第9話 影の迷宮

張は伏籠街を探索することにした。

時間的には深夜だが、まだまだ人通りが絶える様子はない。

改めて周りを見渡すと、様々な建物が混雑しあっていた。

 麻雀、丁半、花札など種類は様々だ。

正確な建築をしていないせいか、建設されて間もないであろう建物も寂れた雰囲気が出ている。


どこか異常な雰囲気を感じる街だ。

どこからともなく聞こえてくる声は、叱責、怒号、失笑など様々だ。

許しを乞う声も聞こえてくる。

「この街で眠るのは負け犬だけだぜ」

 張が散策しながら歩いていると、建物の壁に寄りかかる男性が話しかけてきた。

今にも消えそうな煙草を口に咥えていた。

「兄ちゃん、見ない顔だな。新入りか?」

張は一瞬その男を見つめる。

鋭い眼差しの中には、挑戦的な雰囲気を醸し出していた。

「どうだろうな。そう思うかは、お前の判断に任せる」

 張は挑発的な態度をその男に向ける。

「ほう。気の利いた返しするじゃねえか、兄ちゃん」

 男はそう言うと、煙草を地面に捨てて靴で踏み潰した。

「あそこに行ってみな」

 男は近くにある建物を指差す。

張は男の指差す方向を見やる。

 寂れた建物の看板には『雀荘 闘千とうせん』と書いてあった。

「『新入り』にはちょうどいいと思うぜ」

小馬鹿にされているように感じるが、歓迎もされている雰囲気も感じる。

「ちょうどいいってわけか」

 張は腕試しのために、その寂れた建物へ向かう。


「ちょっと待ちな」

 張が足を進めようとすると、さっきの男が話しかけてきた。

「文無しだろ」

 張は困惑の表情を男に向ける。

「ああ、そうだが何か問題が?」

「大アリだ」


「この街で負けたらどうなるか知らないなんて、本当に新人ルーキーらしいな」

 男はそう言ってポケットから札を取り出した。

「ほらよ」

 男は手の中にある数枚の札を張に手渡してきた。

 だが、それを張は拒否するように男の手を跳ね除ける。

「はあ…」

 男は目線を下に落とす。

落胆したように見えたが、男は負けじと張の手に強引に札を渡してくる。

「意地張るなっての」

 張はその気迫にやられ、男の札を受け取る。

手元を見やると、ざっと6万ほどはあるだろうか。

「いいか。そいつはタダでやるもんじゃねえ」

「あの雀荘で生き残って、勝ってこい」

 張は頷くことなく、その足で雀荘へ向かう。


雀荘の近くまで行くと、中の熱気が外まで伝わっている。

薄暗く光る中はあまり鮮明には見えないが、人で賑わっているのは感じ取れる。

張は雀荘の扉をゆっくりと開く。

「ガチャン」

 中は鳴きの発声や打牌する音が鳴り響いている。

「客かい?」

 カウンターにいる店員が張の方を見てそう話しかけてくる。

「ああ」

 張は暗い声でそう言った。

「じゃあ場代3000円な」

 張はさっき貰った金を渡す。

「釣りは7000円だな」

 張は店員から7000円を貰う。

「今は満卓だから、そこにある椅子に座ってな」

張は言われるがまま、空いている椅子に座る。

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