第13話 武器倉庫

「村が……どうして……?」


 祭りに合わせて数年振りに帰郷すると村が壊滅的打撃を被っていた。


「バルバラか?」


「ババ様? ご無事だったのですね? この有様は一体……?」


「人間じゃ。人間の仕業じゃて」


「人間がどうして……?」


「人間の考えなど知るものか。しかしここにはもう住めんようになってしもうたわい。この地を捨てるしかあるまい」


「人間にしてやられたのにこのまま黙っているのですか? 天災だと思って諦めろとでも?」


「争いは争いを産む。無駄な争いは避けるにこしたことはない」


「わたしはそうは思いません。やられたらやり返さなくてはまた奴らはまたやってくるに違いありません。こちらから打って出ましょう?」


「無駄じゃて。わしらの戦力では返り討ちに会うだけじゃ」


「ならばわたし一人でもやって見せます」


「お前が一人でか? よせ。お前一人で何ができる? 仮にお前が捕まれば報復としてこの村が今度は本当に人間たちに消滅させられるかもしれんのだぞ」


「ならばわたしの仕業と分からぬようにやります」


「……そんなことが可能なわけがない。それとも何か考えでもあるのか?」


「はい。魔獣を利用します。魔獣を街に解き放つのです」



          ◆



「聖騎士長? 少しお話よろしいでしょうか?」 


 セシリーは憧れの存在である聖騎士長リズに声を掛けた。


「んっ? セシリーか? 何だ?」


「はい。聖騎士長にお願いがあるのです。わたしに剣術の指南をしてはいただけないでしょうか?」


 現状、聖騎士長リズとのレベル差は天と地ほどの開きがあるわけだが、自身も聖騎士となり、少なくとも彼女に認識される程度には前進することができた。

 故に更に前進するために彼女に直接教えを乞うことにしたのである。


「剣はいつから?」


「物心ついた頃には握ってました」


「物騒な環境だな。剣術は誰に……父上か?」


「はい。兄や父に教えてもらいました」


「そうか。基礎ができている以上、わたしが教えることは何もないよ。同レベルまで上がれば剣の扱いだけで言えばキミの方がわたしより上かもしれないくらいだ」


「そんなことは……」


「あるさ。相手に剣の腕があろうとレベル差があれば余裕で圧倒できる。そういうもんだよ。だから強くなりたいのであればレベル上げをするのが手っ取り早いだろう。既にキミは訓練では経験値が得られぬレベルまで到達しているからな。実践あるのみだろう」


「なるほど……では、カンナさんに教えたことをわたしにも教えていただけないでしょうか?」


「妹に教えたこと?」


「はい。カンナさんは短期間にレベルを急激に上げて闘技大会に臨んだと聞いています。レベル上げの極意みたいものがあればご教授願いたいです」


「あー、悪いが妹には何も教えていない。聖騎士にもさせるつもりもなくてな……レベル上げもつい最近まで禁止していたくらいなのだ」


「えっ? ではどうやってレベル上げを?」


「うーん。ちょっと知り合いの魔導士に妹を預けたことがあってな」


「ルイザさんですか?」


「おやっ? 知っているのか?」


「はい。友人がそこのお店で最近バイトを始めたのです」


 どういう理由かは知らないが、ルイザ店でアルヴィダが働き始めたのである。


「あー、そういえば若いのが店番に入ってたな。そのルイザに預けて置いたらダンジョンに潜って無茶なレベリングを強行してたらしくてな……だから何の参考にもならんよ」


「そう……なのですか? でもわたしも同レベルくらいだからわたしも彼女くらいにはなれる可能性もあるということですか?」


「いや、妹のレベルの上げ方は推奨できないし、危険すぎて教えるつもりはない」


「そうですか……」


「すまないな。何の役にも立てなくて」


「いえ、勉強になります」


「武器は剣の他に扱えるのか?」


「いえ、剣のみです」


「そうか……ならば他の武器の扱い方くらいは教えておこうか? モンスターによっては武器を変えた方が有利に運ぶこともある」


「はい。お願いします」


「うむ、それなら武器庫の場所は知っているか?」


「武器庫? 把握してません」


「わかった。では案内するからついてこい」


「はい」


 憧れである聖騎士長リズの隣を当たり前のように歩く。

 こんなに誇らしく喜ばしいことはなかった。


「あ、地下にあるんですね?」


「ああ、ほとんど使ってない倉庫で埃臭いかもしれんな」


 リズが倉庫のドアに手を掛けガチャリと開け放ち――


「!」


 その光景が目に飛び込んできて、セシリーとリズは固まった。


 倉庫の中で二人の女性が抱き合っていたのである。

 一人は東方の民特有の黒髪を持ったプリムローズの侍女のショウコ。もう一人は後ろ姿ではあるが、おそらくはリズの妹であるカンナ。

 二人はお互いの舌と舌を絡ませ、濃厚なキスをしていたのである。


「んふっ!」


 ショウコがこちらに気付くと目を丸くしてキスをしたまま慌てふためく。


 バタンッ!


「…………」


 リズが無言のまま一旦ドアを閉め、そしてもう一度ゆっくりと開け直す。


「あ、お姉ちゃん? こんなところに何の用?」


 こちらに気付いた様な仕草でカンナがまるで先程まで何もありませんでしたがみたいな顔でリズに声を掛けてきた。


「いや……お前の同期に武器をな。剣以外にも使いこなせた方がよいかと思ってな」


「そっかぁ~、わたしもそれで見に来たんだ。じゃあそういうことでまた後で」


 と、暗い倉庫から出るカンナ。


 その後を追うようにショウコがリズとセシリーに会釈し、間を縫ってそそくさと顔を上げずにカンナの後を追っていく。

 セシリーは見て見ぬ振りをすべきだろうかと少しだけ考えたものの、


「あのぉ~、カンナさん?」


 と、彼女を呼び止める。


「んっ? 何?」


 振り返って笑顔で訊き返すカンナ。


「え~と、さっきキスしてたよね? 女性同士で?」


「んっ? んんっ?」


 困ったような顔になるカンナ。


「悪いんだけど、全然ごまかせてないから」


「だ、だよねー、やっぱり」


 と、カンナがばつが悪そうな顔をしてそう言った。


「まったく……」


 リズが嘆息交じりに呟いて、


「仕方あるまい。この件はプリムローズ様に報告しよう」


「えっ? やめてよお姉ちゃん! それじゃあわたしが所構わず発情するエッチな子だってプリムちゃんに思われちゃうじゃん!」


「聖騎士長? わたしも事を荒立てたくて指摘したわけではありません。この場限りのことでよろしいのでは?」


 セシリーは聖騎士長リズに進言する。

 他人の性的思考にとやかく言うつもりはない。今後は場をわきまえた行動をとってくれればそれでいい。


 まあ、休憩中に同性同士でべろちゅーしたり、仕える主君をちゃん付けで呼んだりしており、セシリーの中のヤバい奴リストには入れておくつもりではあるが。


「ほらお姉ちゃん? セシリーさんもそう言ってることだしさ。ねっ?」


「ダメだ。変に噂が流れてねじ曲がってプリムローズ様の耳に入るよりは正直に伝えた方がいい」


 どうやらリズの中では既に決定したことであり、それは覆ることはなさそうであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る