第19話 オーガ

「魔物討伐の経験がないとはいえさすがにそのレベルなら落ち着いてやればゴブリンクラスなら余裕だろ?」


 セシリーがゴブリンを一匹倒した後、アズーラがそう訊いてきた。


「はい。何とかなりそうです」


「特に教えることもねーな。フォローの必要もなさそうだ。森の奥に行けば毒や麻痺攻撃してくる魔物もいるから注意が必要だったりするがここまでこないだろう」


「はい。この森で注意すべき魔物の特性などは一応頭に入ってます」


「おお、さすがは優等生。ああ、とりあえず一つだけ」


「何でしょうか?」


「魔物の後処理はレッドランドの一般兵にしてもらうからあんま内臓飛び散らすような殺し方ばっかしてると苦情きちゃうし評判悪くなるからそこだけ注意して」


「内臓飛び散らすような殺し方ですか?」


「前苦情来たからさ。普通にやってくれればそれでいいからさ」


「はい。そうします」


「つーか、多分暇だぞここ。モンスターもそうそう現れんだろうし」


 結界が破られたと言っても、周辺の魔物は低レベルであり、更にラケシスがちょっと離れた森で魔物寄せの香を焚いているため、おそらくは魔物もそちらに流れていくと思われたのだ。


「とはいえ魔道装置を壊した奴の目的が分からん以上、勝手に持ち場離れるわけにはいかんからなぁ~、まあ今日のところは適当に時間潰して――んっ?」


 アズーラがあわただしく駆け回るレッドランド兵に気付き、遠目に見やりながら小首を傾げる。


「何だ……騒がしいな?」


「何かあったのでしょうか?」


 レッドランド兵たちがどこかざわつき始めていることはセシリーにもわかった。。

 そして一人のレッドランド兵が血相を変えてこちらに向かって駆けてきて、


「大変です! 聖騎士アズーラ様!」


「何だ? 何かあったのか?」


「街に魔獣が現れたそうです!」


「魔獣? 何じゃそりゃ? っていうか、どこから入り込んだ? 他の結界も破られたってことか?」


「いえ、情報によれば召喚士の仕業とのことです。魔獣のクラスはわかりません」


「そっか……召喚士も複数いるの?」


「いえ、その辺の情報はありません」


「分かった。急いで街に戻ろう。レッドランド兵は伝令がない限り引き続き魔道装置周辺の警備を。モンスター出たらよろしく。セシリーはわたしと街に……いや、ラケシスたちを呼び戻しに行ってくれ」


「は、はい!」


「んじゃ、よろしく!」


 アズーラは魔獣が出家減したという街に駆け、セシリーは二人を迎えに森に駆け込んだのだった。



          ◆



「おいっ、そこのローブの女待て!」


 リズはアルヴィダが持ってきた情報と完全に合致した怪しげなローブ姿の女を呼び止める。


「何だ?」


「わたしはレッドランドの聖騎士リズだ。フードを取れ。確認したいことがある」


「ほぉ~、聖騎士まで話が行ったか? わたしの邪魔をするなら悪いが容赦はしないぞ」


 言いながらエルフは杖を地面にトンと突き立てる。


 瞬間、光の魔法陣が空に浮かび上がり、そこから魔界の獣が姿を現し、リズに襲い掛かる。

 リズは魔獣を容易く処理すると、一気にエルフに詰め寄り剣を振り下ろす。

 エルフは杖でリズの剣を受け捌く。


「さすがは聖騎士。思ったよりやるじゃないか?」


「おとなしく拘束されろ? 悪いようにはしない。エルフの村を襲った冒険者とやらもこちらでも探してやる。その条件でどうだ?」


「人間の言うことなど信用できるものか。それよりいいのか?」


「何がだ?」


「きゃーっ!」


 悲鳴に振り返る。

 光の魔法陣から再び湧いた魔獣が街の人間に襲い掛かろうとしていた。


「ちいっ」


 鍔迫り合いしていたエルフとは距離を取り、魔獣討伐を優先。


「少々人間を侮りすぎていたか。MPの消費は増えるが致し方ない。護衛をつけよう」


 言ってエルフは杖を地面にトンと突き立てる。

 すると今度は魔獣ではなく、首無しの騎士が魔法陣から姿を現した。


「デュラハンか……」


「これで簡単にはわたしに近づけまい?」


「ならばそいつから倒すのみ」


「焦るな。お前の相手はこっちだ」


 言って再びエルフは杖を地面にトンと突き立てる。

 次に魔法陣から現れたのは棍棒を手にした人食い鬼――オーガであった。


「人間が定めたランクで言えばB級の魔物だ。貴様に対処できるかな?」


「一匹くらい……何とでもなる」


「ふむっ、それもそうか。失礼した」


 エルフは再び杖を地面にトンと突き立て、光の魔法陣を二つ出現させ、言う。


「さしもの聖騎士様もB級三体は厳しかろう?」


 棍棒を手にした人食い鬼が二体追加されていた。

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