第6話 再会の味
同日夜、友希と張は関西にあるとある街を訪れた。
町は人でごった返しており、昔来た時とは違う雰囲気を感じた。
店の看板にはネオンの光が照らしており、店から流れる軽快な音楽が町中に漏れ出していた。
この場所は、数十年前は雀荘が立ち並ぶ人が寄りつかない場所だった。
名前ぐらいは聞いたことがあるだろう。
『
かつては日本最大の歓楽街で雀荘や風俗などが立ち並んでいた。
しかし、今は見る影もなく代わりに高級飲食店や宝石店などがたち並んでいる。
「まずは飯でも行くか!」
友希がこの街に着いた瞬間、そう言った。
確かに朝からなにも食べていないし、麻雀をして頭を使って疲弊している。
「いい店あるか?」
「もちろん!」
そう言ってストリートを二人で歩くことにした。
「今日、来たのって偶然じゃないんだろ?」
張は見透かしたような雰囲気で友希に聞く。
「バレてた?」
「そりゃあな…」
二人は他愛もない話をしつつ、雑踏の中を突き進んでいく。
数分歩き、着いた場所は路地裏に佇む小さな定食屋だった。
外観は今にも潰れそうなくらい寂れていて、立て付けも悪そうだ。
『
店前にある看板にはそう書いてあった。
「ガラガラ」
友希が店の扉を開く。
「いらっしゃい…」
厨房にいる店主が友希を見ずに掠れそうな声でそう言う。
店内を見渡したが、これと言って客がいるわけでもない。
友希はカウンター席に座る。
張も友希の隣の席に腰を下ろす。
木目の机にはザラザラとした感触が伝わる。
カウンター席の壁にはメニュー表が紙であった。
友希はそれを手に取る。
「なんか食べたいものある?奢るよ」
友希は張にメニュー表を見せながらそう言う。
張はこれと言って食べたいものがなかった。
「なんでもいいよ。お任せで」
「おっけい」
友希はそう言ってメニュー表を吟味し始めた。
カウンター席の奥を見ると、厨房が広がっていた。
中はあまりよく見えないが、あまり綺麗ではなかった。
だが、これはこれで味が出ている。
小汚い店だが、こう言う雰囲気は好きだ。
「注文お願いします!」
友希がメニュー表を閉じ、厨房にいる店主に呼びかける。
「はいよ」
店主がそう言うと、厨房からコチラを覗き込んできた。
「餃子セット二人前と、ビール二人分」
「はいよ」
そう言って店主は厨房の奥へと姿を消した。
「…なんでビールも?」
張が友希にそう聞く。
そもそも友希はお酒をそこまで好んでいなかったはず。
確かに張はお酒が好きだ。
だが、そんな理由でお酒を飲むようなやつではない。
「最期かもしれないからな。お前と呑むことが」
「ふざけろ。絶対に負けねえよ」
張は友希のその言葉に笑い混じりで言う。
「…だといいな」
なんだか含みのある言い方だ。
そのまま会話をすることなく餃子と白飯が運ばれてくる。
目の前に料理が置かれる瞬間、店主が思いもよらぬことを言う。
「お前ら、天鬼杯に出る気だろ」
「!?」
張と友希の顔が驚嘆の表情をしたままフリーズする。
「なんで分かったって顔してんな。まあ無理もないさ」
店主が微笑しながらそう言った。
店主の寡黙に見えた雰囲気が少し緩んだ気がした。
「飯食いながらでいいから。ちょっくら話聞いてけよ」
店主がそう言いながら、厨房からカウンター席まで出てきて座った。
「なんであんたは知ってるんだい?天鬼杯についてを」
友希がそう聞きながら餃子を頬張る。
そしてビールを勢い良く飲む。
張もそれに合わせて餃子を頬張る。
特段美味しいわけではないが、質素な中にニラの風味が口に広がる。
そのままビールを流し込む。
久しぶりの酒だ。
五臓六腑に染み渡る。
「ここらじゃ有名な話さ。最強の玄人を決める戦いだってな」
「表向きはそう言われてる」
「だが、負けた者がどうなるのかは公表されていない」
二人は飯を食いながら静かに聞く。
「下手したら、もうこの世に居られなくなるんじゃねえかって話だ」
この際、張にとってはそんなこと些細な話だ。
失うものなど何もない。
だからこそ、勝って、勝って、勝つしかない。
「まあ、お前さんらは今更な話かもしれんがな」
そう言うと、店長は席から立ち上がった。
「さ、店じまいだ。食い終わったらさっさと出な」
二人はいつの間にか餃子もビールも無くなっていた。
二人は店を出るために立ち上がった。
そして友希は一万円札を机にポンと置いた。
「お代置いとくよ」
「また来る」
そう言って二人は店を出て行った。
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