第2話 依頼品を準備しよう!

「なんなのよこの依頼は!!!!!!!」


 宿屋に戻った俺は、パーティメンバーからの激しい抵抗を受けて床に倒れ込んだ。


 中でも特に怒っているのは女エルフのリーザだ。

 リーザは腰まで伸びた薄金色の髪に緑色の瞳という、いかにも人間が想像しそうなエルフっぽいエルフの弓使いだった。


 なに、こんな状況だ。仲間なら黙って協力してくれるさ。そう思っていた時期が私にもありました。


「こいつ終わってるにゃ」


 床に転がった俺をリーザと一緒になって見下ろしているのは盗賊のミリスだ。亜麻色の髪と瞳で、人間と異なり猫みたいな耳と尻尾が生えている獣人である。

 ミリスは寛容な性格なので味方になってくれるのを期待したのだが、さすがに限度を超えたらしい。


「二人とも冷静になってくれ。リーザの黄金水には金貨三枚の価値があると考えればむしろすごいことだ」

「こっ……殺す!! アンタを殺して私も死ぬ!」

「リーザさん落ち着いてください。このままじゃ本当にアルバートさんが死んじゃいます」

「どいて! こいつを生かしておいたら世界が消滅する!」


 白く長い髪に褐色の肌を持つ美しい少女が俺をかばった。

 魔法使いのシアだ。


 剣士のアルバート。射手のリーザ。盗賊のミリス。魔法使い(予定)のシア。これが俺たちのパーティ構成だ。


 ちなみにシアはまだ魔法を一つも覚えていないのであくまで予定。今は主に炊事担当だ。


 魔法は都市で教えている魔法使いに高額な授業料を払わないと学べない。この依頼が無事終われば、ようやく初歩的な魔法一つくらいは習えるだろう。


「全員でよく話し合ってみませんか? 結論を出すのはそれからでも遅くないと思います」

「む……ま、まあそれはそうかもしれないけど」


 シアの説得により、どうにか俺たちは話し合いの場を設けることができた。

 狭い部屋の中、四人で静かに向かい合う。


「この依頼やめられないのにゃ?」

「違約金が発生するから無理。そんなお金ないでしょ」

「じゃあどうするにゃ」

「それをこれからみんなで考えましょう、っていうことですよね?」

「そういうことだな」


 とはいえ、断れない以上は品物を用意する以外に道はなさそうだ。

 一番てっとり早いのは、まあ当然だがエルフであるリーザがこのアイテムを生成することだった。


 気付けば三人でリーザをじっと見つめていた。

 視線が自分に集中したせいか、彼女は顔を赤らめるとそっぽを向いてしまった。


 それでもみんなで眺めていると、リーザは口をもごもごさせながら小さな声で話し始めた。


「だいたい、ア、アンタは私の……アレを見ず知らずの他人に渡すことについてなんとも思わないわけ」

「えっ」


 どういう意味だ……?

 むしろ親しい相手からプレゼントされてもちょっと引くが。


 だがこの回答はあまり適切ではない気がする。

 よく考えて慎重に言葉を選んだほうが良さそうだ。


 ……………………。

 …………。

 ……。


 考えたが特に何も思い浮かばなかった。

 こういう時はむしろ聞き返すに限る。


「リーザはどう思うんだ」

「えっ?」

「君は俺が望んでこんなことをしていると思っているのか」

「そ、それは……そんなことない、と思うけど! 思ってるけど!」

「俺たちが置かれた状況を改めて考えてみてくれ。たとえば装備について」

「うっ……」


 リーザがエルフの里から持ってきていた長弓は、この一年で酷使しすぎたせいか折れてしまった。

 今はショートソード一本で戦っているが、パーティ唯一の遠距離攻撃手段がなくなったので戦力としては大幅ダウンだ。


 手頃な中古品を買おうにも、風の精霊(見たことないけどいるらしい)の力を借りて射当てるエルフの弓は、人間の弓とは似て非なる物らしい。そのせいか数が少なく値が張るのだった。


 隣に立っているミリスを見る。

 ぴっちりとした革鎧はあちこち擦れていて、短剣も刃こぼれが酷い。


「ウチの装備もそろそろ限界にゃ……」


 力なく獣耳を垂れさせながらミリスが嘆いた。


 俺の鎧と長剣も似たような状態だ。

 このまま魔物と戦ったりすれば思わぬ事故が起こるかもしれない。


「たとえばですけど、他の人に頼んでみるのはどうでしょう?」

「そうだな。必ずしもリーザのものである必要はないわけだ」

「けど、具体的にはどうするつもりなの?」

「そのへんを歩いてるエルフにわけてくれとお願いしてみるとか」

「完全に危ない奴だにゃ」

「もちろんタダでとは言わない。金を払って納得してくれる相手が見つかるまで探せばいい」

「その代わり、アルバートさんのことが噂になるかもしれませんけど……」

「それくらいは覚悟の上さ。大切な仲間が路頭に迷うことに比べればどうってことはないよ」

「あーもう! わかったってば! やればいいんでしょ!」


 急にリーザが大声を出し、俺たちは会話を止めた。


「本当にいいのか?」

「しょうがないでしょ! これじゃ私一人だけ駄々をこねてるみたいじゃない!」


 そんなことはないが、まあそんなこともある。


「でもそれ以上のことは絶対しないから! あと私が用意したってギルドの人に言うのも禁止!」

「その点については問題ない。指示によると現地で直接渡すそうだ。向こうも危ない橋は渡りたくないんだろう」

「ギルドにこんな依頼出してる時点で橋も何もあったもんじゃないにゃ」

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金に困ったので、エルフの黄金水を納品しろという依頼を受けた 亜行 蓮 @agyoren

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