第7話 徹底的な基礎固め!!
ダンの指導の下、己を磨き始めた龍斗の厳しい修行の日々が始まった。
とはいえ、修行の内容も全速力で走ってくるジープに追い回されるような命の危機があるものではなく、普通に厳しいくらいのレベルで留まる程度のものだ。
言われた通り、常時体に少なからず負担がかかる変身状態を維持し、生活を行う。
これは龍斗の予想通り、気力に目覚めた肉体に変身状態の負荷を慣れさせ、ポテンシャルを引き出せるようにするためのものだ。
そこに加え、ダンは龍斗に基礎的なトレーニングを課した。
足場の不安定な岩場での全力疾走を数百本。同じく全力での跳躍を数百本。基礎的な筋肉トレーニングを何十セットもやらせ、突きや蹴りといった技の型を同時に教え込む。
変身状態の負荷に加え、常軌を逸したトレーニングの疲労に龍斗もかなり疲弊してはいたが、弱音を吐かずにダンの言うことに従い続けた。
数日後、基礎トレーニングの回数は倍近く増えていたが……意外にも、龍斗はそれを平然とこなせるようにもなっていた。
(わかるぞ、体が負荷に慣れていくのが! それに、気力による肉体の強化も自然に行えるようになってきた!)
走る、跳ぶ、攻撃を仕掛ける……という基本的な動作を全力で繰り返させることで、龍斗が意識せずとも肉体を気力で強化できるようにする。
同時に気力によって強化された肉体で基礎トレーニングを繰り返すことで、その肉体をさらに頑健なものに仕上げていくという狙いがあっての修行は、龍斗に目覚ましいまでの成長を促していた。
「なんともすさまじい成長ぶりよ。ここまでの早さで基礎固めをしてみせるとは……」
修行開始から一週間後、龍斗は変身状態になった肉体のポテンシャルを余すことなく引き出せるだけの基礎を築いてみせていた。
その成長速度にある種の恐怖すらも抱くダンであったが、同時に龍斗がまだ完璧な状態ではないことも感じ取っている。
(これは肉体の方ではないな。精神……戦いに対する覚悟の問題か)
龍斗の肉体は十分に育っている。彼の成長がある一点を越えていないのは、戦いというものに対する想いが足りないからなのだろう。
これは決して龍斗を情けないと言っているわけではなく、むしろ平穏な日常を過ごしていた彼がいきなり他者と血を血で洗うデスゲームに参加して、即座に戦いへの覚悟を固める方が異常なのだから、これが正常なのだ。
実際、龍斗の初変身は蜘蛛怪人との戦いで命の危機に瀕したことが大きなきっかけになったのだろう。
この部分に関しては、戦いの中で自らと向き合って磨いていくしかないと修行を行う彼をダンが見守る中、弁当を手にしたリュカが声をかけてきた。
「お兄ちゃん! おじいちゃん! ご飯、持ってきたよ!」
「おお、いつもありがとうな。龍斗、そろそろ休憩にするぞい」
「先に休んでてください。このトレーニングが終わったら、俺も休ませてもらいますから」
ダンの呼びかけに対して、真面目な返答をする龍斗。
一つ一つの動作を確認しながらトレーニングを行う弟子の姿に小さく微笑みを浮かべるダンへとリュカが言う。
「すごいね、お兄ちゃん。なんだか強くなった感じがする」
「そうじゃのう。自らをしっかりと鍛え上げているおかげで、急激に力を付けておるわい」
「きっとあの魔物たちもお兄ちゃんが怖いからこの村に手出しできないんだよ! 今もどこからかお兄ちゃんを見て、ぶるぶる震えてるんだ!」
「ほっほ、そうだったらいいんじゃがの……」
子供らしい無邪気な意見に微笑みつつ、僅かに険しい表情も見せるダン。
確かにこの一週間、蜘蛛怪人は影も形も見せないでいる。
龍斗が倒した個体の他にも何体かの目撃情報があったが、その内の数体はカエルたち自警団の手で倒されたようだ。
そういった報告から、村人たちの中からは「あの魔物たちは恐れを成してこの地域から離れたのでは?」という意見も出ているようだが、ダンはそうではないと睨んでいる。
おそらく、近い内に再び戦いが起きるだろう。それまでに少しでも龍斗を鍛えてやりたいと考えていたところで、トレーニングを終えた彼がこちらへと歩いてくる。
「お待たせしました。リュカくんも、いつもお弁当を持ってきてくれてありがとうね」
待たせてしまったことへの謝罪と、食事を持ってきてくれるリュカへの感謝を口にしながら、二人の下に歩み寄る龍斗。
気を静め、変身を解除しようとした彼であったが……その瞬間、背後から鋭い敵意を感じた彼は、驚きながらもその感覚に反応して振り返る。
「うっ!? な、なんだっ!?」
ひゅんっ、という音と共に風を切って飛んでくる矢を目にした龍斗が小さく呻く。
全身に気力を満たした状態に慣れ、その扱いを無意識下で行えるようになった彼は動体視力と俊敏さを強化すると共に、飛んできた矢を叩き落してみせた。
しかし、謎の襲撃者からの攻撃は止まらない。
続けて第二射、第三射が繰り出され、自分が攻撃を受けていることを再認識した龍斗が、再びその矢を叩き落した時だった。
「怪物め! その子たちに近付くな!!」
「えっ……!?」
四発目の矢が飛んでくる寸前、そんな威勢のいい女性の声が響く。
その声に龍斗が驚く中、近くの茂みの中から銀髪の美しい美少女が姿を現した。
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