第2話:仲間が多いゲームはパーティにその人の癖が出る
この世界は、やや過酷な所がある典型的なファンタジーの世界である。
少なくとも、現代日本を体験してからこの世界で生まれた二人はそう考えている。
街を離れれば怪物が出没し、場所によっては盗賊が徒党を組んでいる危険地帯もある。
そんな中で起こるトラブルを解決していくとなれば当然必要になるのは腕っぷし。そしてそれを補佐する技能だった。
彼らが住む街はそういった技能を育てる学校が多数あり、そこに通う学生や教師、その生活を支えながら利益を得る町人たちで構成される大都市である。
「というわけで、我々はこのリストから二名を選び仲間に加えないといけないという事だが……」
そして彼らが渡されたリストは、学生の枠を超えて多数の技能を持つ上で彼らが通う学校の協力者として立候補、あるいは協力を承諾した者のリストだった。
「そもそも、ある意味でこのパーティは俺とアンタでもう完成してるっつってもいい」
「同感だ」
そんな中、リオ教官から渡された候補者リストを挟み、学園の自習室で二人の男が向き合っていた。
(クッソふざけるなよ。ここにきて主人公本人が登場だと!? ここまで俺がどんだけ苦労してきたと思ってんだ!!)
(ヤバイヤバイどうしよう。主人公? だよね? 僕よりも成績いいってか主席だしあれだけ苦労したのに僕と同じくらい強そうだし。かといってここで引いたらこれまで頑張ってきた意味が……)
お前らはまず自らの汚泥と向き合え。
(とにかく、今は俺の方が有利だ。なにせ俺は主席でコイツは次席。だが、仮にここが本当に創作の世界なら主人公の能力値なんざ経験次第でいくらでもポンポン上がる! それに主人公補正とかでいいなと思った娘を持ってかれたら――いや待てそもそも学年主席とかライバルからのモブ化一直線の立場じゃないか!!)
(僕と正反対の優等生タイプ。となるとそんなに強く出るタイプじゃなくて、周りに合わせようとする! どど、どうしよう、僕が好きな子は大人しい子だし意気投合しちゃったら……っ! そもそも次席なんて一番微妙な、人気投票で10番前後をウロウロする微妙な立ち位置になりやすいポジション!!)
((だったら! キャラとして主導権を握るには今しかない!!!!))
運命は、馬鹿と馬鹿を引き合わせるのかもしれない。
「クオンだったか。お前さんは誰かいいと思う奴はいねぇのか? リストには一応戦闘要員から後衛……それどころか非戦闘員まで広くいるが」
「そういうユートはどうなんだい? 前衛職というなら、こういう人員が欲しいという希望は強いんじゃないか?」
((――で、主導権ってどうやって握ればいいんだろう?))
……コイツラ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「とにかく、教官たちが密度を高めた高難易度の依頼で固めると言うのならば、最低限自分の身を守れるだけの技能は必須条件だ」
「そうだな。自分さえ守れるんなら何も言わねぇ。攻め手は正直俺とアンタだけで釣りが出るだろうさ」
とにもかくも共に実習に当たるメンバーを選出して勧誘し、教官のリオに実習班員の登録書類を提出しなければならなかった。
実習内容はその時民間や各地の役所などから出されている依頼によるが、その中でも高難易度を優先して回される事になるのだ。
(クソッ! 目についた女の子の技能によっては荒事全削りで金儲けなりスローライフなりで査定で問題視されない程度にのんびり過ごすつもりだったのに!!)
クオンにとって、無駄な争い――リスクの一切ない雑魚狩りなどはともかくとして――は好むものではない。
月に一、二度くらい周囲の普通の技能者が恐れるくらいの敵を倒して賞賛の目線を浴びる程度でちょうどいい。そう考えているのだ
「そういえば主席さん」
「クオンでいいさ、ユート。なんだい?」
「アンタは魔術系の技能を固めてるってのは聞いたけど、実際どこまで出来るんだ?」
目の前の敵性存在を倒すというシンプルな目的に特化した前衛職に比べて、魔術師は出来る範囲が極めて多い。
そのために通常は役割を明確にした呼称が付いている。
回復に特化しているのならば
単体から少数の敵性存在に対する攻撃術師ならば
三桁以上という中隊規模以上の相手を攻撃できるのであれば
「基本的に私の技能は回復系と増強系に特化している。怪我の手当から一部の
「? 珍しいな。他はともかくこの学校なら攻撃系に特化する奴が多いと思ってたんだが」
「だからこそ授業での実習時に、緊急事態に即応できる人員が余りに少なくてね。その上で戦えるようにと鍛えていたらこうなったから……」
クオンはこの世界に生れ落ちて、ある程度の知識を得た時点で真っ先に習得すべきは回復系の技術だと決めていた。
その需要からコレを極めておけば大勢の人間からチヤホヤされるだろう――という思考が六割を占めるのは当然である。
コイツなのだから。
そして二割の理由は自らの美容のため。
成長してもし顔の造形が気に入らなければそれを整形する必要があるかもしれないと幼い頃から必死に鍛え上げていた。
コイツなのだから。
そしてもう二割は、自らの戦闘力を最高効率で鍛え上げるためであった。
「でもそうだな……やろうと思えば攻城級の魔術も使えるけど、学園へは
クオンの持つ魔術師のイメージとは杖を持った非力で、だが強力な存在であった。
だがクオンは、回復魔法技術の習得を優先させながら、自分がそういった存在になる事は耐え切れなかった。
―― 最前線を全力で守って後方を安心させてこその主人公だろ!?
