第5話


 ※※※


 老婆から『マスカレード』を受け取った翌日、私は坂本和人に成り代わり、美羽の家に向かった。


「え、和人くん⁉ もう、来るなら来るって先に言ってよー!」


 玄関から出てきた美羽は、私の顔を見て嬉しそうにそう言った。


 やはり、美羽には私が坂本和人に見えているらしい。『マスカレード』は正常に作動しているようだ。


 私は心の中でほくそ笑みながら、一方で少し傷付きながら、美羽に対しては自然な笑みを返した。


「ごめん、ごめん。急に会いたくなっちゃってさ」


「嬉しい! わたしもちょうど会いたいと思ってたの!」


 そう言うと、美羽は私の手を握った。


「で、今日はどこに行くの?」


「そうだな。まずは腹ごなしでもしようか」


「賛成!」


 この後、私と美羽はファミレスで食事を取ってから、映画を見て、カラオケで歌い、街をぶらついてから帰路についた。


 そして、


「美羽」


「……っ」


 私は美羽の家の前で、彼女の唇を奪った。


 感情の赴くまま、坂本和人に奪われるよりも先に。


「それじゃ、また明後日。学校で」


「う、うん」


 顔を真っ赤にした美羽が家に入るのをしっかりと見届けてから、私は『マスカレード』を解除し、自宅を目指した。


 本物よりも先んじた、濃厚な優越感に浸りながら。

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