第14話 オタ部屋と夫婦漫才


 部屋の扉を閉じ鍵を閉めるまで、二人は無言を貫いた。

 沈黙を破ったのは、ヴァレリアだった。

 部屋の至る所に置いてあるベルナルドグッズの事を今さら思い出して、半狂乱になりながら一切を燃やそうとしたのだ。


「まっ、待て! 早まるな!」


 すんでのところで彼女を制止したベルナルドはしばらくの間、感慨深そうにそれらのグッズを眺めた。


「どんだけ持ってるんだ?」

 と聞かれるなり彼女は前に進み出て、

「全部だ」

「胸を張って言うことか……? いやでも、これだけ集めたのは大したもの、って言えるのかな」

「そうだろ、凄いだろう。ほら、このベルナルドスプーンなんて未発売だが、宮殿の商品開発部の人間を脅迫して取り寄せたんだ」

「前言撤回」


 なにはともあれ、ベルナルドは感嘆し、それから落胆した。自分のグッズの売れ行きが意外にも良い、というのは知っていた。だがこれを見る限り、その売り上げの大半はヴァレリアによるものであることは明らかだったからだ。


「もしかしてベルナルド人形Ⅰが初日に売り切れたのも――」


 間髪入れずにヴァレリアが語り始める。


「それも本官だ! 本官がだな、流通ルートを捻じ曲げさせて、納品の途中に検品で本官の邸宅に寄るようにさせた。そして中身を改めるうちに全てすり替えておいたというわけだ」

「中身をすり替えた……? おい待てまさか俺のグッズを積んだはずの馬車が堆肥まみれで届いたのは、お前のせいだったのか! あの異臭騒ぎ、なぜか俺のせいにされたんだぞ!」


「い、言いがかりだ濡れ衣だ! そんなくだらない嫌がらせをするものか。本官はしっかり『すり替えがバレないようずっしり重いものでも積んでおけ』とマリーに言ったぞ! そうしたらあいつが『うーん、でも生憎今当屋敷には野菜を育てるための堆肥か、ヴァレリア様の暇潰し用の黒色火薬しかありませんよ?』というから、本官は『うーん、それなら火薬の方で』と言ったんだ」

「なんでだよ! その二択なら堆肥だろ! マリーもお前が火薬を選ぶなんて夢にも思ってなかったろうよ。本気にせず堆肥を積んでくれて良かったわ!」


 その発言でヴァレリアは落ち込んだかのように顔をうつむかせた。


「そうか……そうだな……」

「いや、別にお前がしたことを咎めるつもりは……」

「火薬が馬車の中にあれば、爆発した時に馬が驚くものな」

「驚くどころじゃねえよ。驚くまもなく木っ端微塵だよ。御者込みでな。とにかく! マリーに機会があれば礼を言っていてくれ」


 ベルナルドがこの会話に区切りをつけようとしたそのとき、ヴァレリアはこれまでの自分自分の言動を思い返しては、穴があれば入りたい気持ちになった。


「す、すまない! 悪かった。本官はどうも普通の人がどうとか、どうなるかとか、あまり良く知らなくて……。こうして男を部屋に上げたのだって初めてだし、こんなに話したこともないし……。軍人の仕事をしている時は『不機嫌・無視・他に何か言うことは?』の三つでどうにか乗り切ってきたし……」


 その場であわわ、と動き、右往左往するヴァレリア。


「なんかさ」そんな彼女を見ていたベルナルドが言った。「お前のこと好きになってきたわ」


 その発言にヴァレリアの頭上からプシュー、と蒸気が出始めた。


「ふぇ……っ?」

「俺、お前のことを戦いでしか知らなかったからさ。てっきり日常でもずっとあんな感じで、鉄面皮、冷酷冷徹な感じなんだろうな、って思ってたんだよ」

「今のは……の……と……ことでいいのか?」


 ピクリ、とベルナルドは眉をひそめた。


「わざと合間合間発音してないだろ。聞こえてんだぞ」

「ふふふふ、バレてたか。バレてしまうよな。お前だもの。ふふふ」


 ヴァレリアは口元を隠しながら、くすくすと嬉しそうに笑う。

 思わずベルナルドもそんな彼女に赤面しつつ、返信をした。


「で、なんて言いたかった?」

「……さっきの好き、は、その、本官の告白に対する返事……と受け取っても良いのか?」


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