【第7話】喧嘩勃発

「あんたこそ、見せびらかしたいって言う魂胆が丸見えなんだよ。そんな目立って嬉しいか? 私はそんなに目立つようなことしたくないから出したくないの! というか開花武器なんてそうポンポン出すようなものじゃないの! あーでも、一般人のあんたにはわかんないか?」

「あーそうだよ、開花武器なんてな、目立つためにあるんだよ。俺を際立たせるためにあるんだ。そんなこともわかんないのか? この性悪女」

「ちょっと、2人とも言い過ぎ! 授業終わっちゃうでしょうが! ちょっと大人しくしてよ!」


 志乃の仲裁に気がつき、日南は「志乃、ごめん……」と言ってショボショボとすぐに引いた。これをわかっていたので猫矢は口出ししなかったのだ。日南は喧嘩っ早い性格で、志乃以外は止めることはできない。逆に喧嘩に巻き込まれてサンドバックにされるのがオチである。

 一方で来栖は喧嘩を止めるどころか、志乃の見た目を見て、罵ってきた。


「なんだ、ブスの友達はブスってか? お似合いじゃん、しかも人外だし。人外のくせに綺麗に人間様の形に化けられないなんて、かわいそうだな?」


 志乃は言われたことが理解できなかった。志乃が熟慮しようとしていた矢先、日南の拳が来栖の顔面を殴ろうとしていた。


「…………志乃、なんで止めるの?」


 来栖の顔面に行く前に、志乃が日南の腕を持って止めたのだ。来栖は後ずさりをして顔を引き攣っていた。


「日南ちゃんこそ、なんで怒ってるの?」


 志乃はいつまで経っても言われたことがいまいち理解できなかったので、キョトンとした顔で日南に問いかける。その顔に日南は毒気を抜かれたのか、「はぁー」と大きなため息を吐きながら、手を引っ込めて志乃に抱きついた。


「本当に志乃は優しいんだから! こんな時は怒らないとダメなんだよぉ?」

「……うーん、それについてなんだけどさ、どこに怒ればいいの?」

「…………は?」


 志乃の言葉に日南はびっくり仰天、思わず抱きしめるのをやめて顔を見た。そしてなんだか納得という表情を浮かべた。


「……うん、そうだね、志乃は自分の魅力知ってるもんね……うん、そりゃ怒るところ分かんないはずだわ」

「ん?」

「いや、そのままの志乃でいてくれよって話」


 そう、志乃は学校では認識阻害眼鏡というものをかけて登校している為、顔がぼやけて見えたり、その辺の一般人と相違ない見た目に変換されたりと認識を阻害されているのだ。そのことを志乃は忘れているのだ。

 志乃と日南のやりとりに呆気を取られて惚けていた来栖だが、置いてけぼりにされていることに気づいたのか、また喚き出した。


「何2人で話終わらそうとしてんだよ! こっちは殴られかけたんだぞ!? 謝罪しろや、おい!」

「……すまん。誤ったぞー」

「誰がそんな平謝りしろっつったよ!」


 日南は来栖に構うのが面倒になったのか、上の空で謝罪を述べた。それに対して勿論来栖はキレ散らかす。


「でもさ」


 日南の態度が一変する。殺気を放ち出したのだ。クラスにいた皆にも、そのオーラは先ほどのものとは違うことが明らかにわかった。それをモロに受けている来栖はガシャンと音を立てて椅子に崩れ座る。


「志乃に対して無礼を働いたこと、ゆるさねぇからな。この人間人外以下の生き物が」


 それだけを言い残すと日南は前の教卓の方に移動した。志乃も自分の席に戻ろうとして、何かを思い出したかのように、来栖に向き直った。そして耳元で日南に、来栖以外の誰にも聞こえない声で囁いた。


「私も、日南ちゃんに対する悪口一生涯覚えてるからね、来栖旬くん」


 志乃は妖艶に、滑らかな笑みを浮かべて囁く。来栖にはブスと判断した志乃が妖艶に美しく見えた反面、とても恐ろしくなった。そこからの授業はとてもおとなしかった。




***

「えー、気を取り直して、日南ちゃんが開花武器見せてくれるみたいなので、気持ちを切り替えましょう!」

「はぁ、もういいよ……諦めも肝心だよな……」


 日南は燃え尽きたように白く笑い、鳴宮は原色かというくらい色を放って喜んでいた。

 日南は手を前にしてグッと手を握る。そしてパッと開くと同時に、箱のようなものが出現した。


「我を守護せし結界よ、籠屋の名において、其の御力を示し賜え」


 微動だにしなかった箱のような四角い物体はその呼び声でカチャカチャとルービックキューブのような、からくり箱のような動きをし始め、宙に浮いた。

 何処からともなく風が舞い、箱の動きも早くなる。


「開け、籠り日の箱」


 カチャと一音、音が鳴り響き、その箱は籠の網目のように開かれた。中には光り輝く球体のようなものが入っており、眩い。

 志乃は初めて見る日南の開花武器に対して、興奮気味に感想を述べた。


「綺麗! 本当に綺麗だよぉ! まさに日南ちゃんって感じかも!」


 その言葉に日南は今までの諦め・やる気のなさ・呆れはどこに行ったのやら、色を取り戻しムフフと笑って、開花武器を志乃の近くまで飛ばした。


「わあ! 綺麗……」


 志乃が日南の開花武器に見惚れていると、どこからともなく声が聞こえた。


『こんにちは、美しい人。わたくしは籠り日といいます。これからも可愛い日南のことを守ってくださいね』

「勿論! 日南ちゃんは私の大切な親友だもん!」


 その言葉に安心したのか、それ以降は声は聞こえなかった。この時の志乃はまだ知らなかった。なぜ籠り日の箱が「これからもずっと仲良くして」などという言葉ではなく、「これからも日南のことを守ってくれ」と言ったのかを。志乃にはこれよりも厄介なことに面していたのだから。


「志乃……籠り日と話せるの!?」


 志乃は思った。

(…………普通は武器とは話せないんだっけ)


 やってしまったと、思った。志乃はあたふたして場を誤魔化そうとするが、日南には全く通用せず、徒労に終わる。日南がズンズン近いてくるのに恐怖したが、日南はお構いなしに志乃の顔をガッと包んで、

「籠り日はなんて言ってた!?」

と聞いてきた。


 志乃的にはもっと何か言われるんじゃないかとヒヤヒヤしていたので、拍子抜けだったが、ドッと安心した。


「えと、わたくしの可愛い日南を守ってあげてって言われた、かな」


 その言葉を聞いて日南は宙にふよふよと浮いていた籠り日の箱をガシィッと掴んで、「こんにゃろう、可愛い奴め。私の方が感謝してるもんね」と頬擦りし始めたのだ。

 その一連の様子を見ていた鳴宮は珍しく静かだった。

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朧月夜、あの桜の下で(改訂版) 秋丸よう @akimaru_you

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