第11話 ヒリつき

短髪の男の鳴きから数巡。

特に卓上に動きがなく、安易に聴牌をすることができた。

『二、五萬待ち 断么九 ドラドラ』

あまりにも静かすぎる。

立直をかけるのが億劫になる程だ。

だが、この場の静寂は嵐の前の静けさと妙に似通っていた。


短髪の男の手出しと捨て牌は相変わらず一貫していて、純チャン狙いの形が濃厚だった。

しかし、攻撃に転じるタイミングを見計らっているようにも見える。

一方、眼鏡の男は捨て牌が防御的で、明らかに安全策を取っている様子だった。

張はリーチをかける選択肢を頭に浮かべたが、この場の緊張感を考慮し、敢えて口を閉じたまま静かに様子を伺うことにした。

そして、不要牌を河に捨てる。


そのとき、短髪の男がようやく動きを見せた。

「ポン!」

再び大きな声で宣言し、場の空気を変えるように勢いよく牌を叩きつけた。

鳴かれた牌は一索。


張はその動きを冷静に見る。

「さあ、ココからが“ゲーム“《しあい》だ」

 短髪の男がそう言う。

『ここからが本当の勝負だ――』

卓上の静寂は、じわじわと緊張感に包まれていった。



短髪の男の二度目の鳴きから、場は徐々に熱を帯びてきた。

張は静かに呼吸を整えながら、卓上と手元を見つめている。


短髪の男がツモ牌を手に取る仕草には焦りが滲み始めている。

「くそっ、まだかよ!」

短髪の男は八索を卓に叩きつけるように捨てた。


その捨て牌を見た張は心の中で密かに笑みを浮かべた。

「何笑ってんだよ。あ?」

 短髪の男がガンを飛ばしてくる。

一色触発な雰囲気が出る。

張は冷静に男の方を見る。

「こんなんでキレてたら、体力持たないぜ」

 張は煽りとも取れる言葉を言い放つ。

その瞬間、卓上には冷酷な空気が流れこむ。

「てめえ、この卓でぶっ飛ばしてやる」


数巡が過ぎ、眼鏡の男が口を開いた。

「さて、私もそろそろ動いてみるかね」

軽い調子で「チー」を宣言し、場を掻き乱すように牌を並べる。

この男もただの観客ではないは確かだ。

だが、今更もう遅い。


張は再び静かに山に手を伸ばした。ツモ牌を指でそっと滑らせて取り上げる。

手の内にある牌はニ萬。

その瞬間、張の心は静かに燃え上がった。

『…来た! これが俺の勝ち筋だ!』

張はツモった牌を卓上に置くと、静かに口を開いた。

「ツモだ」

短い言葉が卓上に響く。

その言葉と共に手牌を倒す。

「はあっ!?」

短髪の男が驚愕の声を上げる。

「…手が揃ってたのかよ?」

眼鏡の男も興味深げに眉を上げた。


「断么九、ドラドラ、ツモ――満貫だ」

短髪の男はしばらく張の手牌を凝視していたが、やがて忌々しそうに舌打ちをした。

「くそっ…こんな手で…!」

眼鏡の男は薄く笑みを浮かべながら拍手をするように両手を叩いた。

「いやいや、大したものだ。見事な腕前だよ」


張は表情を崩すことなく、淡々と点棒を受け取った。

「…これが俺の勝負だ。無駄口を叩く暇はない」

短髪の男は悔しげに拳を握りしめたが、それ以上何も言わなかった。

張は次の局に備え、静かに牌を整える。

『ここからどう勝ち抜くかが本当の腕の見せ所だ』

卓上には再び緊張感が漂い始める。

張は微かに笑みを浮かべながら、新たな戦いへの準備を整えた。

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