第8話


 ※※※


 あの日から、私は『マスカレード』を起動しっぱなしにしている。理由は勿論、東雲早月に戻る必要がないからだ。


「和人、朝ご飯はパンでいい?」


 坂本和人の母親が、キッチンから聞いてきた。


「ああ、うん。パンでいいよ」


「あいよ」


 母親が作った目玉焼きとベーコン、サラダとパンがテーブルの上に置かれる。


「いただきます」


 両手を合わせ、パンを口に運ぶ。


「……和人、あんた、少し雰囲気変わった?」


 母親が、若干の疑いを滲ませながら、そんなことを聞いてきた。


「そうかな? もしかしたら、彼女が出来たからかな」


 私はそう返し、パンを咀嚼した。


 それから暫くして、私の準備が整った頃、



「和人ー!」



 家の外から可愛らしい女の子の声が聞こえてきた。


 美羽だ。


 私は「それじゃ、母さん。行ってくるね」と言って、玄関に向かった。


「和人くん、おはよ!」


 玄関の扉を開けると、そこにはいつも通り、高校の制服に身を包んだ天使がいた。


 艶のある黒髪、陶器のような白い肌、くりくりとした大きな目、柔らかそうな桃色の唇、そして愛おしさが沢山詰まった小さな身体。その全てが、完璧過ぎるほどに調和している。


 私の自慢の恋人だ。


「おはよ、美羽。今日も可愛いね」


「ありがと。和人くんもいつも通りカッコいいよ!」


 そう言って、美羽は私の腕に抱きついた。


 腕に伝わる柔らかさ、鼻をくすぐる甘い香りに、自然と鼓動が早くなる。


「行こっか」


「うん!」


 私はいつもと同じように、美羽と一緒に高校へ向かった。


 この幸せを一生守り続けてみせる――そんな決意を胸に抱きながら。

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