第16話 ラケシス
「わかりました。ではもう一つ別件でわたしからよろしいでしょうか?」
プリムローズはコホンと一つ咳払いをしてから、
「えー、先程ショウコの正体が大浴場でバレたと聞きました。この件に関しては完全にわたくしのミスです。申し訳ありませんでした」
と、深々と皆の前で頭を下げた。
プリムローズの突然の謝罪に訳が分からず場にいた皆が困惑の表情を浮かべていると、
「あのー、なぜプリム様が謝罪されているのですか?」
と、その場を代表するようにラケシスが訊いた。
「はい。彼に女装させて侍女をするように命じたのも大浴場を使用するように命じたのもこのわたくしだからです。一応清掃中の札はかけさせておいたのですが、途中で取り払われたということで、そこは彼に非がないことは信じてあげてください」
「あ、清掃中の札って……もしかしてわたしのせいだったりします?」
メガネの聖騎士が思い出したように言って、
「あれっ? でもわたしが大浴場に行った時、彼の他にカンナちゃんもたいような……」
「はい。その件も説明させていただきます。実を言うと、二人に淫らな行為をするようにわたくしから命じさせてもらっていました……と言っても何のことかは意味不明でしょう? 最初からすべてお話しさせていただきます。まず侍女のショウコですが、彼は異世界からの転移者で――」
翔馬の正体、翔馬のスキル、過去の伝承、そして女装している理由等、プリムローズの口からすべてが滔々と語られた。
「そんなわけで聖騎士カンナのレベル上げのために二人に淫らな行為を命じさせていただきました。結果的に皆さんに迷惑をかける形になってしまいこの度は本当に申し訳ありませんでした」
再び頭を下げるプリムローズにセシリーは複雑な表情を浮かべていて、
「なるほど。個人的には思うところもありますが、いろいろと合点がいきました。しかし一つ納得でないことがあります」
「なんでしょうか聖騎士セシリー?」
「強化という目的があるとはいえ、夫婦でもない二人にそういった行為を強要するのは例え王族とは言え許されることなのでしょうか?」
「あ、セシリーさん、それは違うよ?」
カンナは慌ててそれを訂正して、
「ショウマはわたしの命の恩人で……そういう切っ掛けもあって普通に付き合ってるの。だからプリムちゃん……じゃなくて、プリム様に強要されたとかそういうのは全然ないから!」
「そう……なのですか?」
セシリーは咄嗟に意見してしまったことにハッとして慌ててプリムローズに頭を下げて、
「何も事情も知らずにプリムローズ様に無礼な振る舞いを……失礼しました!」
「いいのですよセシリー。強要はしませんが容認はするつもりですし」
「?」
「彼は性欲が人一倍強いのです。ですからカンナ一人ではその愛を受け止められず困っていると聞きました。故に聖騎士と互いに合意の上であればそういった関係になってもわたしはもちろんカンナもうるさく言うことはないということです」
「えっ? ちょ……」
勝手に性豪みたいな扱いをされ困惑する翔馬。
「なるほど……推奨はしないけれど黙認はすると……しかしもし彼が様々な聖騎士と関係を持ったとしてそれが公になれば聖騎士全体の品位を落としかねないのでは?」
と、ラケシスが訊いた。
「国が強制したわけでない以上、あくまで自由恋愛の範疇です。しかし変な噂が流れても困ります。それも含めて彼の存在とスキルは口外なさらないでください。もしも漏らしたならば国家機密漏洩罪に問われるくらいに思ってもらってもいいくらいです」
「確かに彼のスキルはかなり危険なもの……もしや増幅装置を破壊した者と関係がある可能性はないでしょうか?」
「可能性は低いかと。彼の存在は信用できる者にしか伝えておりません。何なら父王にも内緒にしているくらいですから」
「国王にも?」
「はい。父王に知らせればそれこそ聖騎士全員に行為を強制しかねませんし、何なら政治利用される可能性すらありますからね」
