自分を転生した世界の主人公だと思ってたら本物がいた×2

rikka

第1話:台詞選ぶ系の主人公は大体2パターン化する

 ヒロイン。

 それは物語において重要な立ち位置にいる女性を指す言葉。


 ヒロイン。

 それは、そのデザインだけでも作品に多大な影響を及ぼす偉大な存在。


 健全な思春期の男子ならば、手に取ったゲームのパッケージに、あるいは覗いた公式サイトのヘッダー等のイラストにかわいい女の子の姿を求めるのは当然だろう。

 あるいは、その子の姿で購入やダウンロードを決めることも。


 ……さて、ここにとある異世界がある。


 剣と魔法、ついでに銃やら不思議キャノンなどが活躍するファンタジーな、それこそゲームのような世界である。


 そんな世界に紛れ込んだ男が、ここに一人。


 クオン。


 前世名、佐藤。


 生前はどこにでもいた、ごくごく普通の高校生。


「おはようクオン君。今から朝食ですか?」

「あぁ、おはよう。よかったら一緒に行くかい?」


 それが今では、かつて様々な空想の世界での理想の自分へ近づけようと磨き上げた、ごくごく普通のとあるファンタジックな学園の学生の一人――


(ちくしょう、どいつもこいつも気安く俺の名を呼びやがって……なぜかクオリティ高いモブ女ならともかく、モブ男風情がこの俺に気安く挨拶なんぞ……もっとこう、こんな朝早くからクオン様に出会えて光栄ですみたいな感じもっと出さんかいワレコルァ)




 ――おおっとコイツは腐ってやがる。







◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇







 この世界では、ファンタジー世界によくあるような大戦争の類は起こっていない。


 だが、魔法のような誰でも簡単に武力を持ち得る世界では武装盗賊などの火種も多く、さらには現代社会には存在しない魔物という問題が、こちら側の社会を脅かしていた。


 それらに対応するための人材は常に求められ、そういった人材の育成は急務とされている。


 そのため戦闘やそれを支える技術はもちろん、それらを持つ人材を的確に運用するのに必要な学問を習得させるための特殊な学園アカデミーが都市部はおろか地方にまで建てられる事になる。

 それらは将来的に危険ではあるが確実に職に就けると、土地を引き継げない農民や中途半端な貴族の次男坊などには人気のとなっていた。


 そんな中、伝統の長いとある学園の五回生にして主席を務めるクオンの朝は早い。

 意外に早い。

 中身汚泥まみれの下痢糞野郎にしては。


 陽が顔を出し始める少し前に起床し、簡単に身だしなみを整えてから早朝の体力作りやその他トレーニング。

 その後シャワーを浴びてから制服に着替えて、鏡の前でギリギリまで身だしなみと格闘。

 これが授業に向かうまでのクオン(前世名:佐藤)の日課である。


「あぁ……中級回復術師の必修試験が近いのか」

「うん。それで最近、実技試験の対象になってる魔術の練習と座学に力入れてるんだ」

「徹夜は効率落ちるだけだぞ、レイ。目の下にクマが出来ていると思ったら……まったく」


 童顔,中性的という言葉が似あう学友――レイに、クオンは心配そうに言葉をかける。

 こう、いかにもハーレムとか築いていそうな主人公っぽい優しい声(意識している)で。


(えぇいこのバカが! 徹夜なんてしたら効率落ちるしお前の肌にも健康にも悪いだろうが! ほどほどに顔が良くて中性的なお前は俺のそばに置いてバランスいいから友人付き合いを許してやっているというのに!)


 内心で勝手なゲスいんだがそうではないのかよくわからない怒りを爆発させながら、同時に自分がそういう相談をあまりされた事がない事という事実に気が付き、笑顔の仮面の下でさらに考え込む。


(早く相談すれば効率的な暗記法とか魔力の構成や発動時のコツとかアドバイスをくれてやったものを……成績や実績はキチンと積んできたつもりだし、人脈作りも手を抜いたつもりはないつもりだったが……ちっ、改善点の一つだな)


