第3話 友希との出会い
張は、当時の日本でプロ麻雀を大きく支える立役者だった。
『世界最強の麻雀打ち』
そんな肩書きもあったほどだ。
だが、そんな張には裏があった。
プロデビュー前、張は今とは違う名前で麻雀を打っていた。
名を『札幌の鬼才』
おそらく、日本で最強で最恐のイカサマ使いだった。
そんな時代は、張にとって光の時代だった。
だが、転機が訪れる。
時は張が二十代の頃まで遡る。
「ツモ。倍満だ」
張が北海道でいつも通りイカサマを使い、荒稼ぎしていた。
「ッチ。オケラだよ!」
同卓者が張の卓から離れていく中、一人の女性がこちらにやってくる。
「ここ、いいかい?」
「…好きにしな」
張はその女性の方を見る。
レザーコートに身を包み、耳や手には複数のアクセサリーがついていた。
見るからに富裕層のカモだ。
メンツが集まり、対局が始まる。
「場所決めするか」
張は卓に散らばっている東、南、西、北を集めた。
それを裏返し、手の中でシャッフルする。
「俺から引かせてもらう」
張はそう言って、最初に手の内にある牌を取る。
無論、この時点で戦いは始まっている。
張は手でシャッフルしながらも、仮親である東の場所を記憶していた。
その記憶を頼りに、東であるはずの牌を引く。
牌を裏返して見ると、そこには『東』の文字が書かれていた。
そのまま場所が決まり、各人席に座る。
張がサイコロを振る。
「コロ、コロ」
出た目は2と3。
合計は5。
上家に親が行き、自分の山に触らせないためにサイコロを調整した。
これで、自分の山に安全に積み込みができる。
いつも通り、イカサマがしやすいように山に細工を施す。
張は洗礼された動きで卓に散らばっている牌をかき集める。
山の右端には三元牌、左端には中張牌を仕込んでおく。
配牌で他家に触られる心配もない。
『俺以外トーシローかよ』
張は心の中で嘲笑した。
そのまま上家がサイコロを振る。
出た目は8。
王牌になることもなかった。
そのまま配牌が進んでいく。
しかし、張にとっては配牌がどうであれ関係のない話だ。
張は山牌を前に出す仕草をし、手牌にある不要牌二枚を右手に仕込む。
左に仕込んである中張牌を取りながら、右に不要牌をくっつける。
側から見れば、一つの迷いもないかなり精巧された動きだ。
「フっ…」
張が山牌から手を離した直後、対面である派手な女性が笑う。
『バレたか?』
張はそのような考えがよぎったが、どこからどう見ても素人だ。
その心配はないだろう。
着々と手は進んでいく。
すり替えを使い、張の手は三巡という短い時間でありながら聴牌していた。
『五、八索待ち 中、三暗刻、ドラドラ』
役満である四暗刻にもなりうるかなり強い手だ。
しかも、張は積み込みのタイミングで他家のを見ていた。
おそらく、次のツモで張の和了である。
立直はかけずにそのまま待つことにした。
その直後、山に手をかけようとする張の耳に声が聞こえてきた。
「ポン」
どうやら対面である女性が発声をしたようだ。
鳴いた牌は東。
「チッ…」
張はそのまま山から手を離す。
ツモ番がズレたことによって、次にツモで和了することができなくなってしまった。
対面が手から捨てた牌は九索。
すぐに対局が動き出していた。
十巡目、いまだに誰も和了することなく進んでいく。
三巡目の対面の鳴き以降、不自然なくらいに静かな対局だ。
張の当たり牌が出ることもない。
『行くしかない、か』
張は和了できないことにイラつきを感じていた。
張が積み上げた山に差し掛かりそうになっている。
イカサマを使うしかない状況になっていた。
張は卓の状況を凝視する。
次のツモ番は対面であるアイツだ。
次に山に手を掛けるところで、左手芸をしようとする。
「コツっ」
山牌同士が当たる音がした。
『今だっ!』
張は山を直すふりをして、左手芸でニ牌を卓下に仕込む。
その瞬間、対面が発声をする。
「カンっ!」
予想外の発声に卓にいた一同は驚嘆する。
カンされたのは一索。
暗カンだ。
対面が王牌に手を伸ばす。
王牌から一枚、牌がなくなる。
「ツモっ!」
「なっ…!」
予想外の発声に驚嘆の声が漏れ出す。
「倍満、2000、4000」
「チッ、最初から飛ばすなあ」
同卓者が愚痴を漏らす中、張は点棒を2000点分払う。
張は対面の和了の瞬間、女のことをただの素人ではないと分かっていた。
『王牌をおそらく覚えていた、だからこそ暗カンをしたのだろう』
そう考えた張は、より一層注意深く対局を進めていく。
だが、結果は惨敗。
全員箱下だ。
「お前、何者だよ…」
張が消えかかりそうな声でそう言う。
張がそう言うと、女性がとある紙を差し出してくる。
『関西 近江屋』
そう書いてあった。
「ここに行けばいいのか…?」
張はそう聞いたが、女性はなにも言わずに立ち去って行った。
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