第5話:道がしっかり作られてるRPGって昔はあんまない

「私が騎馬警察に入って真っ先にやった事は、上官や同僚のアラ探しと吊るし上げなのさ」


 ニーカという女は、短めにしていても美しい髪に手櫛を差し込みながら己の武勇伝を朗らかに謳う。


「父から話を聞いたり職場を見せてもらっている内に、物資を横流し出来る隙がある事は薄々察していてね」


 それは、確かに正義と賞賛される事なのだろう。


「さすがに銃火器や弾丸に関しては厳重だったが、馬具や回収した物資、食料や飼料の管理は脇が甘い。いやぁ、甘いにも程があったね」


「それで当たりを付けていた所を張ってみたらドンピシャさ! ボクは自分が記憶力を持って産まれた事を心から神に感謝したね! 元同僚や元上司を何人ブタ箱に叩き込んだことか!!」


「横流しで稼いでいた仲間がね、連行されていく中凄い顔でボクを睨むのさ」


「高価な医療物資を地方のマフィアに卸していた上官なんて最高だったね。ありとあらゆる罵詈雑言を嗚咽交じりに吐き出しているのさ。そのクシャクシャに泣きじゃくった顔で喚く姿を見てボクは思ったね」




「ボクは――天職に就いたんだと」




「というわけで、武装騎馬警察隊第277隊所属ニーカ・エルスヴァル。君達の手足として好きに使ってほしい」




「これからよろしく頼むよ!!」

「「ちょっと審議に入ります」」







◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇







「おいどうする。その……アレじゃねぇか」


 アレとは。


「ああ。想定していた最悪のとは違うアレな方向にかっ飛んでいるな。……まさかここまでアレとは」


 アレとは。


 まぁ、アレだが。


 騎馬警察というエリート組織とのコネに加えて外見だけでOKを下した二人は、ここに来て浮かれ上がっていた自分達の判断を呪う事になった。


(ほぼ確と決めつけて仲良くしちまったのは拙かったな。気持ちが緩んでいたのは仕方ないが、頭のネジまで緩んじまってた)


 貴方の頭にネジは一本でも残っていますか??


(顔はいいしエリートだし優秀だし安定した後衛だってことで安心してたのに! 外面だけバッチリ決めて内面滅茶苦茶なんて詐欺だよ! 卑怯じゃん!! 末代まで祟ってやる!!)


 貴方の頭に恥という言葉は残っていますか??


(整理しよう、騎馬警察というパイプそのものは滅茶苦茶美味しい。これから大きく拡大されるのがほぼ決まっている組織の中でも大本命だ)


 ゴエティア連合は七十二もの国々の集まりであるが、その連合が成立したのは百年前。

 昔と言えば昔なのだが、大昔というには微妙な所である。

 当然今連合に参加している国々も当時は対立していたり、あるいは国交そのものが薄かったりする。


 連合が成立した後もすぐさま仲良しになってめでたしめでたしとなるハズもなく、半世紀近くかけた比較的穏やかな折衝を繰り返して今の形に落ち着いた。


 そうしてようやく、これまで放置気味にされていたものに各国が手を掛けだした。

 国と国を繋ぐ各種インフラの整備である。


 これまで連合の中での大国同士や、あるいは元より同盟関係にあった国との街道や橋がある所も珍しくはないが、逆に国防上の理由などで作っていなかったり粗末な物に留めている所も珍しくない。


 一部の加盟国が交易などのために道を整備しようとしていたのだが、各国バラバラに音頭を取ってもその質も規格もバラバラ。

 馬車が三大並んでも平気な大きさの石畳街道を通って隣国領に入った途端に、馬車一台がやっとの土を叩き固めただけの道になるなんて事もざら。

 国境でそれぞれが作った街道が噛み合わずに、商隊が却って離れるという事例も少なくなった。


 その上に道の普請のために雇った村民や自由民の給金も国によって差が出て、それにより民同士の衝突も起こったため、連合議会において街道整備は議会直々に『統合整備委員会』を組織。


 街道作りをゴエティア連合そのものの一大事と規定し、直々に整備計画を指揮し始める。

 これが今からおよそ二十年前の事である。


 今この時にも街道は広げられ続け、その普請のための人足は雇われ続け、出来た街道には定期的な修繕補修と警備が必要になる。


 まぁ、長々と説明したがつまり――


(騎馬警察を始めとする街道整備計画周りは今後数年は確実にお金が稼げる上に、道というインフラが関わる以上、もし少し深い所まで食い込めれば、食いっぱぐれる事は絶対に無くなる! だからただのパイプ役でも問題ないと言えば確かに問題ない!)


 要するにこれから確実に金になる美味しい稼ぎ場なのだ。

 特に街道警備のための部隊など、ここから先増える事はあっても減らされる事はまずない。


「一旦彼女を呼び出したんだ。ここで下手に断って騎馬警察との関係をギクシャクさせるのもよろしくない」

「しかもやってることは、腐敗し始めていた騎馬警察の綱紀粛正に努めたってだけだ」

「……案外、騎馬警察の上層部も彼女を本当に優秀な人間だとして送りだしたのかもね」

「信頼していると?」

「加えて、これが本当に勧誘合戦ならば……こちらの人と成りを正しく把握するためにだとしたら?」


 カス二人の目的はモテる事――もっと言えば、自分の理想のヒロインとの理想の生活を手に入れる事だ。

 その切っ掛けとなるこの実習では、それぞれ四・五人の候補と仲良くなってから上手い事やっていた矢先にその枠は共有で三人までとなった。


 その貴重な三枠の一つを彼女で埋めていいのか。


 二人が思考を回す。私欲のために。


 それはもう必死に回す。ぶっちゃけ性欲のために。


「彼女の嗜好は、あくまで悪党に向けられているように見える」

「そうだな」

「つまり、我々にやましい所がなければ問題ない」

「そうだな」


 そうだな。

 ところで君らは鏡という物を覗いた事はあるかね。


(仮にも相棒が主人公なんだ、ピカレスクロマンみたいな流れにならん限り正義はこちらにある)


(ニーカさんは中々にやべぇけど主人公さんと組んでいれば悪党判定はまずない。そう考えればあの美人さんは極めて心強い仲間じゃん! じゃん!!)


(今は足場を固める方が先。騎馬警察とのパイプは今後間違いなく役に立つし、あるいはこの実習すら実はプロローグみたいな扱いかもしれん)


(まずは立場を安定させよう。ずっと一匹狼で通した上に次席っていう微妙な立ち位置なんだ、将来のために僕という存在に添え木が必要になっている)


((ニーカという女の信頼を得た上で騎馬警察のお偉いさんの覚えを良くして、何なら名家のお嬢様を紹介してもらおう。そうしよう))


 馬鹿二人、ここに再び奇跡の握手を交わす。

 互いに気付いていないが。


「なら問題ねぇ。要するに俺とアンタ、そしてニーカで真っ当な仕事を繰り返していけばそれで済む」

「同感だ。むしろ、背筋を正すための懐刀が入り込んできてくれたと考えよう」


 その懐刀、気が付いたら背中にぶっ刺さってるかもしれませんよ?

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