 クオンとしては、頼りにされる先輩キャラを理想形として自分を磨いていた。


 頼りになる、頼りにされる人物の第一条件として当然自分の能力は磨いてきたし、イヤミにならない程度にそのアピールもしている。


 その結果さまざまな場所から仕事の依頼が来ることは確かに増え、それが自分の評価につながっていることに満足していた。


(中級回復魔術の必修試験……この時期だと外科的回復術試験か。確かB級ヒーラーの認定試験受けるのにもコイツのパスが必須項目だったから、それ狙いか。試験は年に二回。ここを落とすと今度は秋先まで待つ必要が出てくる……ふむ)


「自分は総合ヒーラーの特級資格を持っている。放課後でよければ自分が勉強……というか、コツのようなものなら教えてあげられると思うが、どうだろう」


『ハッハー! 同学年なのに俺はとっくにお前の目的達してるどころか超えちゃってるんだぜふっひゃーーーー!!!!』


 という内心の嘲笑を隠し、どうにかイヤミにならないよう言葉を選んだ(つもりである)セリフを口にする。

 クソがよ。


「え、いいの? クオン君っていつも教官や先輩のお手伝いで忙しそうなイメージあるけど」


 金の髪を持つ、女性だと言われれば誰もが納得してしまいそうな程に可愛らしい少年は、心配そうな顔で首を傾げる。


(クソぁ! チヤホヤされても年下からの頼まれ事が少ない原因はそれか!)


 クオン。ここに来て遠まわしかつネチネチした『偉い人に頼られている自分凄いだろアピール』作戦が多少とはいえ自分の足を引っ張っていたことに気が付き、脳内ですばやく今後のアピール計画に修正を加える。


 控えめに言ってくたばれ。


「あぁ、問題ないさ。それに回復系の魔法はここのところ使ってなくて不安でね。私自身の復習にもなるしちょうどいいのさ」


 嘘である。


 外見の手入れを怠ることは人生の六割を捨て去ることに等しい。

 かつての経験からそう考えていたクオンは、日夜服装以外でも己の見栄えを少しでも映えさせる努力を惜しまない。


 スキンケアのための回復魔法の改良研究だって毎日欠かしたことはなかったし、美容維持のために内蔵の働きも万全にするため、きわめて難しいとされる魔術による内科処理も可能なレベルに鍛え上げた。


 モテるために。


 モテたいがために。


 己の目と感性にドンピシャで当てはまる、自分自身のヒロイン・・・・と付き合うために。


 気を抜けば自分の脳を犯し始める怠惰を全力で切り捨てて必死に取り組んだ。


 すなわち。


 この男、学園どころが世界で見ても上位に入る回復魔術の超エキスパートである。

 資格試験などパスして当然である。


「そっか。うん。それじゃあお願いするよ」

「あぁ、任せてくれ。必ず君を試験に合格させてみせるさ」


(そしてこの恩を絶対に忘れるんじゃないぞ? そしてこの俺の役に立ってみせるがいい。具体的には俺が口説くときとかなぁ!!! フハハハハハハ!!!!)


 急募、このゲス野郎に天誅を下せる人材。







◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇







 クオンという男は自分の目的のために必要なもの、手に入れなければならないものが三つあると確信していた。


 その中で三つの中で最も重要視しているもの。それこそが『人脈』である。


 これこそもっともクオンにとって大事なもの。

 なにせ、彼の目的は強くなることでも好成績を残すことでもない。後世に名を残す? 論外である。


 そんなものより素敵な出会い! 素敵な恋! 素敵なドラマに素敵な結婚に素敵な生活!

  すなわち素敵な人生!

 

