第6話 気力転身!変幻自在!

「気力のコントロールは技術ではあるが、正確に言えば技ではない。正拳突きは技ではあるが、拳を握り、腕を引き、前へと突き出すという一つ一つの動作が技ではないというのと同じじゃな」


「つまり、気力のコントロールというのは慣れれば意識せずとも自然にできるようになる動作の一つ、ということですね?」


 うむ、といった感じでダンが龍斗の言葉に頷く。

 なかなかに飲み込みが早い弟子に対して、ダンは広げた手を見せながら話を続けていった。


「わかりやすいように手本を見せよう。的はこれでいいか。体中に流れる気を感じ取ったら、それをこの手に集めるよう意識を集中させる。すると――」


 そう語るダンがの右手が、白い光を纏った。

 あれが気なのだろうと理解した龍斗の前でダンが右腕を振れば、的として置いておいた薪がスパンと断ち切られる。


 まるで鋭い刃物で一閃されたような切り口を目の当たりにした龍斗が目を見開く中、静かに息を吐いたダンが彼に言った。


「これが気功術の基本じゃ。お主の丹田に喰らわせた技は、今の手刀の応用版といったところかの?」


「なるほど……! あれ? 師匠、技を使えるのは一日に一回って言ってましたよね? 俺の気力を目覚めさせた技と今ので、二回使ってませんか?」


 ダンのお手本を見せてもらった龍斗は気の効果に関心していたのだが、そこでダンの技の制約が引っ掛かってしまった。

 今の手刀はいうなれば『気力を纏っての手刀』という一つの技であるはずだ。

 自分に喰らわせた貫き手もその応用だとするならば、ダンはこの短い間に二回の技を使っていることになる。


 それだと召喚後の彼の言葉と矛盾するのでは? と考える龍斗に対して、ダンは平然とした態度で答えた。


「ああ、すまん。言い忘れておったが、お主は丸一日意識を失っておってな。じゃからわしの体力も十分に回復したということじゃ」


「ええ~っ!? そうだったんですか!?」


 その後にダンは「まあこの程度の技ならそこまで体力を使わんからお手本としてなら一日に何回か見せられるかも」といった感じのことを言っていたが、その前の台詞があまりにも衝撃的過ぎた龍斗に反応する余裕はなかった。

 あれから一日寝込んでいただなんて……と思っていた以上に時間が過ぎていたことを知って驚く彼へと、ダンが言う。


「先ほど言った通り、今見せた技は基本じゃが……お主がこれを覚えるにはまだ早い。まずは基本を覚えるための基礎を固めていくぞい」


「基本を覚えるための基礎固め……なるほど、技よりもまずはそれを使えるようになるための体作りってことですね!」


「お、おお、その通りじゃがお主、妙に理解が早いのぉ」


「そういう系のアニメとか漫画、よく見てたんで!」


 大人気ヒーロー漫画でもそうだったが、強力な技を使うためにはそれに耐えられる頑丈な肉体が必要だ。

 技を使うためにまずは体を鍛える。ダンの話を聞いて即座に修行の意味を理解した龍斗は、物分かりが良過ぎる弟子に若干引いている師匠へとノリノリで尋ねる。


「それで、基礎固めのために俺はいったい何をすればいいんですか!?」


「う、うむ。では、まずは再び変身してみよ」


「わかりました! ……って、どうやればいいんだ……?」


 初めての変身の際は、無我夢中になっている間にいつの間にか体が変化していた。

 命の危機に瀕して火事場の馬鹿力というのが出たのだと思うが、平時にそれをやるのは少し難しい。


 どうすれば変身できるのかと悩む龍斗へと、ダンがアドバイスを送る。


「何も難しく考える必要はない。気力を昂らせ、気合いを入れればそれで良い。体の中で炎を燃え上がらせていくような、そんなイメージを膨らませてみるのじゃ」


「炎を、大きく……やってみます!」


 言われた通りに目を閉じ、精神を集中させて気合いを入れていく龍斗。

 頭ではなく心に炎を燃やし、そこに全身に流れる気力を注ぎ込んで大きくしていくイメージを固めた彼が次に目を開けた時、その姿は再び白と黒の戦士のそれに変化していた。


「やった……! できましたよ、師匠!!」


「うむ。やはりお主は才能がある。さて、修行の内容じゃが……これから食事と眠る時を除き、その状態で過ごせ。全身に気力が満ちた状態を維持し、その状態に体を慣らしていくのじゃ」


「了解です! 徹底的な基礎固めってやつですね!!」


 これも国民的バトル漫画の主人公がやっていたことだが、パワーアップ形態というのは多かれ少なかれ体に負担をかけるものだ。

 常時パワーアップ形態を維持し続けることで体をその負担に慣れさせ、パワーアップ形態のポテンシャルを完璧に引き出せるようにするという修行を知っていた龍斗は、変身した状態でサムズアップをして、了解の意を示した。


「……それともう一つ、お主に大事なことを教えておく。今からわしが言うことを、心に刻んでおけ」


「は、はい……!」


 そうやって修行に臨むことになった龍斗だが、その前にとダンが真剣な様子で話を切り出してきた。

 その雰囲気に圧倒される龍斗へと、ダンは静かに語る。


「わしの下で修行を重ね、成長を遂げれば、お主は途轍もない力を得ることになる。その力を、決して間違ったことに使ってはならない。力に溺れ、欲に溺れ、己の道を見失うな。お主の力は弱き者を守るためにある……そのことを決して忘れるなよ、龍斗」


「……はい。師匠のお言葉、深く心に刻み込んでおきます」


 深く、深く……その言葉に頭を下げる。


 心技体という言葉があるように、何事もまず心構えから始まるものだ。

 自分の気力を目覚めさせる際、ダンから投げかけられた質問を思い返した龍斗は、彼の想いを感じ取る。


(師匠はきっと、俺の心を信じてくれたんだ。力を得てもそれを私利私欲のために使わず、正しいことのために使える人間だと信じてくれたからこそ、俺を鍛えるって言ってくれたんだ)


 あの問答と力に目覚めた直後に子供を守るために蜘蛛怪人に立ち向かう自分の姿を見たからこそ、ダンは龍斗の中に正しい心があると信じ、彼に道を指し示す師匠になろうと決意してくれた。

 その期待に、信頼に、絶対に応えられる男になろうと……そう決意する龍斗の胸には、熱い炎が燃え上がっている。


「……修業は厳しいが、ついて参れ。お主を一人前の男に鍛え上げてやる」


「はい! よろしくお願いします!」


 弟子への愛と信頼を見せるダンと師匠への深い敬意を表す龍斗。

 お互いに相手を信じることをその言葉と行動で表す二人の修行が、こうして幕を開けた。

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