第23話 幕開け

「え~っと、城内にいた犯人をお連れしました」


 ショウコが執務室に連れてきた人物――レッドランドで最強の魔導士と言われているルイザを指して言った。


「えっ? 犯人? 何のこと?」


 事前に何も伝えられず連れてこられ困惑しているルイザにリズが言う。


「そこのエルフの話から、エルフの里の襲撃したのがどうやらルイザで間違いないという結論に至ったのだ」


「えっ? 何でそうなるの? プリムローズ様? 冤罪です! リズ? どういうことよ? わたしたち親友よね? 親友のわたしを嵌めようなんてどういう魂胆?」 


 無罪を主張するルイザにバルバラも頷いて、


「彼女は犯人ではない。わたしは魔法を使えば嘘を見抜くことができる。レッドランド随一の魔導士ということで調査はしていたがその時の彼女の言葉……エルフの里襲撃に関与しているという言葉に嘘偽りはなかった」


 と、説明してやった。


「そうよ! そうよ! エルフが正しいわ! リズのアホウ」


 と、ルイザ。


「では訊くが、ショウ……コと初めてはじまりの森にレベリングしに行ったのはいつか覚えているか?」


「えっ? 確か半年前の――」


 ルイザが示した日はエルフの里が襲撃事件があった日付であった。


「ではもう一つ、ゴブリンの群れを退治する際、アホウみたいにデカい炎の魔法を使った後に燃えさかる森を鎮火させるために氷の魔法を使ったのも覚えているな?」


「えっ? ま、まあ……」


 と、何かに気付いたようにトーンが下がり気味になるルイザ。


「その魔法を使った地点はどこか指してみろ?」


 と、リズは拡げた地図を指して言った。


「え~っとね、ここ……だっけな?」


「違うよな? はじまりの森から入ってそこにはいかないよな? 何なら今のところ何の事情も知らないカンナにも確かめてもいいのだぞ?」


「わ、分かったわよ? ここよ? ここでしょ?」


 とルイザが指した場所は紛れもなくかつてのエルフの里があった場所であった。


「つまり無自覚のままエルフの里を消滅させた……そういうことか?」


 エルフの里の存在自体ルイザは知らなかった。故に、嘘をついている自覚がなく、嘘を見破る魔法に反応しなかったのである。


「しかし解せん。あんな低級モンスターしか現れん場所でどうしてあんな大魔法を使った? 我々の里を潰すとしか思えないんだが?」


「いや、あれは下級の火炎魔法だったんだけど色々あってあんな威力になっちゃって……っていうか、そもそも閉鎖的すぎるエルフにも問題があると思うの。大体幻術はって人間が踏み入れられないようにしているのだもの。あんなところにエルフの里があるなんて思わないわ。そうよわたしは何も悪くないわ! 閉鎖的なエルフの体質に問題があるのよ!」


「落ち着きなさいルイザ。幸いエルフ側に死者はいませんでした。なのであなたを咎めるつもりはありません」


「……ほ、本当ですか?」」


「本当です。とはいえそれではエルフ側も不服でしょうからレッドランドから補填しますがいかがでしょうか? ただその場合、エルフたちにはレッドランドの保護国等になっていただかなくてはなりません。今の状態はレッドランドの領地に勝手に住み着いている状態になりますので」


 彼女がエルフを騙そうとしているのでなければプリムローゼの話はエルフにとって悪い話でなかった。

 しかし村の長たちが何というかは分からない。


「その前になぜこの国に攻撃を仕掛けたわたしにそんな交渉を持ち掛ける?」


「あなたはハーフエルフなのでしょう? ならば人間とエルフの懸け橋になるにはもってこいの人材ではないですか?」


「ハーフエルフだから、か……なるほどな」


「エルフも人間に歩み寄るときが来たのでは? レッドランドであれば今後法でエルフを守ることも可能ですし、居住スペースに結界を張りモンスターからの脅威からも守ることもできる。エルフにとっても悪い話ではないでしょう?」


「かもしれん。しかし人間には何度も騙されてきた。無条件に信用しろと言われても難しい」


「ならぱ嘘を見破る魔法でも使いますか? わたくしの言葉に嘘偽りがないと証明して見せましょう。ルイザ? 彼女の手枷を外してあげて」


「プリムローズ様! 危険です! おやめください!」


 と、制止をかけたのはリズ。判断としてはそれが正しい。バルバラがしたことを思えば当然である。


「問題ありません。何かあればリズが助けてくれると信じていますから」


「信用していただけるのは大変光栄ですが、そういう事態にならないようにするのもわたしの役目です。どうかいうことを聞いてください!」


「ルイザ構いませんから手枷を外してやってください」


「プリムローズ様!」


「えっ? どっちなの?」


 二人のやり取りに困惑するルイザにバルバラは苦笑して、


「もういい。王女殿下の言葉を信用しよう」


 バルバラはプリムローズの話に乗っかることにした。

 やったことを思えば死罪もあり得るのだ。

 今はプリムローズに従う振りをし、まずは生きて帰る選択を取ることにしたのである。


「では交渉に入っていただけるのですね?」


「ああ、長たちに話は通そう。しかし期待はするな。老人は貴様らが思っている以上に変わることを恐れている。共存の道は厳しい思ってくれ」


 どの道交渉に入ったとみろで頭の固い老人たちが首を縦に振るわけがなかった。

 しかしそんなことはバルバラの知ったことではない。


「そうですか……では根気よく交渉していくとしましょう」


「好きにしろ。何百年かけようと無駄になる可能性もあるがな」


「はい。そんなには生きられませんが生きているうちに実現できるよう努力いたします」


 プリムローズは意志の籠った真っすぐした瞳でそう言ってきた。

 そして交渉は思いの外とんとん拍子に進み、エルフの里はあっさりとレッドランドの傘下に入ることを村の長は決めた。


 これはプリムローズの誠意が通じた結果というわけでなく、以前から長たちは人間界と交わり緩やかに変化を受け入れて行こうと画策しており、そういった意思決定がエルフの里の襲撃される以前からなされていたからであった。


 仮にエルフの里が本当に冒険者の襲撃であったなら今回の流れになって無かったかもしれない。

 またバルバラの作戦で人間側に多数の被害が出ていればやはり今回の流れになっていなかったろう。

 世の中というものはわからないものだ。


 そしてバルバラを含めたエルフたちの新たな時代の幕が開けたのだった。

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