―― 剣!? んな重い装備ぶら下げてたら可愛い要救助者が出た時に初動が遅れるだろうが! 鍛えるのならば拳第一!!
という思想の下に、回復魔術が自分の思う最低限のレベルまで物になった日から両手が駄目になるまで岩を殴り続けては回復を繰り返して、より効率的な殴り方を身体に馴染ませていた。
なお動機は以下略。
「……肉の付き方でなんとなく予想は付いていたけど、やっぱアンタステゴロ派か」
「一応他にも鋼線術とか……それと剣とか槍みたいな武器も一通りは使えるようにはしているけど、こっちは本当に補助。君達みたいな本職のプロには敵わないな」
嘘である。
確かにユート相手には苦戦するだろうが、そこらの自称プロ程度ならば容易く蹴散らせる。
確実に格上の一部教官相手ならばともかく、そこらの奴にはわざとに見えないように一本か二本は譲っているため、剣術上位に入り込んだ珍しい魔術師程度で済んでいるだけの話だ。
「そういう君は
「ああ。一応簡単な
一方でユートは、自分が万能ではないことを理解していた。
多種多能な術があり、手札が増えれば増える程選択の手間が増えるのは絶対に自分を
体力作りとして重い装備を身に付けたままの走り込み。
どのような装備でも振るえるようにするための筋力作り。
毎日剣を振るって自分の身体に馴染ませ、グリフォンやマンティコアのような大型クリーチャーの討伐依頼が耳に入れば率先して参加し、着実に経験を積み上げ単独でも容易く討伐できるまでに鍛え上げた。
「剣に比べりゃ相当腕が落ちるが一応槍や斧、弓なんかも使えるようにしている。魔術師のアンタほどじゃあないだろうが、役に立てる場面は多いと思う」
まず戦闘面は全てコイツに任せていいレベルなのである。
「なるほど。確かに戦闘面に関しては自分と君だけで十分そうだな」
だがクオンは譲らない。
戦闘における活躍こそ主人公の華である。
少なくともクオンはそう信じている。
ユートもだ。
「となると、どのような人員で組むかというより、どのようなチームとして功績を上げていくかという話になっていくかな?」
「いっそ金儲けに専念してみるのはどうだ? それはそれで楽しそうだ」
クオンはユートの思わぬ提案に、内心で同意しそうになった。
訓練や授業の中で見かけた好みの子は非戦闘員の方に多かったという不純な動機でだ。
(よし、好感触だ! ここでなんとしても!)
一方でユートは必死だった。
(なんとしても!! なんとしてもここで普通の子を!!!)
剣術科を始めとする戦闘学科の女子は、中身チキンのユートからすれば会話を続けるだけでも苦痛なオラオラ系が多く苦手だったのだ。
だからこそ、なんとしても普段関わる事がなかった非戦闘系の女の子との繋がりを作っておきたかった。
付き合うことが出来なくてもいいから。
他の子とのパイプ役になってくれるような子と知り合えればそれでいいから。
顔が好みから遠くてもいい。
せめてチーム内での癒しになってくれればそれでいいからと。
お客様の中に手頃な大きさの石をお持ちの方はいらっしゃいませんか?
頭部目掛けて投げつけてやってください。
「経営学科みたいな、実習などで商会や大型店舗とパイプがある人間を勧誘するのはありかもしれないな」
「だけど自衛はできるのか? 常に学内やらどこかの拠点にいて依頼やら金周りを任せるってんなら分かるがよ」
普通ならばすぐに人集めに入ってもいい案なのだが、クオン達の実習は高難易度案件に特化した物になる。
そうなるとさすがの二人も人選にはかなり気を使わなくてはならない。
「最低限の自衛技術を持っていた上で経営など金に関わる所を希望するとなると、街から街へ移動する者など限られる」
「……そうか。商隊希望者か」
この世界では町と村落を繋ぐのは基本的に馬車である。
無論普通の馬車だと狼なり魔物に襲われるので、馬を弱い魔物や狼なら近づかない魔馬を飼い慣らして引かせたり、あるいは護衛を引き連れて横断している。
これが国家間ともなれば、多大な量を運ぶために鉄道車両による輸送になるのだが、鉄道を敷くほどの距離にない所では未だに多くの商隊が行き来している。
「護衛を雇えば金がかかる。魔物が避けるような魔獣は高い。ということで自衛手段を磨いてから卒業後に商隊に参加する者は少なくなかったハズ。リスト内からそういう希望者を見つけ出そう」
(主人公様が男選んだら適当な理由つけて落とすか。それとリストパラ見した時はちょっとしか目ぼし付けてなかったけど、可愛くて優秀なの確かいたし)
世が世なら屋上から突き落としても許されるレベルの暴言を脳内で出力しながら、クオン(カス)がファイルされた候補者一覧リストを手に取り、次々にめくっていく。
(ちゃんと選ばなきゃ。採用してもおかしくないレベルの商隊希望の女の子。コネは考えなくていい、商隊希望者なら交友関係は広いハズだから次に繋がる可能性は十分にある。ともかく初手は堅実かつ最低限の目標を達成させた上で――)
そして世界とか時代とか関係なく姑息に立ち回ろうとしているガワだけワイルド野郎。
二人のクズがリストに記載されている名前と顔写真、そして各個人の習得している資格や過去の実習成績と向き合おうとし――
「ねぇ、ユート君」
「ちょうどいい、俺も聞こうかちょっとためらった事がある」
数ページめくった所で二人は気付いた。
「「女の子しかいなくない??」」
おい片方、中身が漏れてんぞ。
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