第5話 レベル上げ
「ショウマー、朝だよー、起きて―」
カンナの元気な声。眩しい。もう朝らしい。
「あー、おはようっす、カンナさん」
しかしなかなか起き上がらずにベッドでうだうだとする翔馬。
それに業を煮やしたか、カンナは翔馬にかかっていたブランケットを無理やりはぎ取り言う。
「ほらっ、さっさと起きる。朝食が冷めちゃうでし――えっ?」
カンナはそこまで言うと、ぴきっと表情を固めて、
「……ルイザさん?」
「!」
その名を聞いて一気に目が覚める。
翔馬は昨晩、ルイザと致した後、そのまま寝入ってしまったのである。
しかも二人とも何を身に着けておらず、カンナの視線はばっちりと翔馬の股間に向かっていたのである。
ルイザに抱き疲れたまま、慌てて股間を両手で覆う翔馬であったが時すでに遅し。
「ば、ばかっ~っ!」
カンナは手にしていたブランケットを翔馬に投げつけてきて、部屋を出るとバタバタと階段をすごい勢いで駆け下りて行ったのだった。
「どうした? カンナ?」
「知らない!」
リズの問い掛けに怒ったように返すカンナの声が階下から微かに聞こえてくる。
「くっそ」
翔馬の力で抱き着いたルイザを引き剝がすことができない。
「ルイザさん! 起きてください! ルイザさん」
「う、う~ん……」
しかし起きない。
「お、お前らなぁ~」
「あっ……」
部屋の外からリズが冷ややかな視線を二人に送っているのに気付いて苦い顔になる翔馬だった。
「はじまりの森のモンスターは弱い。レベル5まで上げればソロでも簡単に死ぬことはないだろう」
はじまりの森。伝説の勇者が旅立ちに利用した狩場。
今でも駆け出しの冒険者がレベルを上げるには最適な狩場でもある。
「ただ弱いと言ってもレベル1で突っ込めば苦戦もするし複数相手なら死ぬこともある。無理は禁物だ。特にカンナ。お前だ。自分の力量を把握して動け。いいな?」
「えへへ、わかってるよ。お姉ちゃん」
「分かってないから言ってる。とにかく今は何かあってもわたしとルイザがフォローするから好きに戦ってもらって構わん。以上だ。質問はあるか?」
「あ、あのぉ~」
翔馬はおずおずと手を挙げて、
「昨日遭遇したモンスター、結構強そうだったんですけど、もうちょいいよさげな装備借りれたりはしないんですか?」
翔馬に支給された武器は鉄の剣で防具は皮の鎧と皮の盾だった。伝承の勇者の可能性がある以上、国としてもっといい装備をくれてもよさそうなものであるし、翔馬としても装備だけでもグレードアップさせて生存率を上げたかったのだ。
「この辺のモンスターであればその装備で十分だ。それに駆け出しの冒険者が高額な装備品を纏っていると冒険者狩りで稼いでいる連中に目を付けられる可能性もあってな。どちらかといえばモンスターより危険なくらいなんだ。なのでレベルに見合った装備品と思って納得しろ」
「大丈夫よ、ショウマ君。わたしが魔法でバフをかけてあげるから安心していいわ」
と、ルイザ。どうやら彼女が魔法で身体能力を強化してくれるらしかった。
そもそもリズもルイザもかなりの高レベルであり、二人がいる以上、駆け出し冒険者が絶対に死ぬことのない、至れり尽くせりのレベリング環境であったりしたのである。
これで安心してレベル上げに臨めるかといえばそんなことはなかった。日本で生まれ育って蚊とか蜘蛛くらいしか殺したことがない翔馬にとってモンスターを殺すという行為はかなりのプレッシャーを強いられる作業であったのである。
とはいえ日本に帰るためには腹を括るしかなかった。
何としてもこの国で役に立つ存在として認めさせ、日本に帰る手段を得なければならなかったのだ。
「あら、コボルトよ? ショウマ君いっとく?」
犬顔の人型モンスターだ。こちらを警戒し、牙を剝き出しにしている。
「え~っと……」
翔馬が尻込みしていると、後ろから剣を構えたたカンナが地を蹴り上げる。
「だったらわたしから!」
そしてコボルトを一刀に切り捨てた。
「す、すげぇ……」
思わず感嘆の声を上げた翔馬にカンナは振り返って言う。
「えへへ、ルイザさんがかけてくれたバフのおかげみたいで――」
そこで彼女はハッとしたようにぶいっとむ顔を横に背けた。
それに苦笑する翔馬。おそらくカンナは今朝の出来事を思い出したのだろう。ずっとこの調子なのだ。まあ悪いのは翔馬であるし致し方なし。
「次はお前が行け。お前には早くレベル20になってもらわないとならんのだ」
と、リズが翔馬に言ってきた。
「レベル20ですか?」
なぜ20かと疑問に思って訊き返すと、横からルイザが教えてくれた。
「レベル20になると転職可能になるのよ」
今の翔馬に勇者適正はない。故にレベル20まで育てて可能性を見極めたいということらしかった。
「ということでショウマ君。あのローパーを仕留めちゃって」
ローパー。触手型モンスターだ。人型よりは大分やりやすそうだ。
しかし仮にレベル20まで上がったとして、勇者適正がなかったらどうなるのだろうか? あまり考えたくなかったが、今は目の前の敵を倒していくしかないのだろう。
翔馬は呼吸を整えて、汗ばむ手で剣の柄しっかりと握った。
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