第7話 伏籠街

外はすでに暗くなっていた。

だが、人の通りは衰えていない。

むしろ多くなっているような気もする。

「友希、どうするんだこっから」

 張はさっきの店の前で立ち止まる友希にそう聞く。

「もちろん、影淡荘に向かおう」

そう言って二人は歩き始めた。


数分歩くと、どんどんと建物の雰囲気が変わっていった。

当時の面影を感じる。

この場所だけ昭和初期から変わっていないようにも見える。

「これが本来の天満町だよ」

友希がそう言う。

 先ほどまでのネオンの明かりは無く、代わりに街灯には虫が集っていた。

歩いている人種も打って変わって、華美でない服の者ばかりだ。

「さっきまでの街並みが裏とでも言いたげだな」

張が友希にそう聞く。

「麻雀打ちからしたら、この風景こそが本来の姿なんだよ」

寂れた建物から溢れる微細な光、歩きにくい道。

これこそ“玄人のための町てんまんちょう“だ。

「張もそう思うだろ?」

「まあな」

友希は黙って進み続ける。

 その後を追うように張もついていく。


数十分歩くと、さらに街並みが廃れていった。

人の流れもどんどん少なくなっていく。

「ここだ」

 二人がついた先は、トンネルの側面に不自然についている扉。

友希はそっと扉を開ける。

「キィィ…」

 今にも壊れそうな木目の音を立てながら扉が開く。

扉の奥には地下に続く階段があった。

だが、奥は暗闇だ。

「本当にここなのか…?」

張は疑いの目を友希に向ける。

「まあ見てな」

そう言って友希はズカズカと進んでいく。

それに続いて張も歩いていく。


数十段降りると、少し明かりがついている廊下に出た。

そのすぐ横には、鉄製の扉があった。

上にあった扉と比べて、頑丈にできている。

そうして見ていると、友希が扉の前向かった。

そして、服のポケットから何かを取り出した。

その物体を鉄製の扉の鍵穴に挿す。

「ガチャン」

 鍵があっていたようで、扉が静かに開く。


中は壁が鉄になっており、機械質な印象を受ける。

友希はその中に何も躊躇わずに入っていく。

張もそれに続いて中に入る。

中にはそれぞれボタンがついており、おそらくエレベータのようなものだろう。

友希はそのボタンを押す。

すると扉が徐々に閉まっていく。

そしてその部屋が下降を始めた。


しばらくすると、下降が止まった。

そして少しずつ扉が開く。

扉の先はまるで小さな街のようになっていた。

地下街とは思えないくらい天井も高く、さまざまな店がある。

さっきまでの人通りの少なさが嘘のようで、表の天満町ほどではないが活気が溢れていた。

 昔の時代を思い出すようだ。

「ここが『伏籠街ふくろがい』だ」

 友希は自慢げにそう言うが、張はピンときていなかった。

「そういえば知らないのか。まあ無理はないか」

そう言うと、友希は説明を始めた。

「ここは、ここ数年でできた博打打ちのための博打の街」

「表向きは知られてはいけない場所だからな」

「今や日本の博打の中心地はここだ」


二人は中に入り進んでいく。

中は麻雀が全盛期の時のような玄人ばいにんが跋扈している。

その中に、ある建物を見つける。

他の建物とは大きさが一線を画しており、明らかに目立っている。

『影淡荘』

 看板にはそう書かれていた。

「あそこか…」

 張はそう言葉を溢す。

「そうだ。覚悟はいいか?」

張は呼吸を整え、前を向く。

「ああ」

 二人は影淡荘に向かって行った。

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