【第6話】開花武器
金と黒の剣。
それが第一印象だった。電気が放たれるその剣はどこか神秘的で神々しい武器であった。
クラスメイトの大半は初めて見る開花武器に興味津々、席から乗り出している。その様子を見て鳴宮は満足そうな顔をしてこう言った。
「これが僕の開花武器です。皆さんは、なぜ『開花』武器と言われているか知っていますか?」
その質問に誰もが答えられないだろうと思い込んでいたであろう鳴宮はすぐに答えを言おうとした。が、どこからか「はい、先生!」と可愛らしい声が聞こえてきた。水無瀬アリスであった。背筋を伸ばしてピンと手を上げる姿は素晴らしい教育を受けていたという印象が見て取れる。
「じゃ、じゃあ水無瀬さん!」
「人外の方たちが人間の姿で生まれてきた場合、第二次成長期の間に『開花』と呼ばれる本来の姿になる現象が起きるんですよね? それから名前をとったのではないでしょうか?」
「…………正解です」
(自分で言いたかったんだろうなぁ)
志乃は誰から見てもわかるくらい答えられて悔しそうにしている鳴宮がなぜだか無性に可愛く感じた。
鳴宮はオッホンゴホゴホとわざとらしい咳をしてメガネを掛け直すと何事もなかったかのような笑顔を浮かべて話をし始めた。
「開花武器を持ってる人はとっても希少なんです。理由は簡単。開花武器を手にすることができるのは何か大きな決断を下した時、強い決意・覚悟を決めた時、命の危機に瀕した時、強く誰かのことを守りたいと思った時、などという感じでこの現代にそんなことを考えている人はなかなかいません。命の危機を感じる場面なんて、そうそうないですしね」
いつの間にか鳴宮の開花武器は消えており、教卓を元に戻していた。誰かが「じゃあこの中に持ってる人っているんですかね?」と声を発していた。それに対して鳴宮は日南をチラと一瞬見て、「この教室の中でも1人持っているかいないかじゃないですかね?」と返した。
その時だった。
「俺持ってるんだけどなぁ?」
と来栖が言い始めたのだ。その言葉に今まで若干だらけていたクラスメイトたちの目は来栖に集まる。来栖はいい気分になったのだろうか、その場で開花武器を出す姿勢をとり始めた。
「落ちろ、
来栖が開花武器の名前を呼ぶと、長い槍が出現する。柄には鷹の絵が描かれており、それは美しいものだった。しかし、志乃はある違和感を感じた。
(鷹が、落ちてる……? 飛んでる鷹の絵じゃない……?)
それに気づいたのは志乃だけのようだった。よくよく考えれば、人間に絵柄まで見える訳がないので当然の結果である。
来栖が開花武器を出現させたことに、今までの失礼な態度の記憶が吹っ飛んだのか、鳴宮は嬉しみの声を出して来栖にジリジリ近づいていた。
「……す、すごいよ君ぃ! さっきまで何だこのクソガキって思ってたけど、いいところもあったもんだ!」
前言撤回である。ものすごく根に持っていた。声に出すほどに。
来栖が鳴宮の発言に口出ししようとするが、それよりも先に鳴宮が日南の方を見てこういった。
「……と、まぁ来栖くんも開花武器出してくれたんだし、もういいよねっ! 日南ちゃんもどんどん出そうよ!」
志乃は恐る恐る日南の方を見た。入学式の日に絶対に怒らしてはいけないと固く誓った事を思い出して、絶対に怒っているであろう日南を見るためになかなか動かぬ体をギギギと動かす。
「……このやろう、殺すぞ……鳴宮のボンボンがよぉ……」
(殺意、高すぎ! 怖い、直視できない!)
思っていた通り、鬼である志乃よりも鬼のような形相で、鳴宮を睨みつけていた。持っているシャーペンは今にも折れそうな音がしている。
「タハー! そんなに怒らないの! いいじゃんか、減るもんでもないでしょ? 龍司にさぁ、日南ちゃんがいるって聞いて、その謎の多い籠屋家特有の開花武器見せてもらおうとずっと考えてたんだよね」
そんな日南のオーラに屈しない鳴宮に志乃はドン引きしていた。
(へ、変態さんだぁ……声に出して『タハー』って言ったよこの人)
「あっのクソ兄貴! 余計なこと言うなよぉ! 嫌だね、だーれが見せるもんか、このボケナスあんぽんたんが」
日南は気づいてなさそうだが、周りのクラスメイトは完全に怯えている。日南は来栖の側にいる鳴宮にズンズン近づき、メンチを切り始めた。その様子を見た来栖が「プッ」と笑い出す。
「ぷ、く、はは、あはははははは! お前、自分の開花武器に自信ないのもしかして? 出さないんじゃなくて、出せないんだろ? あーおもろ」
その言葉に日南は勿論反応し、地底から湧き上がるような低く暗い声で「あ?」と声を漏らした。
(……誰だか知らないけど、来栖くん! 君今絶対言っちゃダメなこと言ってしまってるからね!?)
一触即発の日南と来栖を見て志乃があたふたして、2人の仲裁に入った。鳴宮はというと、「仲良いねぇー」なんてほざいて、傍観しようとしていた所を猫矢にチョップされていた。他のクラスメイトは日南のオーラに圧倒されて、動けずにいる。
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