第7話


 ※※※


 学校の裏庭、大きな桜の木の下で待っていると、私服の坂本和人が姿を現した。


「東雲さん、美羽に関する話って?」


 どこか違和感のある声で、坂本和人はそう言った。


 そんな坂本和人の腹部に対して、私は持ってきていたナイフを思い切り押し込んだ。


「東雲……さん……?」


「美羽は私のものだから、返してもらうわよ」


 ナイフを引き抜くと、坂本和人の身体から噴水のように鮮血が飛び散った。


 そして、倒れ込んだ坂本和人の身体に馬乗りになり、何度も何度もナイフの切っ先を突き立てた。


 絶対に生き返らないように、美羽の心を奪った恨みを乗せて。


「はぁ……はぁ……っ」


 立ち上がり、血みどろになった坂本和人を見下ろす。


 ここまでやれば、流石に生き返ることはないだろう。



「なかなか大胆なことをするねえ」



「っ⁉」


 振り返ると、そこには『マスカレード』をくれた老婆が立っていた。


「どうしてここに……」


「第六感、みたいなものかね。そんなことより、その死体はどうするんだい? 処分の当てはあるのかい?」


「この桜の木の下に埋めようと……」


「桜の木の下に死体を埋めるのは定番だね。だが、一人でやるのは大変だろう。ワタシも手伝ってあげよう」


 そう言うと、老婆は私の方へ歩き出した。


「どうしてそこまでしてくれるんですか……?」


「アンタがワタシに似てるからかね」


「私が、貴方に……ですか?」


「手に入れたいもののためなら、なんでもやる。その考え方は、ワタシにそっくりだ。だから、つい手を貸してやりたくなるのかも知れないね」


 そう言うと、老婆は桜の木に立て掛けておいたスコップを手に取った。


「さ、さっさと片付けよう。いつ人が来ないとも限りないからね」


「は、はい」


 この後、私は名前も知らない老婆と一緒に坂本和人の死体を桜の木の下に埋めた。


 私の、東雲早月としての人生と一緒に。

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