「なるほどではわたしにそのスキルを発動してもらっても構わないでしょうか?」
と、ラケシス。
「……あなたがですか?」
と、プリムローズが少し驚いたように言った。
「はい。ショウマ君? あなたから見ればわたしは年齢的におばさんみたいなものかもしれないけれど、構わないかしら?」
「えっ……おばさんなんてそんな……ラケシスさんはとても魅力的な人だと思います」
ラケシスはおっぱいが大きい。それにやさしいげな雰囲気に顔立ちが整った美人であった。それに何よりおっぱいが大きい。おっぱいが、とても大きい。
しかし翔馬にはカンナという可愛い彼女がいた。最近いい感じてやっていたのにこれでこじれていくのは何となく嫌だった。
そんなことを思っているとそのカンナにラケシスがこう問い掛けた。
「カンナさん? あなたの彼氏さんを一晩借りちゃってもいいかしら?」
「どうぞ。よろしくお願いします」
と、カンナは躊躇することなく答えた。
それに少しショックを受ける翔馬。
翔馬としてはカンナとうまくやってきたつもりであったが、向こうはそれほどてもなく、単にレベルアップのためと割り切って付き合ってただけだったりしたのだろうか? まあ、それならそれで翔馬としても、ラケシスを受け入れやすくなるわけではあるが。
「決まりました、ではプリム様? そういうことでよろしくお願いいたします」
「宜しくお願い致しますって……本当によろしいのですか? あなた既婚者でしょ? さすがに自由恋愛では済みませんよ?」
「大丈夫です、プリム様……うち、セックスレスなんです」
何が大丈夫なのかよくわからないが、ラケシスはそう言ったのだった。
「主人がショウマ君みたいに優しい人だったらよかったのに……」
事がすべて終わった後、ラケシスがぽつり独り言のように呟いた。
「えっ? いきなりどうされたんですか?」
「わたしは主人にもっと愛して欲しいのに、主人はもうわたしを女として見てくれなくなってしまったの」
「えー、勿体ないです。こんなに魅力的なのに……」
ラケシスはとても魅力的な女性である。それに、おっぱいも大きい。
「あら、うれしいこと言ってくれるのね? でもね、主人はそうじゃなかったの。子供を産んでかしらね。あの人はわたしを女ではなく子供の母親として見るようになってしまったのよ」
「あ、お子さんいらしたんですね?」
ラケシスが聖騎士唯一の既婚者であることは知っていたが、子供がいるという情報は入っていなかった。
「ええ、そうよ。子供のためにも万が一にでも死ねないからショウマ君のスキルで強化してもらおうかと思っていの一番に手を挙げたのだけれど……それは自分自身に言い訳しているだけで、本当はただ男の人の温もりが欲しくてこんなことを……妻としても母親としても失格ね?」
「そ、そんなことは……」
「もし今日のこと話したら、主人は少しは嫉妬とかしてくれるのかしら?」
「えっ? ちょ、何言っるんですか?」
ラケシスが翔馬の慌てようにクスッと笑って、
「冗談よ。そんなことをしたら国家機密漏洩罪なんでしょ? 自分から家庭を壊すような真似をするつもりはないわ」
「そ、そうですよね……安心しました」
しかし心の底から安心できるというものでもなかった。
よくよく考えてみれば、もし聖騎士の中にラケシスを陥れたい人間がいれば、ご主人や家族に密告し、家庭を壊すよう仕向けることもできるかもしれないからだ。
そんなことを考えていると、ラケシスがぐいっと身体を寄せてきて、
「ねえ、ショウマ君?」
「わっ、何ですか? どこ触って……」
「若いんだから何度でもできるわよね?」
「えっ? いや、でもそろそろ寝ないと……明日早いんじゃ?」
「何年振りかでしたから火がついちゃったのかしらね? もう止まらないの。火をつけたのはショウマ君なのだから、責任取ってもらうわね?」
そんなわけで翔馬は一晩中ラケシスに責任を取らされたのだった。
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