【第3話】入学式

 入学式に無事間に合った4人は志乃と日南、蒼真と紅賀でそれぞれ別れた。今日は入学式だと言うのにいつもの学校生活のような活気に溢れているのは天明学園の大きな特徴と言えるだろう。

 蒼真、紅賀のような2年生、3年生は入学式の片付け、次の大学の入学式の設営要因で学校に来ているのだ。3年生はほとんどが天明学園の大学に進学し、少数が他大学に進学する。そのため他学校の生徒に比べて3年生の余裕度が違う。

 

 だが、成績は優秀な者が多い。

 中間・期末テストでいい成績を出さなければ、問答無用で地獄の補習授業があるからだ。補習授業は地獄と呼ばれるほど過酷なのである。補習に行った生徒は皆一様に顔を真っ青にして、補習という単語を出すだけで震え怯える。しかし、新聞部が拷問インタビューと呼ばれる方法を使っても絶対に何があったか喋らないので、実態は受けた者しか分からない。皆これに引っかからないように勉学に励むのだ。



***

「只今より、私立天明学園高等部の入学式を始めます。一同起立…………」


 時間が刻々と経ち、入学式は淡々と進む。僅かに日差しの向きが変わっていることから学園長の話がいかに長かったのかが分かる。そして新入生代表の挨拶が始まった。


「へー、あの子が首席なのね」

 隣にいた日南がコソッと話しかけてきた。日南は飽きていたのだ。

「あの子、人間だね! それにしても綺麗な金髪だぁ!」

 志乃も勿論飽きていたので、返事を返した。日南は髪のことについて触れた志乃に苦笑いを返す。

 首席はその名の通り成績1位の生徒のことを指す。今年は高等部から入学の女子生徒であった。プラチナブロンドの髪をなびかせ颯爽と歩く。制服の線が1本のところを見ると人間科の生徒である。


 天明学園は人間科と人外科に分かれる。とは言っても、クラス、授業はぐちゃぐちゃである。そこで、人と人外の区別をつけるために制服に少し工夫が施されている。高等部は女子はグレーのセーラー服に赤い紐のリボン。男子はグレーの学ランを着用する。制服の襟袖の赤いラインが人間科は1本、人外科は2本なのだ。


 ちなみに志乃と日南が座っているのは少し後ろの方の席。志乃が首席の所属を見抜いたのは志乃が人外であり、視力がとてもいいからだ。普通の人間には制服の襟のラインの数までは分からない。


「――以上、新入生代表の挨拶とさせて頂きます」


「人間って……え、まさかあの線見えたの? さすが鬼。というか、人間って珍しいね、いつも新入生代表って人外じゃん。陰陽師の家系でもなさそうだし」

「まあ、人外も陰陽師の家系の人たちもは頭良いし、お金あるからね。この学校、いい学校なんだけど学園長がな……」


 そう、この学園は今は人間が管理している。その学園長が金の亡者だという事で有名なのだ。



***

「んー! かったるい入学式も終わった事だし、クラス発表でも見に行こ!」

「賛成! 日南ちゃんと同じクラスだったら幸せだなー」

「うーんもう、可愛いこと言ってくれるなぁ」


 このやろと言って日南は志乃の頭をヨシヨシと撫でた。講堂は校舎とは別の離れた場所にあり、講堂までの道のりにはベンチや花壇などがある。入学式が終わり講堂から大勢の生徒が溢れ出る中、ベンチに座っている生徒がいた。新入生代表の挨拶をしていた首席の生徒であった。プラチナブロンドの髪が緩くカールしているのは地毛なのだろうか。タレ目がちな彼女の瞳は夜空を汲み取ってきたかのような群青色で、誰もが彼女を美しいと表現するであろう。

 

 志乃たちが彼女の前を通りかかった時、彼女は突然立ち上がり、

「すみません、あなたが朧月志乃さんですよね?」

と小さな口を動かした。

 

 話しかけられるはずがないと思っていた、かつ、ましてや名前で呼ばれるなんて微塵も思っていなかった志乃は思わず肩が跳ねてしまう。ぎこちなくではあるが、呼ばれたからには返事をせねばという気持ちで返事を返した。


「は、はい、私が朧月志乃です!」

「嗚呼、良かった! 間違っていたらどうしようかと思ったわ! あーそうそう、自己紹介がまだでしたね。私は水無瀬アリスと言います。高等部からの入学なんです」


 志乃が返事をするとプラチナブロンドの美人――もとい水無瀬アリスは花が綻ぶような笑顔で聞いてもいない自己紹介をし始めた。その時点で日南はアリスのことを警戒し始めた。志乃はアリスの違和感には気づいてないが、真剣そうな表情で話を聞く。


「私、高等部からの入学だから、色々と不安で……それで先生から朧月さんが中等部の首席だったって聞いて、頼れるお友達が欲しくてお声がけしたんです。もしよろしければ私とお友達になってくれませんか?」


 アリスはあざとくコテンと首を傾げて志乃を見つめる。そんな彼女を見てか、日南の表情が暗くなっていく。志乃は勿論全く違和感に気が付いていないので、満面の笑みだ。


「なんだ、そんなことかぁ! いいよいいよ! 今日から友達ね! 勿論タメ口で良いからねっ」


 志乃としてはもっと無理難題を言ってくるのではないかと思っていたので、友達希望なら万々歳である。志乃の返事を聞くと、アリスはパァと太陽が輝くような笑みを見せて、喜んだ。


「まあ! いいの? なら遠慮なく、今年からよろしくね! 私のこともアリスでいいわよ。あ、もう行くね、じゃあ後で」


 そう言ってアリスは颯爽と教室の方に去っていった。日南は人でも殺しそうな表情をしていたが、アリスが去った時点でいつものキリッとした表情に戻っていた。志乃はというと、新しい友達が出来て喜びのホカホカ顔である。


「……志乃はもっと人ってもんに警戒したほうがいいよ」

「え、なんで?」

「なんでって……マジで気づいてないのかぁ……」

「?」

「……いや、気づかないほうがいいわ。志乃は一生そのままの純粋無垢な志乃でいてくれ。よっし、エントランス行こっか。もうクラス表、張り出されてるよ」


 志乃は頭にはてなマークをいっぱいつけた状態でエントランスに急いだ。


 


***

 1階のエントランス前に着くと、すでに新入生でごった返していた。

「お前どこのクラス? 俺A組!」

「くそー、違うクラス、俺C」


 こんな感じの声が至る所から聞こえてくる。ガヤガヤ、と活気のある実に高校生らしく騒がしい。

 少し人がはけて来たので、日南と志乃はすかさずクラス表の前まで移動した。


「……」

「……」


 ジィッとクラス表から自分の名前を探す。


 そして、

「……やった」

「同じクラスだ! やったね! 日南ちゃん!」


 志乃と日南は同じクラスでB組だった。2人はルンルンで手を繋いで教室まで向かったのだった。

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