 そのためには、自分が目を付けた女の子とその周囲に気を配り、良好な関係を保つ必要がある。


「さて、学友との自習中に呼び出してすまないクオン」


 同時に自分の周囲に対しても誠実で、かつ隙を見せない必要があった。


 中身が汚泥まみれの汚物だとしてもそれを微塵も外に見せず、むしろ被った人格を自己暗示の領域で一体化させようと日々努力していた。


 そのような男が年長者――特に教師や教官からの呼び出しや頼みを断ったりエスケープするなど論外中の論外である。


「いえ、リオ教官。レイとは基礎範囲の座学を終えたところでしたので問題ありません」


 それが、この世界で出会った中でも屈指の美人とあればなおさらである。


「そうか。レイは才能があるし人格も誠実そのものだが、自信のなさで今一つ伸ばしきれない所があるが……君が付いてくれるのなら大丈夫だろう」


 クオンがいた現代でのパンツスーツに近い服装に身を包んだ、男装の麗人とでもいうべき美人は足を組んで微笑んでいる。


「さて、レイの資格試験合格がかかっている以上さっさと本題に入ろう」


 割と好みの女性であるために、口説くつもりこそなかったが気が付いたら話し込むようになった女性教師からの話となればクオンの気合も入る。


「我々教師陣としては一刻も早く、君のような優秀な人員を世に送り出したいと思っている」

「? それは、自分の卒業を早めるという意味でしょうか?」


 この瞬間、クオンは頭の中でこの美人との関係に波を立てない上手い断り方を全力で模索していた。


 なにせまだ碌に出会いを経験していない以上、これからある程度自由になれるというタイミングでこの町を離れるのはクオンの戦略を大きく揺るがすものだからである。


「正直それでも君はやっていけると私は思うのだが……他の教員達は、若すぎると言って反対でね」

「当然です。確かに一応十八は越えましたが、実習数はまだ足りていないんですよ?」


 正しくは調整していたである。


「実習や実践の濃度は現役の戦闘技能者並みに濃ゆいと思うが……」


 リオ教官はクオンの戦績証明書の束をパラパラとめくって苦笑してみせる。

 クオンはその笑みに、もし卒業が避けられなかったらここに就職して教官を全力で口説こうと密かに誓う。


 地獄の皆さん、獄卒役としてコイツ今すぐ地獄に引きずり込みませんか??


「まぁ、彼らも君と同じ意見でね。下手に授業や訓練を飛ばして君に犬死されたら困るというわけさ。最低でももう一年は……とね」

「では?」

「あぁ、今から再来年の春までのおよそ一年半の間、君には少々特別な実習を受けてもらうことになった」


(キタキタキタキターーーー! ビビらせないでくれよ教官!!)


 外側も内側も落ち着いている教官のリオに対して、クオンの内心は狂喜乱舞していた。

 なにせずっと自分が待ち望んでいた、クオンという主人公が本格的に主人公ヒーロームーヴを始める時が来たのだ。


 この学校で一定の成績を越えた者は、おおよそ一年から二年間、盗賊や魔物の討伐、あるいは護衛といった実務経験を積むための特別実習が課せられる。


 その実習の間には、自分が選んだ人員をチームに誘うことが出来る。

 無論、相手の意向があってこそだが、このパーティに選ばれた学生はその間に挙げた実績はそのまま評価に加点されるため、人間関係に問題さえなければ断られることは極端に少ない。


 そうして実際にチームを組んで討伐や制作、販売などで実利を生み出せるように運営する事が求められるのだ。


(なにせこっちは主席! 大抵の任務なら問題ないことは無理やり組み込んだ高難易度実習で確認済みだし、メンバーにも十分なポイント稼ぎをさせてやれる! どんな子でも選び放題だってんだポォォォォォォウッ!!)


 死ね。頼むからそのまま死んでくれ。

 出来るだけ惨たらしく。


「どうした、クオン?」

「いえ。実習が始まるとなれば、依頼さえあれば教官の雑務を多少はお手伝いできるかも、と」

「はっはっ! そういえば君には度々仕事の愚痴をこぼしていたな」


 伊達にこれから先必要になるかもしれない無茶のために、全力で信頼を得る努力をしたクオンではない。

 多少不審な点があってもそれを即座に払拭することなど朝飯前である。詐欺師がよぉ。


 自分の愚痴をイチイチ覚えていたことが恥ずかしかったのか、あるいは嬉しかったのか小さく頬を緩めるリオ教官。


 しっかりしろ。目を覚ませ。

 目の前にいる奴の輝きは真っ黒でテカテカしてる虫のソレと変わらん。


「大方のところは察しているようだが、一応説明しておく。君にはチームを組んで、より実践的な活動に専念してもらう。言ってみれば、実績とコネ作りだな」

「はい、了解しております」


(さて、誰を選ぼうかね。仲のいい女子もいないわけじゃないが、アイツらは普通に友人だしなぁ)


