第21話 終わりを告げる

「戻ってきたということは何かしら収穫があったと解釈していいのかしら?」


 ラケシスが問い掛けるとリズは静かに頷いた。


「今自分にやれることはやった。あとは任せてくれ、ラケシス、それにカンナも」


「ええ、頼むわねリズ」


「ありがとうお姉ちゃん!」


 エルフがそのやり取りとリズの姿を見て、一笑に付す。


「誰かと思えば先程逃げ帰った聖騎士じゃないか? HPをフル回復すれば勝てるとでも思って帰ってきたのか?」


 リズはエルフをキッと睨み据えて、


「悪いが今気が立っている。貴様のせいで要らん辱めを受けたところでな」


 と、言い放つ。

 リズはつい先刻のことを思い出していた。


 それはショウマのスキルが発動した後のこと――


「プリムローズ様……」


 身支度を整えて部屋を出るとプリムローズがそこに立っていた。


「リズ、ご苦労様でしたね? 心の中でずっとエールを送ってましたわ」


「いえ、わたしはただ、今自分にできることをしたまでてすが……ありがとうございました」


 平静を装いつつリズはそう言った。


「でもリズがあんな顔するなんて初めて見ました。新鮮でしたわ」


「顔? プリムローズ様……顔とは?」


「こっそり覗かせていただきましたの」


「なっ……」


 言葉を失うリズ。


「安心してください。覗いていたのはわたくしだけです。けれどリズを見て勇気が持てましたわ。わたくしも今わたくしにしかできないことを頑張ろうと思います。ありがとうございました。リズ」


「そ、それは何よりですプリムローズ様。で、では行って参ります」


「はい、無事の帰還を祈ります」


 そしてリズはプリムローズに見送られ、戦場になったこの場に舞い戻ったのである。


「くそがっ……」


 リズは先刻の恥辱を思い出し、改めて頬を紅潮させた。

 よりにもよって一番そういった痴態を見せたくない相手に見られてしまったのだから荒れるのも当然だ。


「さっさと終わらすぞ」


 リズはスラっと剣を抜いて地を蹴り上げる。


「何!」


 一瞬だった。リズの剣が七匹いたオーガを瞬く間に切り刻んだのである。


 そして次はデュラハン。デュラハンはオーガと違ってリズの動きに反応はできていたが、それでも彼女の敵ではなかった。


「あとは貴様だけだ!」


「させるか!」


 エルフは慌てて手にしていた杖を振るおうとして、


「えっ?」


 先程まで握られていた杖が手元から消えていることに気付く。


「探し物はこれか?」


「なっ! いつの間に……!」


 リズの手にいつの間にか自身の杖が握られていて、エルフが驚きの声を上げる。


「うちの魔導士にこいつは取り上げとけと言われていたのでな。こいつがないと今までのように召喚ができなくなるのだろ?」


「くっ……その強さ、どういうことだ? 先程は手を抜いていたのか? どうして覚醒を……いや、スキル……そうか……『アゲチン』か? 『アゲチン』を使ったのだな?」


「んっ? 『アゲチン』を知っているのか?」


「ふ、ふふっ……聖騎士よ。貴様は一つ勘違いをしている」


「何だ? 何のことだ?」


「召喚は杖の宝石が壊されない限り、この距離なら遠隔でも十分には可能なのだ!」


 言ってエルフがバッと手を上げ、杖に向け魔力を送ろうとしたのをリズは見逃さなかった。


「……させるかよ」


 リズは杖の中心にある宝石部分に冷静に剣を突き立てる。


 ぱきぃ~ん!


 宝石は音を立て砕け散った。


「……終わったな」


「くくっ、終わったのはお前たちのレッドランドだ」


 と、エルフが言った。


「何? どういうことだ?」


「お、お姉ちゃん! そ、空に……!」 


 カンナの言葉に空を見上げれば、無数の光の魔法陣が空を埋め尽くすように広がっていた。

 そして光の魔法陣からわらわらと魔獣が湧きだし始めたのである。


「お、おいっ……何をした? 召喚は杖が壊された不可能になるんじゃなかったのか? 騙したのか?」


「騙しちゃいないさ。何かあった時のために前もって魔法陣を用意していた……ただそれだけだ。そして貴様が杖を壊して発動条件が整った」


「……杖だと?」


「ああ、杖の宝石が壊れるのと同時に魔法陣が発動するよう設定しておいたのだ。つまり魔法陣を発動させたのは貴様だ」


「なっ……」


「貴様らは強い。しかし大空を埋め尽くす数千、数万の魔物を一度に相手にするのは不可能だろう? さて貴様のせいどれほどの人間がで死んでいくのだろうな?」


「リズ! 今は責任が誰にあるかとか考えてる暇なんてないわよ!」


 ラケシスが二人の間に割って入り、エルフに問い掛ける。


「魔法陣を消す方法は?」


「ないな。杖を壊された以上わたしには何もできない。仮にわたしが死んでも消えることはないし魔物は召喚され続けるだろう」


「……リズ? こいつを眠らせて」


「わかった」


「んっ? 貴様魔法も使えるのか?」


「いいや」


 どごぉぉっっん!


「かはっ……」


 エルフの体はくの字に折れ曲がり、崩れ落ちる。


「カンナ……こいつを拘束しておいてくれ」


「うん」


「ラケシス? 犠牲者を全く出さずにすべて片付けれると思うか?」


「聖騎士はもちろん王の騎士だって優秀よ。今は各地に点在している彼らを信じて見える範囲の敵を片っ端から処理していくしかないわ」


「そうだな……」


 リズは空を見上げ、剣を強く握りしめたのだった。

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