第7話 恋人

「ショウマのレベルは5か? やはりはじまりの森のモンスター相手では経験値も獲得しづらくなってきたか」


「じゃあお姉ちゃん? 難易度上げてダンジョンに潜ろうよ?」


「ダメだ。無理をしていいレベルじゃない。それにわたしもそう暇ではなくてな、一旦城に詰めなければならなく面倒が見れん。その間、はじまりの森でじっくり経験を積むこと。いいな?」


「う~ん。わかった」


 カンナがあまり納得していない様子でそう答えた。


「一人で無茶しようとしたってそうは行かないからな? ルイザにはこのままついててもらうことになってるからな」


 カンナの行動を先読みして言うリズ。


「任せといて。お給金分の仕事はするから」


 どうやら国から報酬が出るらしくルイザは張り切っている様子。


「ああ、恩に着る。あとショウマのスキルについてだが、プリムローズ様に報告する必要がある。まとめておいてくれたか?」


「スキルについては研究論文が正確だからそのまま提出すれば間違いないと思うわ。つまり直接体液を体内取り込まないと効果も表れないから魔道薬に加工してっていうのは無理みたい」


「そうか……しかし正確なのに発表当時紛いもの扱いされたのはなぜだ?」


「おそらく他の人間で効果を試そうとしてもまったく効果が実証されなかったんだと思うわ」


「んっ? 効果に個人差があるということか?」


「そうね……おそらくだけど性的に興奮した度合いによって効果が上下するのだと思うわ」


 はじめてのエッチでの効果は絶大で危うく森を燃やし尽くすほどの魔力を増大させたのである。

 しかしエッチに新鮮味がなくなるとバフの効果も小さくなり、魔法の威力も落ちたとの研究結果。


「そうか……なるほど……とにもかくにもショウマの今後の処遇についてもどうするか決めなくてはならないからプリムローズ様には報告させてもらうこととになる。それまでレベル上げに励んでくれ」


「はい。わかりました」


 はじまりの森のモンスターは大方一人手も対処できるようになった。自分で言うのもなんだが、逞しくなったものである。


「じゃあカンナも留守を頼んだぞ」


「うん、お姉ちゃんもプリムちゃんのためにお仕事頑張ってね?」


 その日、カンナはいつもより手の込んだ料理でもてなし、姉のリズを送り出したのだった。




「ねえ? 二人に相談があるのだけれどいいかな?」


 リズを送り出した後、カンナが翔馬とルイザに提案してきた。


「少しだけでいいからダンジョンに潜ってみたいんだけどどうかな?」


「えっ? はじまりの森以上のモンスターがでるとこはまだ危険じゃ? リズさんもまだ早いって言ってませんでした?」


「お姉ちゃんは心配性すぎるんだよ。ルイザさんはどう思いますか?」


「そうね、死にたいなら止めないけど?」


「えっ?」


 ルイザの突き放すような言い方にカンナは言葉を失った。


「そもそもどうしてそんなに強くなりたいの?」


「どうしてって……わたしたち姉妹の恩人であるプリムちゃんに恩返ししたいのとお姉ちゃんの手助けになりたいなって」


「それで聖騎士を目指してるの?」


「うん。だから次の闘技大会までにレベルを15まで上げたいの」


「今年の闘技大会って一か月後よ?」


「……やっぱり無謀だと思いますか? はじまりの森でそこそこ戦えるようになって調子に乗ってたかも」


 と、意気消沈気味のカンナ。

 おそらくルイザの助けがあれば死ぬことはないという甘い考えをしていたに違いない。しかしルイザに突き放され、改めめ自身のレベルと向き合い、諦めモードに入っていると思われた。


「レベル15……自分より高いレベルのモンスターを狩りまくればすぐ届くんじゃない? 理論上は」


「それができればそうなんでしょうけど……そうですよね? 無理ですよね? 仕方ないからこれから一年かけて地道に上げてこうかな、やっぱり……」


「あら? もう諦めちゃうの? あなたの本気はその程度だったの?」


 なぜか焚きつけるような言い方をするルイザ。


「本気です! でも今のレベルでダンジョンに潜っても一匹倒すがやっとでレベル上げとか言ってる場合じゃなくなるかと思って……多分、お姉ちゃんの言うことが正しいんだと思います」


「本当に? 今より強くなって潜ればレベルの高いモンスターだって対処できるはずよ? カンナちゃんが本気で強くなりたくって手段を選ばないと言うんだったら方法はあるはずよ?」


