第17話 警備
レッドランドに4つある魔道結界増幅装置、そのうち西の僻地にある魔道結界増幅装置が破壊された。
完全に結界が消えたわけではないが、増幅装置西側付近からの魔物の侵入被害が予想されたため、レッドランド兵と協力し、王の騎士と王女の聖騎士からも何名かが警備に当たることが決定した。
とりあえずは聖騎士は朝、王の騎士が夜の割り当てとなり、交代で任務に当たることとなった。
警備は昨日の夜番から始まり、つまり聖騎士の任務は今日が初日であった。
立候補して選出されたセシリーはいち早く移動のための馬車乗り場である集合場所に到着し、他の聖騎士たちを待つことにした。
そしてセシリーの次に馬車乗り場に現れたのは責任者のラケシス副聖騎士長であった。
「おはようございます。副聖騎士長」
「おはよう。早いわね、セシリー」
「はい。早く目が覚めてしまいまして」
「わたしは寝不足だわ。馬車の中で寝むれるかしら」
「寝不足で……あっ……」
セシリーは寝不足の理由に思い当たり、口を噤んだ。
おそらくは機能の流れ的にショウコのスキルに関わることで間違いないと思われた。
「どうかした?」
「い、いえ、何でも……」
この繊細な問題になりそうなのでこの話に触れるべきではないのだろうけど、やはり気になった。
そんなセシリーの態度が顔に出ていたのか、ラケシスが苦笑して訊いてくる。
「何? 言いたいことがあるなら言っていいわよ?」
「あ、そうなんですが……」
確かにずっとモヤモヤが続いている状態ではやりづらい。訊くなら他の二人が来る前に訊いておくべきかもしれなかった。
「では、その……ご主人がいらっしゃるのに他の男性と関係を持つ行為に抵抗があったりはしないのですか?」
「あら、今度はずいぶんとストレートに訊いてくるのね?」
セシリーはハッとして、
「失礼しました。やっぱり今のはなかったことに」
「いいのよ。それよりセシリー? レットランドを出たことってある?」
「いえ、ありません」
「この国の民はみんな平和ボケしてるとは思ったことない?」
「平和ボケ? 特には……ありません」
「セシリーは今まで腹を空かせて困った経験とかある?」
「ありません」
「今まで生きてきた中で命の危険を感じたことは?」
「ないです」
「それはとても恵まれたことなの。けれど他国ではそれが当たり前ではないのよ」
「…………」
「弱ければ死ぬ。そしてレッドランドがいつ他国と同じ状況に陥るかは分からない。だから力がいるのよ。守りたいもののために」
「守りたいもの?」
「人それぞれ守りたいものがあったりするでしょう? わたしはそれが家族であったり、友人であったり、そして聖騎士の皆だったりするの。だからね、いざという時のために力がいるの。今回の任務も楽観的に考えれば難なく終わる仕事でしょうけれど、最悪の事態に陥れば命の危険すらある。だから常に最善を尽くしておきたいの。大切な何かを守るためにもね」
「だからスキルを発動させるために甘んじてその行為を受け入れたと? 了解です。副聖騎士長は色々と考えがあってと行動でしたのに、何か……失礼しました」
セシリーは深々と頭を下げる。
「いいのよ? それはただのきれいごとで実際は若い男の子と遊びたかっただけかもしれないでしょう?」
「えっ?」
「例えばの話よ。わたしは力を得る行動をしたけれど、結婚前の他の聖騎士やあなたは真似る必要はないわ? あなたのペースで強くなりなさい」
「はい。ありがとうございました」
そしてそうこうしているうちに他の2名、カンナとアズーラと合流し、馬車で揺られ西の僻地まで移動した。
「あら、本当に派手に壊されてるわね」
壊された魔道装置を見やりながらラケシスが言った。
その壊された魔道装置周辺ではレッドランド兵が警備に当たっている。
セシリーたちはその周辺の森に生息する魔物が街に侵入しないように見張るのが仕事である。
今現在は王の騎士が警備に当たっており、交代でその役割を担うこととなる。
「あー、いたいた?」
ラケシスが見張りをしていた一人の王の騎士に声を掛ける。
「おはよう。ロバート?」
「おや、ラケシス? 今日は君の担当かい?」
さわやかなイケメン騎士である。
「そうよ。セシリーとカンナは初めてよね?」
ラケシスはセシリーとカンナに向き直って、
「紹介するわね? わたしの夫のロバートよ」
するとカンナが「えっ!」と驚きの声を上げて、
「あのセックスレスの!」
と、言って場が一瞬にして凍り付いた。
「あっ……」
失言に気付いて慌てて口元を押さえるカンナであるが時既に遅し。
「ラケシス……お前なぁ~……」
と、夫婦の性生活の実態について知られていたことに苦い顔をするロバート。
「まあ、事実だし……ゆっくり休んで。おやすみなさい」
「あ、ああ……おやすみ」
ロバートは歯切れ悪く言って、去って行ったのだった。
「す、すいません! 本当にすみませんでした!」
と、平謝りするカンナ。
「いいわよ。それよりこの後どうしようかしら? セシリーは魔物の討伐経験はあったのかしら?」
「レベリング経験はありますが、兄たちがいましたので、一人ではありません」
兄たちが全てお膳立てしてくれた状態で、止めだけ刺してレベリングしてた感じである。
「そう。なら街との境目に現れる魔物狩りでちょうどいいわね? アズーラ? セシリーのフォロー頼めるかしら?」
「ええ、いいけど、あなたはどうするの? ラケシス?」
「森の奥に少し開けたとこあるでしょ? そこで魔物寄せの香を焚いてなるべく街に近づけないようにカンナと二人で処理するわ。それでいいかしら?」
明らかにラケシスとカンナの方が負担が大きい分担となったが、まともに魔物討伐経験のなかったセシリーへの配慮であると分かったので意義を申し立てる訳にも行かない。
いずれ一人前の聖騎士となり、他の聖騎士に迷惑を掛けぬよう今はただ自分の役割を着実にこなし、ひたすらに邁進するのみだった。
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