第2話


 ※※※


 私が物心つく頃には、五歳以上の人は皆、脳に『同調器SAME』と呼ばれるチップを移植するようになっていた。


 身分証明、健康管理、メッセージのやり取り、調べもの、決済から納税、助成金の受け取りまで、全て『同調器』にインストールされたアプリを通じて行われるため、現在では『同調器』の移植に掛かる手術費用は全て国が負担している。


 勿論、私も『同調器』を入れている。


 これを導入していないのは、一部の陰謀論者だけだろう。


「よし」


 ビジュアルアプリ――『スタイリスト』を起動し、お気に入りのメイクと髪型、学校の制服を視覚情報に反映させる。


 勿論、変化しているのは『同調器』を通じて見えている視覚情報だけなので、実際にはノーメイクだし、髪の毛には若干の寝癖がついているし、着ている服も真っ白なシャツとズボンだが、今時『同調器』を入れていない人なんて殆んどいないため、気にする必要はないだろう。


 いつも通り、キッチンにあるグロッサリーボックスから完全栄養食のパンを取り出し、それを口に放り込む。


 うん、美味しい。


 これも、『同調器』のお陰で美味しいと思わされているだけかも知れないが。



早月サツキー!」



 パンを飲み込んだタイミングで、家の外から可愛らしい女の子の声が聞こえてきた。


 美羽だ。


 私は「ちょっと待ってー!」と言って、玄関に走った。


「早月、おはよ!」


 玄関の扉を開けると、そこには高校の制服に身を包んだ天使がいた。


 艶のある黒髪、陶器のような白い肌、くりくりとした大きな目、柔らかそうな桃色の唇、そして愛おしさが沢山詰まった小さな身体。その全てが、完璧過ぎるほどに調和している。


 私の自慢の幼馴染だ。


「おはよ、美羽ミウ。今日も可愛いね」


「ありがと。早月もいつも通り綺麗だよ!」


 そう言って、美羽は私の腕に抱きついた。


 腕に伝わる柔らかさ、鼻をくすぐる甘い香りに、自然と鼓動が早くなる。


「行こっか」


「うん!」


 私はいつもと同じように、美羽と一緒に高校へ向かった。


 この幸せが一生続けばいいなと、そんな風に思いながら。

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