第20話 リズ
三体のオーガを相手に苦戦を強いられていたリズであったが、ようやく一匹目を撃破した。
「よし、あと二体……」
「いや、」
エルフは杖を地面にトンと突き立て、オーガを召喚して、
「あと三体だ」
と、言った。
「くっ……」
歯噛みするリズを見やりつつ、エルフが言う。
「聖騎士でもこの程度か。千年前に比べてずいぶんと人間も弱体化したものだな。これならわたし一人でもこの国を落とせそうだ」
「……本気で言っているのか?」
「エルフの里を焼失させた冒険者をこの広い国から探すのも面倒だ。この国ごと滅ぼせばそれで済むこと。それに千年前から思っていたのだ。人間は滅ぶべきだ、とな」
「そんなこと、ゆるされるわけないだろう!」
三体のオーガを放置し、エルフに向けて飛び掛かる。
すると彼女を守護していたデュラハンが前に出てリズを迎え撃った。
「気を付けろ。そいつはわたしを守るように命令してある。わたしに攻撃をすれば四対一になるぞ」
その通りだった。リズはデュラハンとオーガ三体に囲まれてしまったのである。
「くっそ」
「リズ? らしくないわね? ズタボロじゃない?」
と、ラケシス。
「お姉ちゃん! 大丈夫?」
そして妹のカンナの声。
「ラケシス! カンナ! 来てくれたか! 召喚士だ! そこのローブのエルフを捕らえるぞ! 魔物はいくら倒してもやつがいる限り召喚され直す!」
「おや、厄介そうなのが二人増えたか」
エルフは杖を地面にトンと突き立て、更に四体のオーガを召喚した。
「なるほど。ここはわたしたち任せてリズ……あなたは下がりなさい」
「? 何を言っているラケシス? ここは三人で――」
「分からないの? 今のあなたはわたしたちより弱い。一旦体力を回復させてあなたができることをしなさいと言ってるのよ?」
「なっ……にを?」
ラケシスは本来リズよりレベルは低い。
しかし今のラケシスはショウマのスキルで戦闘能力が大幅に底上げされていたのである。
そしてカンナも以前戦って辛勝した時からレベルを上げ続けており、そこにショウマのスキルが加わればやはりリズより上と考えるべきと思われた。
つまりはラケシスの言う通りであったのである。
◆
アルヴィダの報告で魔道装置を破壊したのは一人のハーフエルフと判明した。
どうやら彼女の住むエルフの里が冒険者に襲撃を受け、その報復が目的とみて間違いないらしかった。
「ではプリムローズ様? その襲撃した冒険者たちを差し出せばとりあえず一旦落ち着くということでしょうか? それならば闇ギルドに潜入しているという情報屋に探りを入れてもらえば見つかるのでは?」
と、翔馬はプリムローズに訊いた。
「そうですね……しかしエルフの里が襲撃を受けたなどという話はそもそもわたし自身も初耳ですし見つけるのは難しいかもしれません。何なら既にこの世に存在しない可能性すらありますし」
「?」
「我々もエルフがどこに住んでいるか把握していないのです。しかしもし闇ギルドでエルフの里を襲撃した事実があればそういった噂はこちらにも流れてくるものなんです。ですがそれが全くない。となるとその襲撃があったのは何年も何なら十年以上前のことかもしれないんです」
「そんな前の事件の犯人を今になって探しに来たということですか?」
「長寿であるエルフは時間の感覚が我々と違うと聞きますから復讐の準備に時間をかけたという可能性はあります。もしそうであれば襲撃犯は常に危険と隣り合わせの闇ギルドで生業を立てている人間ですから生きているかどうか定かではないということです」
「なるほど……そういうことですか……」
翔馬はできればそのハーフエルフとは友好な関係を築きたいと思っていた。彼女は召喚士であり、もしかしたら自身が日本に帰る手立てのヒントになる知識を持っているかもしれなかったからだ。
「今のわたしたちにはリズたちがうまくやってくれることを祈ることしかできません。悔しいですが……」
「そう……です……んっ?」
翔馬はドタドタッと駆け足でコチラに向かってくる足音に気付き、ドアの方を見やると――
「失礼します!」
ノックもなしに勢いよくドアが開かれる。
「リズ? どうしてあなたがここに? 何か進展があったのですか?」
リズは室内をキョロキョロと見回して、
「プリムローズ様? 今は部屋に二人だけですね?」
「ええ、見ての通り」
するとツカツカと翔馬の前に歩み寄り、そのまま胸倉を掴み上げてきた。
「えっ? 何? 俺……いや、わたし、何かしでかしましたか?」
「ショウマ……わたしにスキルを発動させろ?」
「えっ?」
「ダメか? わたしみたいな男勝りな女では反応しないか?」
「いや、リズさんは魅力的に女性で……って、えっ? スキル? リズさんに? マジで?」
「力が必要ということですね?」
そのプリムローズの問い掛けにリズはコクンと頷いて、
「ただし前はダメだ。前は将来夫になる男性のモノ……故に後ろの穴で頼む。いいな?」
有無を言わさぬという口調で彼女はそんな無茶苦茶な指定をしてきたのだった。
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