 出来るだけ女の子で集めるか、あるいは優等生キャラのために問題なさそうな男を混ぜるか。

 クオンは前々から温めていた『ぼくのさいこうのちーむ』計画を実行しようとし、


「選考メンバー数は三人だ。このリストの中から後で選んでくれ」

「……三人、ですか?」

「うむ、そうだ」


 ここでクオンの頭の中に大きなクエスチョンマークがつく。

 まず人数が少ない。

 色々と愛想よくして情報源としていた先輩から、彼女が長期実習を受けた時には、『適当に四、五人くらい連れていける』と聞いていたのだ。


 その際に特に縛りはなく、本人の参加意思に加えて学校側が許可を出せば誰でも――それこそ街の花屋の店員だろうと連れて来れたハズであった。

 リストアップされているという話も聞いたことがない。


「通例の実習に比べて、チームメンバーに制限があるようですがコレは?」

「む、やはり情報収取を欠かしていなかったか。……ああ、君自身の事だ。順を追って話そう」


 リオ教官は細身のスラックスを身に付けているためにラインが強調されている足を組み替え、言葉を続ける。


「本来ならば人材を見極め、選んだ人材と共に責任を持って依頼や任務をこなす事を経験してもらうために自由に仲間を選んでもらう所なのだが……君は優秀だ。先日も下級生の郊外実習中に発生した武装盗賊団の撃破、制圧に多大な貢献をしている」

「……正直、あれほど焦った事はありませんでしたが」


 嘘である。

 この男、下手に力をつけすぎたせいで盗賊や魔物の襲撃を名声と好感度のボーナスタイムと考えているところがある。


 中堅クラスの魔術師を多く擁していた盗賊団を華麗に撃破したという情報を他人の口コミを上手く利用して広くばら撒き、適度にチヤホヤされるのを楽しんでいた。


「そのために、君の長期実習に外部から口を挟もうとする者が多く出たのだよ。軍高官や貴族といった名家が、息子や娘と組ませてくれ、と」

「随分と無茶を言いますね。この学園はゴエティア連合国の一機関だというのに」

「まったくだ。……まぁ、入ってしまえば碌に会えない息子や娘に、少しでも安易な道を用意してやりたいというのも分からなくはないが」

「はぁ……」


 なお、それが好みの美女美少女であれば別に構わなかったというのが本心である。

 むしろお偉いさんの子供というのならば、それが男であっても顔つなぎしておきたかったと思っている俗物である。


「あまりにも多くの要望が出たため、君の実習は本人の実力を加味したより実践的かつ実験的な、平均よりもハードな実習であるとして黙らせたのさ。実際、いくつか高難易度の依頼を受けてもらう予定だったからな」

「……それでも建前だったのでは?」

「そのハズだったのだが……少々話がややこしくなった」


 本当に面倒くさそうな顔をするリオに対して、クオンは表情を穏やかなまま固定することに少し苦しんでいた。

 油断すれば、人前では絶対に出したことがない苦々しさ100%の顔が出そうになるからだ。


「近年、我が校で育成している戦闘技術を修めた人材の需要が爆発的に伸びている。気の早い所だと街道整備隊や騎馬警察、連合治安維持局。対魔物戦を主とする降魔隊、海上警備隊といった面々は、多少卒業を早めてでも人材を回せと理事会に圧をかけている」

「……連合に加盟していらっしゃる各国政府のお偉方の視察が妙に増えていたのもそういうことでしょうか?」

「そうだ。基本的にここは政治からは独立した教育機関であるのだが……残念な事にゼロというわけではない」


 実際、圧力と取られるかどうかギリギリの要求や要請はゴロゴロ来ていた。

 そういう話を、リオは一度クオンに零したことがある。


「そこで基礎課程を終えた者への実習などの密度を高め、卒業までの段階を短縮する教導課程の作成に入る事になってしまったのだ。無論、今すぐにという話ではないが……」

「では、私の実習が?」

「そうだ。申し訳ないが君の実習は同時に、より高難易度かつ高密度な実習のテストケースも兼ねる事になってしまった」


(……密度はともかくとして、高難易度となるとさすがに多少は人員を選ばないと不味いな。クソゥ、組んだ子によっては緩く楽しくやろうと思っていたんだが……)


 仕事と女との遊びなら、迷わず女との遊びを取る男である。

 無論、自分が不真面目と思われないように全力でペラと手を回して。


 ある意味健全ではあるのだが、この男は性根が健全ではない。


「まぁ、今回はあくまでデータ取りだ。ただ、初の試みという事で万が一が無いように、選ぶ二名とは別に教師陣からの推薦を一名、それと外からのお目付け役が一名付く事となったのだ」

