第18話 エルフ
「お、姉ちゃん冒険者かい?」
昼間から飲んだくれて道端に座り込んだおっさんがローブを纏った魔導士風の女性に声を掛けた。
「……俺も若い頃冒険者だったんだぜ? 金儲けしたいならいい話があるんだが……どうだい? そこで酒でも飲みながら?」
しかし女性はおっさんの声を全く耳に入っていないかのように通り過ぎる。
「待てや! 無視すんなやこらっ!」
おっさんが無理やり引き留めようと女魔導士の腕をパシッと取った。
すると女魔導士はおっさんをキッと睨み据えて、
「触れるな、人間が……」
言うとおっさんの額に魔法の杖をコツンと押し当て魔力を籠める。
バンッ!
瞬間、横から飛んできた魔法弾が女魔導士の杖を弾いておっさんの額から外れる。
「ひ、ひいっっっ!」
おっさんが腰が抜けたようにみっともなくその場から這うように逃げ出した。
女魔導士が魔法弾を放たれた方向に首をゆっくり巡らし見やる。
「なぜ邪魔した?」
「なぜって……あなた躊躇なく殺そうとしたわよね?」
と、杖を構えたままのルイザは答える。
その後ろには見習いのアルヴィダの姿もある。
「だったらなんだ? あんな虫けら、駆除した方がいいとは思わんか?」
「ただの酔っぱらいよ? 家に帰れば家族もいるでしょうただのね? それより気になることがあるから確かめさせてね」
ルイザはそう言うと風の魔法を女魔導士に向けて解き放つ。
女魔導士は避けようともせずに全身で風を受け、ローブのフードがめくれて顔があらわになった。
「あ、耳が……ルイザ様? もしかして、エルフ……ですか? は、初めて見ました」
女魔導士の尖った耳を見て、アルヴィダが言った。
「そのようね」
ルイザはおっさんに向けて、人間呼ばわりした時点でただの人間ではなさそうだとは思ったが、こんなところでエルフというレアな種族に出会えるとは。
「旅のエルフさん? 訊いてもよろしいかしら?」
ルイザはエルフに向けた杖を固定したままこう問い掛ける。
「増幅装置を破壊したと言われている工作員とあなたの姿がよく似ているのだけれど何かご存じだったりする?」
「それがわたしだと言ったら?」
「あなたをお城に連れて行ってお金をもらおうという選択肢が出るわね。ただ、見逃してあげてもいいわよ?」
「えっ? ルイザ様? 何をおっしゃっておられるのですか?」
と、慌てたようにアルヴィダが訊いてくる。
「何をってエルフよ? お金もらうよりエルフの知識と交換で見逃してあげた方がお得だと思わないの?」
「いや、そんなことしてばれたらこっちも何らかの罪に問われれしまうのでは?」
「ならないわよ。そもそも彼女のせいでまだ誰も死んでないのだし……それでエルフさん的にはどういう選択を取るおつもりかしら?」
「わたしの邪魔をする人間は殺す……ただそれだけだ」
「ずいぶんと好戦的ね? エルフは争いを好まない種族じゃなかったのかしら?」
「先に攻撃を仕掛けてきたのは人間たちの方だ。それにわたしはハーフエルフだ」
「ハーフエルフ? なるほど……それで攻撃を仕掛けたとは? わたしたち人間があなたたちに何かをしたってこと?」
「わたしたちの村を焼き尽くした。おそらくはこの街の冒険者だ」
「つまりそいつらを見つけ出して制裁をくわえるのがあなたの目的ってわけ?」
「そうだな。それも目的の一つだ。一応訊いておくか。そういったろくでもない冒険者やギルドに心当たりはあるか? もしくはルイザという魔導士を知っているか?」
「んっ? ルイザはわたしだけど?」
「そうか。貴様か」
その瞬間、エルフが魔力をルイザに向け解き放った。
「? 何? 何かしたの?」
「嘘を見破る魔法だ」
「何それ面白い。さすがエルフ。教えなさいよ?」
エルフはルイザの言葉を無視して、
「質問だ。エルフの里ほ襲ったのは貴様か?」
「えっ? 何で? 違うけど?」
「エルフの里を襲った連中の中にかなり高レベルの魔導士が混ざっていたとの話だ。この街で最も高レベル魔導士だと聞いて確かめさせてもらったがどうやら貴様は違うようだな?」
「当たり前でしょ? そもそもエルフの里がこの辺にあるって話ですら初耳だし」
「そうか。どうやら嘘をついていないようだな」
エルフはそのまま立ち去ろうとする。
「ちょっと待ちなさいよ。その魔法も教えなさいって」
ルイザはエルフの行く手を遮るように立ち塞がり、彼女に杖を向ける。
「邪魔立てするなら容赦はせんぞ人間?」
言うとエルフは杖を地面にトンと音を立てて突き立てる。
瞬間、光の魔法陣が空に浮かび上がり、そこから魔界の獣が姿を現した。
「魔獣? あなた召喚士? このために増幅装置を壊したってわけ? とはいえその程度の魔獣なら何匹いようと敵じゃないわ」
「そうか? ならば十匹ほど追加で用意しようか?」
と、エルフは再び杖を地面にトンと突き立てる。
瞬間、光の魔法陣があちらこちら浮かび上がった。
そして次々と召喚された魔獣にルイザは取り囲まれた。
「こんな街中で……」
「まだ足りないか? 何なら百匹でも千匹でも出し続けてやろうか?」
「ハッタリを……そんなにMPがもつわけないでしょ」
「ふんっ、舐めるなよ? 千年生きたエルフのMPをな」
どうやらハッタリではないらしい。
「何だあれっ!」
「魔獣じゃねーか?」
「えっ? レッドランドの結界で入れねーんじゃないのか?」
「そういや西の結界の増幅装置が破壊されたらしいぜ!」
街の人間たちがざわつきだし始めた。魔獣を放置していたら彼らに襲い掛かる可能性もある。そうなったらパニック状態になるのは必至。
「仕方ない!」
杖から魔法弾を連打し、魔獣を一匹ずつ仕留めて行く。
「では失礼するぞ」
背を向けるエルフ。
「ちょっと待ちなさい」
追いかけたいところだが次々出現する魔獣を放置して追いかけるわけにもいかない。
「加勢します!」
アルヴィダが言ってきた。
「一人で捌ききれる?」
「いえ、すべては……一つか二つの魔法陣なら」
二人でここに残っても仕方ない。といってエルフを追わすのもやはり彼女には荷が重いだろう。
「分かったわ。城のリズたちにあのエルフのこと伝えてきて! あ、それと彼女の杖だけど――」
ルイザはアルヴィダに伝言を頼み、城に急ぐように言った。
「分かりました! ルイザ様もお気をつけて!」
「ええ、あなたも……」
しかしこの光の魔法陣、どれくらいの魔獣が召喚されるよう術が施されているのだろうか?
「まったく……こんなことになるならショウマ君とエッチしてからくればよかった」
超絶面倒くさい相手を前に苦い笑みでそんなことを独りごちるルイザだった。
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