第12話 姉
「お姉ちゃん? このままわたしが勝っちゃっても怒らないでね?」
「本気で言ってるのか?」
リズが地を蹴り上げて、
「……調子に、乗るなぁっ!」
「えっ……」
リズの姿が一瞬にして掻き消える。
「どこ……に?」
「こっちだ!」
「!」
リズの蹴りが脇腹にめり込み、次の瞬間、カンナの身体が大きく吹っ飛び、闘技場の壁にめり込んでいた……
カンナはハッとし、身体を起こした。
「まだ、わたしはやれ……って、あれっ? ここって……?」
「医務室だ。もうエキシビジョンマッチはとっくに終わってる」
と、リズ。
「そっかぁー、わたし負けたんだね?」
カンナは蹴りを入れられた左の脇腹をさすってみて、
「あれっ? ちっとも痛くない?」
「医療班に治癒魔法をかけてもらってる。あとで礼を言っておけ」
「うん。それにしてもお姉ちゃんも大人げないなぁー。可愛い妹相手に本気で蹴り入れてくるなんて」
「何度も立ち上がってくるからだ。だから適当なとこで降参しとけと言っただろ? たとえエキシビジョンマッチであろうと、立場上、負けるわけにもいかんのだ」
「うん。ごめん……お姉ちゃんの本気が見たかったんだ」
しかしショウマのスキルで底上げしてもなお、リズとのレベル差は埋まらなかったらしい。
「カンナ? 明日からお前は聖騎士として恥ずかしくない生き方をしろ」
「えっ? 急にどうしたの?」
「お前はわたし相手によくやった。今後は羨望の眼差しを向けられることになるかもしれん。だから期待を裏切るな。常に誰かに見られていると思え。子供たちの憧れとなるような存在となれ。いいな?」
「う、うん……わかった」
そうか。そうなのである。カンナは聖騎士になったのである。
いや、正式に聖騎士に任命されるのはまた先のことであろうが、聖騎士の選考会も兼ねた闘技大会で優勝したのだから聖騎士に決まったも同然であったのだ。
それはカンナの小さい頃からの夢でありも目標。それがようやくかなうのである。
その感動を静かに噛みしめていると、医務室のドアをコンコンッと叩く音があり、ガチャリと開く。
「あ、やっぱり起きてた。声がしてたからそうかなって思ってたのよね」
ルイザであった。
「はい、今起きたばかりですが」
「ちょっと待ってね、カンナちゃん。あなたに紹介したい人がいるのよ。入って」
ルイザがそう言って、医務室の外にいる人物に促す。
「は、はい。お邪魔します」
格好も髪型も女性のそれを示しているのだが、顔がショウマにそっくりであったのだ。
一瞬、ショウマの女装かと思ったが、声は女性のものであり、脳が混乱した。
「ショウマ……なの?」
「あ、は、はい。えと……ショウマの双子の姉の……ショウコです。それでお怪我は大丈夫なんですか?」
「えっ? 怪我は治癒魔法のおかげで何ともなさそうだけど……そんなことよりショウマのお姉さんって本当なの? お姉さんも転移してきたってことですか?」
カンナがそう訊くと、ルイサがショウコに笑いかけて、
「ほらね? バレなかったでしょ?」
と、彼女の髪を引っ張り上げた。
「えっ? ショウマ?」
どうやら黒髪ロングのカツラを被っていただけで、やっぱりショウマであったらしい。
「でも、さっき女の人の声しなかった……?」
ショウマは苦い顔をしながら、首のチョーカーをいじりながら、
「ルイザさんからもらった魔道具。これで声色弄ってるだけ」
と、女の声音で言った。
「そ、そうなんだ……でも何で急に女装? もしかしてそういう趣味あったの?」
「いやいやそんなわけ……実は俺の今後の処遇について決まってさ」
どうやらショウマはプリムローズの侍女として仕えるらしかった。そこで女装してばれるかどうかカンナで試してみたとのこと。
「そっかぁ~、一瞬ショウマかなって思ったけど、声が女の子だからその設定信じちゃったよ」
「そう。とにかくそんなわけでお互い環境変わるわけだけれども、まあ今後ともよろしくお願いしますってことで」
「うん。そだね。お互い新天地で頑張ろうね?」
互いに環境が変わるけれども、プリムローズの侍女と王女直属の聖騎士というそこまで遠くない距離。
環境が変わるとはいえ、物理的な距離ができて疎遠になって自然消滅するということもないはず。
「うん。わたしたちならうまくやれる」
ショウマとの今の関係は今後も継続していければいいなと思うカンナであった。
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