「……制限が付いたのはそういう事ですか」

「うむ、共に活動することになるためだな。特別優秀な君だからこそとも言える。初の実戦に赴く新人や低ランク戦闘技能者を守りながらの実習というシチュエーションでも考えられていたのだが……」


 ふぅ……とリオがため息を吐く。


「ヴィクター教官がな」


 そうして彼女が出した名は、徒手空拳を得意とするクオンがそれでも武器取り扱いの単位が必要だと言う事で授業を取る事になった剣術学科の初老の教官の物であった。


「練度の低い戦闘技能者の世話をさせるよりは、選りすぐった同格の生徒と共により高難易度の実戦で磨くべきだと強硬に主張されてな」


(あ、あのヒゲジジィィィッ!!! やりやがったな!!!?)


 ヴィクター教官は、決してクオンを嫌っているわけではない。

 むしろ魔術師として自身を磨きながら剣の鍛錬でも手を抜かず、しかも上位に与しているクオンに対しては下手な生徒よりも愛情を持って接している。


 ただ、愛を持った指導をその当人が有り難がるかどうかはまた別の話というわけだ。


(クソが! この間ようやく三本先取戦で貴様に勝ったのがそんなに癪に障ったか! なんて心の狭いジジィだ!!)


 むしろ死ぬほど嬉しかったからである。


――トンッ、トンッ。


「む、もう一人が来たか」


 そんな時に教官室の扉がノックされる。


(音源の高さからして……身長は170ちょい越えくらい。ノックのキレの良さと響き方を聞くに手元をガッツリ鍛えている……前衛型のお手本みたいな奴か)


 実戦時に味方の被害をゼロにするために磨いた状況判断の力が、ドアの向こうの相手のおおよその能力をクオンに伝える。


「魔術系の授業を主としているお前とはあまり接点はないだろうが、近接戦闘の授業において非常に優秀な成績を出し続けている生徒だ。……少々問題児だがな。『ユート』、入りたまえ」







◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇







 さて、ここにもう一人男がいる。


 名前はユート。前世名:石川。


 生前はどこにでもいたごくごく普通の高校生。


(クソクソクソ! 絶対何かのゲームの世界だと思ってそういう主人公っぽいロールプレイを通して頑張ってきたのに! なんで本編っぽい自由な実習課題に制限が付いてるのさ! 僕より顔のいい男は皆死ね! 出てくんな!!)


 そしてコイツもたいがいクソ野郎だった。


 神様ちょっとコイツラの頭にちょうど死ねるくらいの大きさの隕石落としてください。


「なんだよリオさん、そこにいるのが俺の仲間になるってやつか?」

「ユート、教官と呼べと何度も言っているはずだぞ」


 クソ野郎度ではクオンとどっこいどっこいのこのスットコドッコイは、だが外面部分では違う方向で猫をかぶっていた。


「わかっちゃあいるんだけど、どうにも慣れねぇんですよ。敬語ってやつぁ……」

「まったく、お前は優秀なのにそういう所で減点されているんだぞ」

「けっ」


(ひぃっ! 教官の睨み方相変わらず超綺麗だけど超怖ぇ! ……で、でも本来の主人公もこういう口調で許されてたし、それなりに教官とはコミュニケーション上手くいってるしなんとか……あ、ちょっとトイレ行きたくなってきた。お腹が……)


 こっちのバカはノミ程度の心臓としかいえない小心者でありながら、わざわざ強気系キャラを全力で演じていた。

 そっちの方が主人公らしいという理由だけで。

 それだけで。

 馬鹿である。


「教官、彼は?」


 一方でクオンは、唐突に背後から聞こえてきたイキリ野郎っぽい声に顔を嫌悪でしかめそうになるのを必死に堪えてまっすぐリオの方を見ていた。


(まさかコイツが俺のチームメイト!? こんな腐れイキリ野郎が!!?)


 おう、お前も腐っとるんやぞ。


(えぇい我慢、我慢だ俺。チーム組むのが決定しているなら空気を悪くするなど言語道断問答無用あってはならん! 気に入らなくても受け入れて個性を把握して上手く回していくのが俺の仕事!!)


