第6話 スキル

 一匹目を倒してある程度吹っ切れた。


 ルイザのパフのおかげもあるのだろうがことのほか順調に事が運んだのである。


「ルイザ? 鑑定を頼めるか?」


「え~っと、カンナちゃんがレベル3でショウマ君がレベル2ってところね」


「そうか? 初日にしては十分な成果だ。今日はここまでにしよう」


「え~、わたしまだやれるよお姉ちゃん?」


「ダメだ。大分疲労もたまっているし引き返す時間もある。夜は避けたい」


「ちぇっ、まあ仕方ないか。でもこのペースなら闘技大会に間に合うよね?」


「馬鹿言うな。あと一か月しかないんだぞ。闘技大会の参加規程レベル15以上だ。間に合うわけないだろ」


 レベルは最初は上がりやすいが上がれば上がるほど、レベルの上がり方が鈍化していくらしい。またはじまりの森だとレベル5を超えれば一人でもそう簡単に死ぬことはなくなる反面、それ以上のレベルは上がりづらくなるらしかった。


 つまり効率よくレベルを上げるにはより深い層、または危険が潜むダンジョンに潜らなければならないらしかった。先が思いやられる話である。


「リズ? 気付いてる?」


「……囲まれているな」


 囲まれている? リズの言葉に周囲を見渡せば、確かにモンスターの気配があった。斧ゴブリンの群れである。


「どうやら奴らのテリトリーまで入り込んでしまったらしい。連携を取られては厄介だ。ルイザ、二人で片づけるぞ」


 リズが剣を抜き放って言った。


「オッケー」


 ルイザが杖を構えて短く呪文を唱えて、炎の魔法を解き放つ。


「えっ……」


 それはとてつもなく巨大な炎であり、ゴブリンと一緒に一面を炎の渦で呑み込んだ。


「おま……こんなとこで特大火炎魔法使う馬鹿がどこにいる! 森を焼き尽くすつもりか!」


 怒鳴るリズにルイザが軽い調子で謝罪する。


「ごめんごめん。とりあえず氷結魔法出しとくね」


 ルイザは杖を振るって一瞬で炎の蔓延した森を凍らせつくした。


 魔法の威力に呆気に取られる翔馬とカンナ。

 生き残ったゴブリンたちもその圧倒的な魔法を目の当たりにして逃げて行った。


 そして叱責するリズ。


「いくら現役から遠ざかっていたとはいえ、お前ほどの術者ならこんな森で特大火炎魔法使えばどうなるか分かるだろ? 馬鹿か? 馬鹿なのか?」


「え~っと、あのね、今のは特大火炎魔法じゃないの。初級火炎魔法なのよ」


「ふざけるな! 初級火炎魔法があんなでかい威力あるわけないだろ!」


「それがあるのよ。彼のおかげでね」


 と、ルイザが翔馬を指しながら言った。


「えっ? 俺の……おかげって……えっ? 何言ってるんですか?」


「あなたとエッチするとね、エッチした相手の能力が上昇するのよ。そういうスキル……『アゲチン』の持ち主なの。スキルが発動するといわゆる一時的にバフがかかった状態になるのだけれど、わたしの魔法なんか目じゃない程の強力な能力上昇が見込めるみたいね?」


「ちょ、ちょっと待てルイザ? その話は本当か? 聞いてないぞそんな話は」


「ええ、言ってないもの」


 どうやら鑑定の段階でルイザは気付いていたらしいが、自身の体で確かめるために、敢えてその事実を隠していたらしかった。


「しかしもし本当なら国の戦力が傾くほどにショウマの存在はでかくなるかもしれんぞ」


「だから本当だって言ってるでしょ? 過去にも研究結果が記された書があったけど他に事例もなく長い間、紛いものとされてきたの。だから鑑定結果には驚いたわ。本当にあるとは思ってもみなかったから」


「そ、そうか……兎にも角にもショウマの存在を他国に知られるわけにはいかんな。ルイザ? このことは他言無用で頼むぞ」


「ええ。もちろんよ。その代わりな研究させてもらっていい?」


「研究?」


「研究論文によれば彼の体液を直接取り込まないと効果がないらしいの。でもそれじゃあ限りがあるでしょ? だから出された体液を加工して効果あるものに仕上げられないかなってね。協力してくれるわよね? ショウマ君?」


 つまり体液を提供しろということだろう。


「え~っとそれはともかく、僕とルイザさんが運命で結ばれてるみたいな話は?」


「あー、あれはエッチするための口実よ? 怒った? もしわたじゃ不満だったらリズに体液採取を協力してもらうけどそれでどうかしら?」


「なっ! わたしがそんなことに協力するわけないだろ! ふざけるな!」


「だって? ショウマ君? わたしが相手でいいかしら?」


「いや、まあ……それは……はい」


 ルイザはおっぱいも大きいし断る理由もない。


「ありがとう。で、今後はどうするの? ショウマ君の存在意義が分かった以上、レベル上げする理由はなくなったと思うけど?」


 レベル上げをしていたのは勇者としての素養があるか確かめるためであったが、翔馬が呼ばれた理由がこの能力であれば勇者としての素養があるかどうかは関係なくなるということだ。


「レベル上げは続けてもらう。もしショウマの能力が他国に知られたらさらわれる可能性があるし手に入らぬなら命を狙われる可能性すらある。最低限、自分の身を守れるようにレベル上げをしてもらおうと思う。いいなショウマ?」


「えっ? あ、はい」


 確かにその能力が本当であれば命を狙われる可能性があるかもしれないから気を付けなければならないだろう。


 そんなわけでレベル上げは継続しつつ、しばらくの間、日に二、三回、毎日のようにルイザに搾り取られ続ける日々が続くことが決定したのだった。

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