第4話 朝の団欒
いづなが落ち着いたところで私達は軽く自己紹介をした。
とはいえ、それぞれが眠っている間に母上からお互いの名前を知らされていたので、改めてするとなんだか気恥しいものがある。お互いに照れながらも挨拶を済ませ、それから居間へ向かう。
まだ互いの名前だけしかしらないけれど、でも、今はまだそれでいいと思った。
居間へ入ると四人分のお膳が並べられていた。
土間では活発そうな少女がテキパキとお膳へ料理を運んでいる。
「おはようございます」
「おはようございます。巫女様。気分は如何ですか?」
と、少女――
あー。これは、母上だけでなく鈴奈も怒ってますね。はい。
全面的に私が悪いとは言え、その呼び方は心に刺さるものがありますよ。鈴奈……。
鈴奈は私の幼馴染みで義姉です。
義姉と言っても、生まれた月が私より早いだけで歳は私と同じ15歳。また、異母、異父という事も無く血の繋がりも無い。
もともと鈴奈は領主様の屋敷で働く下女でした。
上代家に鈴奈が来たのは私が7歳になったばかりの頃。
その頃の上代家は、お婆様が亡くなり、さらに父上が亡くなり、立て続けの不幸に襲われた後でした。
当時の私はとても体が弱く、起きている時間より床に居る時間が大半を占めるという有様で、一人残された母上の助けになるどころか逆に大変な負担をかけていました。
それを不憫に思った領主様が鈴奈を下女として遣わせる提案をしたのだそうです。
――鈴奈は領主様の妾の子です。
ですが、鈴奈の母上は体が弱かったこともあって私達が物心付く前には病で亡くなったそうです。
領主様はそんな鈴奈を庇護し、下女としてお屋敷に住まわせていましたが、領主様の血を引いていることや、その血筋故に女子で有りながら他のご子息同様優秀だったということもあって、下男下女の間で浮いていたそうだ。
それを知っていた領主様は、このまま屋敷で働くことが鈴奈にも周囲にも良くないと考えたのでしょう。だから、上代家への奉公という形でお屋敷の外へ送り出されました。
そんな鈴奈を母上は快く受け入れました。そして、それに応えるように鈴奈は励んだ。
だから、鈴奈は上代の姓を名乗る事を許されている。それだけ鈴奈は優秀なのです。
その証拠に、鈴奈は炊事洗濯といった家事全般から社の雑務、神事までなんでもこなせる。
うん。流石、お義姉ちゃん。完全に私の上位互換です……。
というか、これでは私の立場が無い。うん。これ以上この話はやめましょう……。
「あ、あの。鈴奈さん?」
「なんですか? 巫女様」
鈴奈の笑顔が突き刺さります。
「あうぅ……」
「ふふふ。そんな顔しないの――」
スッと伸ばされた鈴奈の手が私の眼前で止まり――。
「てい」
「へあっ!?」
ズビシッ! と、鈴奈の薬指が私の額を打つ。打つというより穿つ程の勢いに視界を星が舞った。
その可愛らしい声のどこにそんな力がッ!?。
「あらあら。ふふふ」
私と鈴奈の様子を見ていた母上が優しい微笑みを浮かべて、膝の上に座るいづなの頭を撫でていた。
もしかして母上の差し金ですか? それと、いづなが母上に懐いているようで少し悔しい。
「ふぅ。大丈夫よ。壱希の困った顔を見たら気が晴れたわ」
「むぅ……。鈴奈の馬鹿。――それから、ごめんなさい」
「うむ。よろしい。さ、朝食にしましょう」
鈴奈が赤くなった私の額を撫でる。
水仕事をしていたからだろうか。その手はひんやりとしていて、赤く熱を持った私の額には心地良く感じた。
***
「それでは、壱希は境内と社殿の掃除をお願いしますね」
「ふぇ!?」
食後のお茶を飲んでいたら、母上がそんなことを言った。
私は飲んでいたお茶を思わず吹き出しそうになる。
境内は広いのだ。そこに社殿の掃除まで含まれるとたぶん今日一日では終わらない。
ただ、今回のやらかしに対する罰と考えれば譲歩されているほうではあるかもしれない。
「うう。わかりました」
「よろしい」
「あ、あのッ!?」
不意にいづなが声を上げた。
「僕も手伝う」
「ええ。良いですよ」
「いづなぁ……。ありがとう」
いづなの加勢にほろりと涙がでそうになった。
うう。良い子です。
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