 丁寧な口調のお兄さん系主人公とは誰に対しても慈愛に満ちていなくてはならない。

 誰に対しても歩み寄り、理解を示してその力量を十全に発揮させる。

 自分こそが主人公だと信じるクオンにとって、自分はそういう存在であると定義づけていた。


「すまないクオン、紹介が遅れた。彼はユート。前衛系技術のプロフェッショナルで、戦闘技能だけで言えば君に並ぶ男だ」

「……だけで言えば?」

「彼は少々、協調性というか団体行動が苦手でな」


 ジロリとリオがクオンごしにユートを睨むと、ユートは小さく舌打ちをする。


「先日の強盗団の討伐依頼でもまた単独で突入したらしいな? 敵にも味方にも死人を出さなかったのはさすがだが、さすがにそろそろ団体行動を覚えろユート」


 教官リオの小言に、ユートという男はぶっきらぼうに「気が乗れば」とどうでもよさそうな返事を返す。


(しょうがないじゃん! 毎回死にかけてればそのうち僕でも胆力も付くかと思ってたんだもん! 本編っぽいチーム実習が始まるまでにビビりでもカッコよく動けるようにならなくちゃいけなかったんだもん!!)


 なお内心はコレである。


「オレに合わせられる奴がいねーんスよ、そもそも」


(かといって人殺しとか絶対にイヤだし無理だし!? でも全力で技量上げないと殺すか殺されるかレベルになってしまうし!? そんなんになるくらいなら僕が技量レベル上げて物理でぶっ飛ばしたほうがはえーし!!?)


 コレである。


「それにはまぁ、同意する。だから今回、二人にはコンビを組んで実働部隊の運営をしてもらうことになった」


 もう話を聞かされていたクオン。

 だいたいの話の流れを察したユート。


 両者の頭の中にあったのは、


(前衛のプロだぁ? 見りゃ一発でわかるわ。肉付きからして前衛連中の99%を占める筋肉馬鹿共とは違う。動きやすさも含めて十分に計算されつくした筋肉のつけ方。肩や手の様子からして銃火器どころか弓まで使えると見た……。どっちの腕も、下手な教官よりも上だな)


(単位の管理が難しい魔術系で主席を取ったって話だけでもヤバいけど……なるほど、前衛をただの壁と考えている大抵の後衛職連中とは違う。単純な身体能力はやや僕が上ってくらい。……身のこなしからして、技術面でも相当経験を積んでいる。いやそれも大事だけど)


 互いの能力の高さに対する静かな驚きだった。


 まずは観察できる範囲から互いの能力を推察する。


 伊達にそれぞれ主席、次席を務めているわけではない。


 かなり正確に互いの力量を把握し、その最高に近いレベルに鍛え上げた互いの鍛錬に内心小さな敬意と大きなねたみと巨大なそねみを覚える二人。


 頼むからお前ら対消滅してくれ。

 そして――


(着崩しているけど服そのものからは汗の匂いがしない。シャツにも汗なんかで黄ばんだところはないし、パーフェクトと言っていいバランスで磨いた肉体と、それに合わせたワイルドな顔立ち)


 そして、今度は互いの顔と着こなしを確認する。


(ザ・優等生って感じにキッチリ制服のブレザーを着こなしているし、袖口に目立たない程度の飾り刺繍。ネクタイの締め方も綺麗だしアクセサリー類も目立たない程度にこの人の上品さをアピールしている。滅茶苦茶お洒落だ。なにより――)



((普通に顔がいいなコイツ))



 そこか。



(前衛志願者なら訓練でどうしても汗と埃まみれになって不潔な印象が出てしまうのに、それどころか体臭も感じねぇ。くわえてガッツリ手を入れていると感じさせるかどうか微妙なギリギリラインの髪の具合。自然にこうなってるんだとしたらもはや選ばれた存在としか思えねぇ。つまり――)


 

(いかにも後衛職――魔術師らしく小奇麗にはしているけど……今まで見てきた男子生徒とは比べ物にならない。近接学科でここまで綺麗に鍛えている人は数える程。さっきこっちを振り返る時のしぐさも早すぎず遅すぎず、男の俺でもカッコイイと感じさせるものだった。僕も生まれ変わってからはお洒落に気を使っているし研究もしているけど、このレベルに到達できる自信ないよ。まさか――)






((コイツ、本物の主人公じゃね???))


 


 


 お前ら。

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