第8話 闘技場
「リズ聖騎士長? 闘技大会の出場者8名か決定したみたいですよ?」
闘技大会の運営を取り仕切っていたレナが言ってきた。
この大会はプリムローズ王女の直属の聖騎士を選出する大会というこもあり、出場資格はレベル15以上の女性に限られている。
「そうか……8人か」
「はい。補欠人員から一人参加です」
レベル15というかなり厳し目の設定で足きりをするため、人数がそう集まるわけではなかった。
なのでレベル15の参加者が多ければ全員参加資格を得られるが、8人に満たない場合はレベル15に満たない補欠人員を含め最低8人を維持する形で大会が開かれていた。
「それで今回有望そうなのはいるか?」
「はい。今年はセシリー様で決まりかと」
「セシリー……確かチノレイク学園理事長のご令嬢か?」
「はい。レベル18で一人だけ突出してます」
「かなり鍛えられているな」
「あすこは代々スパルタみたいですからね……そんなわけで残念ですが、今回は妹さんは厳しいと思います」
「んっ? 妹がどうしたって?」
「はい。妹さんはレベル15なのでセシリー様には勝てる見込みは少ないかと。でもリズ聖騎士長の妹さんってことでみんな期待してますし、来年もエントリーして欲しいですね?」
「いや、ちょっと待て。つまりカンナがエントリーしているってことか?」
「そうですが……もしかして聞いておられなかったのですか?」
「ああ、何もな」
頭を抱えるリズ。あれほど無茶はするなと言い含めたつもりであったのに。この短期間でレベル15まで上げたということは、かなり無茶苦茶なダンジョンの潜り方をしたに違いなかった。こうならぬようルイザにおもりを頼んだというのに。いや人選を間違えたか。ルイザがいたからイケイケで潜ったのかもしれなかった。
色々と言いたいことはあったが、今日は城に詰めるので家に帰ることはできない。
大会が終了したら二人にはきつく灸を据えてやらねばならないようだった。
◆
「久しぶりね、アルヴィダ。一回戦突破おめでとう」
闘技大会、アルヴィダは一回戦を終えて控室に戻ると親しげにセシリーが声を掛けてきた。
セシリーとは幼馴染であったが、彼女は剣士、自身は魔導士。故に道を違えた旧友との久方ぶりの再会であったのである。
「でもあなたの名前を見つけたとは驚いたわ。あなたも聖騎士を目指してたなんて……魔道学院主席のあなたなら他の道がいくらでもあったでしょうに?」
「聖騎士には興味ないわ。あなたも出場すると聞いて、あなたと戦いに来たの」
アルヴィダがそう言うと、セシリーはクスッ笑って。
「あなたもジョークを言うようになったのね?」
「…………」
どうやら冗談と取られてしまったらしい。
「わたしと戦うなら決勝戦ね? どう? 勝ち進めそう?」
「次の相手は今やってるカードの勝者……おそらく勝つのはレベル17の斧使いグレタ……彼女なら魔力の総量でゴリ押しすれば勝てる……と思う」
「ならよかった。とういか次の対戦相手の試合見ておいた方がいいわよね? 声をかけてごめんなさいアルヴィダ」
「いいわ。見ても見なくても一緒だし。それにわたしも久しぶりにあなたと話せて――」
『わーーーっっっ!!』
会場の方から歓声が響いてきた。
「盛り上がってるわね? もしかしてもう決着がついたのかしら?」
言いながらセシリーは控室の窓から闘技場を見下ろして、
「あらっ? どうやらあなたの次の対戦相手、グレタさんじゃないみたいよ?」
「? そんなはずは……確か対戦相手はレベル15の剣士だったはずでしょ?」
まさかと思ってアルヴィダも闘技場を見やれば、確かにグレタは悔しそうに跪き、その隣の剣士の少女が嬉しそうにはしゃいでいた。
「格下相手だからって舐めてかかってやられたのかしら?」
レベルが2つも違う相手を倒すのはかなり大変だというのに、大番狂わせである。裏で金をかけていた連中はこの結果にさぞや荒れていることだろう。
「やっぱり試合を見ておくべきだったわね? 気を付けてね? 何しろ彼女は――あっ!」
セシリーは突如言葉を切り、緊張したようにピンっと背筋を伸ばした。
何事かと振り返ってみるとなぜか聖騎士長のリズの姿があった。
控室に何の用だろうか。セシリーは挨拶ぐらいした方がいいだろうと考えたのか、足を一歩踏みだしたその時、
「あ、お姉ちゃん? 来てくれたの? 一回戦突破したよ」
闘技場から控室に戻った斧使いグレタに勝利した剣士カンナがそうリズに声をかけた。
「お姉ちゃん……?」
「そうよ、アルヴィダ……だから二回戦目は気を付けてね?」
セシリーはアルヴィダの横で小さく言った。
闘技場、アルヴィダの前で剣を構える少女カンナは聖騎士長の妹らしかった。
彼女は1回戦でレベル17の斧使いグレタに勝利していており油断はできない。決勝まで考えればMPを温存したくなるが、そうも言ってられない。負けてしまえばそこで終わりなのだから。よって全力で行く。開幕と同時に大量の攻撃魔法ぶっ放し降参させる。ただそれだけ。
「それでは――」
準備は整っている。同レベルでも剣士と魔導士であれば魔導士の方が有利。負ける道理はない。
「――準決勝第二試合開始!」
試合開始の合図。
「悪いけど、一瞬で勝負をつけさせてもらうわっ!」
アルヴィダは杖を構えて――
勝負は一瞬で着いた。
アルヴィダの首筋にカンナの剣が宛がわれていたのである。
それだけで彼女とのレベル差を理解した。
「参り……ました」
アルヴィダは格下であるはずの剣士に魔法の一つも使わせてもらえず敗北したのだった。
「ちょっと……いいかしら?」
アルヴィダは闘技場から去ろうとしていたカンナを呼び止めて、
「あなた、本当にレベル15なの? あなたの動きレベル15の動きじゃないわ? もしかしてスピードに極振りしたレベルの上げ方でもしたってこと?」
「えっ? 違いますよ。レベル15でエントリーしたんですけど、レベル15じゃ勝てないって言われてダンジョンに潜りなおしたんです」
レベル15という資料はエントリーしたときのレベルであり、今はもっと上がっているということらしかった。
「この短期間で更に上げたってこと? 信じ……られない。今のレベルはいくつなの?」
「あ、測定はしてもらってないです。時間の許す限りダンジョンに潜って何とかセシリーさんに追いつこうと思って……」
「そう……なのね? 完敗だわ」
彼女は強い。場合によってはセシリーよは負ける。しかしそれはあってはならないこと。セシリーはアルヴィダにとって太陽だった。彼女は常に輝き続けてなくてはならなかった。つまり負けは許されない存在なのである。しかも衆人環視の前でとなれば尚更だ。なので彼女は負けてもらわなくてはならない。
「同時期に二人のカリスマは要らない……」
しかしどうやって彼女を排除する? 例えば不慮の事故で決勝に出れなくするとか。例えば利き手を負傷させるとか。例えば剣が使い物にならなくなるように細工するとか。
怪我をさせるのは難しいし抵抗がある。剣に細工するのであればトイレなどで少しでも彼女から剣が離れたすきをつけば魔法で細工することは可能だろう。
決勝までにはまだ時間がある。
アルヴィダは彼女の隙を伺うことにした。
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