量計測に時間がかかる上に真っ直ぐ道を引けない山は面倒なのか」

「そういうことさ。荷車引いた馬車は通れないなんて所は珍しくない。荷駄袋を提げた荷馬でも厳しい所さえあったりするからね。」


 ニーカはまぁまぁの柔らかさのソファに腰を沈めて紅茶を楽しみながら、怪訝な顔をしている。


「まぁ、仮に山の中にある大国、大都市。例えば鉱山が豊富な大国クロセルなんかは逆に最優先で街道整備が始まったけど、村レベルだとどうしてもね」

「しかし、人の往来がそんなにない上に手も入っていない道はたまに魔物が出るぜ? 護衛は大丈夫なのかよ」

「……彼女の実習は御者訓練。つまりは馬車の扱いだ。少なくとも最低限の整備はされていると思うが……」

「最低限だろうなぁ」


 二人のカスと危険なナマモノ一人は、顔を見合わせ思案する。


「ちなみに、御者訓練も兼ねた見学というのは商学か何かかい?」

「そのようだ。教官が言うには普通の村々の生活を直接見て、村民の需要や現時点での過不足などを肌で感じてもらう事が目的だと」

「なるほど。騎馬警察官としても中々に興味深い。君達としても仲間候補になるのならば、顔合わせをしておいて損はないだろう」


(おう、そうだな)


(今度はちゃんと普通のまともな人なのかどうか、ちゃんと確認しないと)


 ニーカという女の存在は、ある意味でこの二人の結束を強くした。

 先日までは互いに闇討ちを半ば本気で考えていたのに。


 そうして簡単な打ち合わせをして三人で夕食の作って口にし、ついでに実習チームの結成と開始を祝って翌日に備え、それぞれの部屋で就寝に入った。


 で、翌日。


 夜明けと共に、目標の少女の場所とその護衛役の学生たちにと共に出発した、その昼下がり。



―― WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!



―― な、なんでウォードッグがこんなに湧いてるんだよぉ!?

―― 嘘だろリザードマンまでいやがる、どうして……っ!!

―― 待って、私こんな大勢を相手に出来る魔法はまだ使えないの!

―― あぁ、チクショウ! 助けて! 助けてぇっ!!!



 一隊は狭い山道で、信じられないほど大量の魔物の大襲撃を受けていた。


「「「……嘘でしょ?????」」」


 いいからはよ戦え。

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