「今より強くなるにもはじまりの森でレベル上げるには時間がかかりすぎるしやっぱり期限まで間に合わないと思います」


「強くなるにはレベルを上げる以外にもあるわ。そしてその方法はカンナちゃんも知ってるはずよ?」


「レベルを上げずに強くなる方法なんて……あっ!」


 カンナがそこで何かに思い当たったように、翔馬の顔を見やった。


「んっ? な、何?」


「ショウマとルイザさんって結局付き合ってるの?」


「えっ? 付き合ってはないよ」


 即座に否定する翔馬の横でルイザも肯定するように頷いて、


「実証実験のために体液を提供してもらってただけよ」


 と、言った。


「そっかぁ~、じゃあショウマってさ、どんな女の子好きなの? 付き合ってないとはいえやっぱりルイザさんとかみたいな出るとこ出てる大人っぽい女の人がいいの?」


「えっ? なぜ急に俺の好みの話を……?」


「いや、だから……わたしとか、ショウマ的にどうなのかなって……ほら、わたし、こことかもまだまだだし……」


 カンナは自身のスレンダーな胸をさすりながら、


「やっぱりショウマもわたしみたいな子供より大人な女性が好きなのかなって?」


「子供って……同い年でしょ? それに日本……俺らの基準だとカンナさんは普通にもてるタイプだと思いますよ?」


「ほんと? それってつまりショウマのタイプ的にも大丈夫ってこと?」


「そりゃあまあ……」


 こんな可愛くて性格もいい子は日本でそうそう出会えるものではない。


「だったらさー、試しにわたしと付き合わない?」


「試しって……」


 翔馬はルイザの方をチラッと見やって、


「悪い大人の誘導に従わない方がいいんじゃ? この人はサンプルとして他の実験結果も欲しいだけだと思いますよ?」


 完全にルイザに焚きつけられた形になっていたのでそう言った。


「あらひどいそんなことは……ないとは言わないけどいいじゃない? 付き合っちゃえば? というか付き合わなくても体だけの関係でもいいし」


「それはダメ! そういうことするならやっぱりちゃんとお付き合いした人と!」


「だってよショウマ君?」


「……カンナさんこっちに好きな人とかいないの?」


「いないよ。わたしまだ子ども扱いされてるし、実際お姉ちゃんと比べると子どもだし、みんなお姉ちゃんの妹としてしか見てないから」


 この国最強の剣士であるリズはこの国でもかなり有名な存在であるらしかった。


「そうなんだ……けど仮に付き合ったとしても、俺、地球に帰れる手段見つけたら、すぐにでも帰るつもりの感じなんだけど……」


「今日明日はどの道無理ね」


 ルイザが横から言う。


「ショウマ君の故郷の座標すら不明だから何年先になるか分からないわよ?」


「そ、そうなんだ……」


「ショウマ? そんな気を落とさないで? ショウマが故郷に戻りたい気持ちがわかるしもしその時が来てもわたしは引き止めたりしない。だから……どうかな?」


 カンナは可愛いし性格もよいし欠点らしいものもない。自分には勿体ないくらいの美少女だ。正直、断る理由もなかった。それに遠く故郷から離れて心のよりどころが欲しいのは確かだった。


「じゃ、じゃあカンナさんが……いいなら」


 カンナは翔馬の回答にほっと胸を撫で下ろすようになり、


「ありがと。せっかくだし故郷に戻れる時が来ても、戻りたくなるくらいわたしのこと好きにさせて見せるね」


 と、にっこりとした笑顔で言った。

 その言葉にきゅんとなる翔馬だったが、


「……こ、こちらこそよろしくお願いします」


 特に気のきいたセリフを返せず、短くそう返したのだった。


「あ、ショウマ? このことお姉ちゃんには内緒にしてね? お姉ちゃんにばれると色々とめんどくさそうだから?」


「ああ、うん……わかった」


 更にルイザ化付け足す。


「というかショウマ君にはスキルの件もあるからしばらくは内緒で付き合いなさいね? 特になんだっけカンナちゃんの幼馴染の男の子……なんて言ったっけ?」


「……ルーシェのこと?」


「そうそう。その子には絶対に秘密でね?」


「えっ? ルーシェって男、もしかしてカンナさんのこと好きだったりするってこと?」


「えー、ないない。ルーシェはお姉ちゃんのファンでわたしのこといじってきてうざかったし」


「へ、へぇ~、そうなんだ……」


 なんかやっぱりそういう感じの可能性が高かった。というかわざわざルイザが名指ししてきたということはそういうことなのだろう。もしルーシェっていう男が訪ねてきたら要注意と心にとどめておくことにする。


「それじゃあショウマ? よろしくね?」


「は、はい。よろしくです」


 そんなわけで二人の秘密の恋人関係が始まったのであった。

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