第10話 挑む者
「お客人、あそこ空いたぜ」
張はボーッと店内を見ていると、店員に話しかけられた。
店員の方を見ると、奥の卓を指さしていた。
張は無言で立ち上がり、奥の卓まで歩いて行った。
「…よろしくな」
張は卓に座る。
「よお、見ねえ顔だな」
短髪で顔に傷がある同卓者が話しかけてくる。
「新入りか?どっから来たんだ?」
男の隣に座る、細身で眼鏡をかけた中年の男が興味深げに口を開く。
その声色には挑発というよりは好奇心が滲んでいた。
「関係ないだろ」
張は淡々と答える。
無駄な会話を避けるように、卓上に散らばる字牌を集めた。
「まあまあ、固いこと言うなよ」
最初に話しかけてきた短髪の男が、笑いながら腕を肩に乗せようとしてくる。
その笑顔の裏には、相手を値踏みするような冷たさが隠れている。
張はその手をキッパリと跳ね除ける。
「俺はここに“
張はキッパリと言った。
(チッ…)
短髪の男の舌打ちが小さく聞こえた。
「ここは腕っぷしだけじゃやっていけねえ街だ。話くらいして場を和ませねえとな」
眼鏡の男が続けた。
「そういうのは勝ってからにしてくれ」
張は鋭く言い返し、牌をじっと見つめる。
その瞬間、卓を囲む空気がわずかに張り詰めた。
「気合い入ってるじゃねえか。面白い」
短髪の男が肩をすくめながら、手の中にある賽をコロコロと回す。
「まあいい。勝負でお前の“素性”を見せてもらうとするか」
眼鏡の男が静かに微笑みながら言った。
「じゃあ、始めよか」
短髪の男がそう言った。
そうして対局が始まって行った。
場決めと山積み、親決めが終わる。
卓上のヒリついた雰囲気が身体中を駆け巡る。
『東一局 0本場 親:短髪の男 ドラ:八索』
張は西家スタートと言うかなり微妙な滑り出しだ。
イカサマはおそらくバレないだろう
だが、それは同卓者であるこいつらも同じだ。
友希の説明をそのまま解釈すると、こいつらも玄人とゆうことになる。
十分気をつけて対局していかなければならない。
張の第一ツモがやってきた。
「こつっ」
山牌同士がぶつかる音が、張には聞こえる。
張は静かな所作で牌を山からとる。
『九萬』
第一ツモは九萬だった。
手牌はまだまだ先が見えない。
だが、これは無限の可能性を秘めていることの裏返しだ。
張は北を手牌から出し、九萬を手牌に組み込む。
数巡後、まだまだ卓上で何か起こる気配はない。
その間に、張は着々と和了までの駒を進めている。
すでに二向聴だ。
イカサマを使えば、すぐにでも聴牌ができる形だ。
だが、卓上には同卓者の睨みが効いている。
安易に山や河に手は出せないだろう。
『運は確実に追い風に来ている。このままいけば…!』
張は山に手をかける。
ツモ牌をそっと置く。
持ってきた牌は八索。
これで手が進んだ。
『断么九 ドラドラ 一向聴』
チーやポンの鳴きでも完成できそうな手牌だ。
張は九萬を河に捨て、八索を手牌に入れる。
その瞬間、卓上で動きが見える。
「ポン」
対面である短髪の男が鳴いた。
おそらく、張の表情を見ての行動だろう。
「ちっ…」
張はそれにいち早く気づき、舌打ちを漏らす。
「お前も早いのかもしれんが、俺はその上を行かせてもらう」
短髪の男はそう言い放ち、卓上に牌を叩きつける。
出てきた牌は四筒。
張はその捨て牌で短髪の男が狙う役が分かった。
おそらく、純チャンだ。
短髪の男の河には中張牌や字牌が多く並んでおり、么九牌が一切出ていない。
しかも九萬の鳴き。
警戒していかなければいけない。
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