第3話 運命の人
「おー、今度は見向きもされない」
服を着替えたせいで、多少こちらの世界に溶け込めたのか、こちらをジロジロ見る人間はいなくなった。
お城まではそこそこ距離があるので、道すがらこの国の成り立ちをリズから教えてもらった。
西の大陸には大まかに七つの国家に分かれており、その一つが聖女の結界に守護されたここレッドランドであった。
聖女の結界は強い魔ほど通過することができず、七つの国家で一番人が集まり栄える国家になったらしい。
そんな国家に勇者が必要なのかよくわからないけれど、伝承にあるのだから仕方ない。
翔馬は勇者として旅立たないといけないのかもしれなかった。
とりあえず今後どうなるかは王女様と会ってからではないとリズも分からないという。
「あ、あそこに見えるのがお城ですよね?」
遠くにお城っぽい建物が見えてきたので翔馬は訊いてみた。
「ああ、だがその前に、そこのお店によって行くぞ」
リズが古臭い小さな店の前で立ち止まり言った。
「この店は何です?」
「魔道具屋だ」
言うと彼女は小さな店のドアを開けた。
カランコロンカラン。
店番をしている女店主はとても色香が漂う女性であり、思わず見惚れてしまった。
とくに胸がすごい。
「いらっしゃ――って、リズじゃない? ということは後ろの少年が例の?」
女店主はリズと顔見知りのようで親しげに話しかけてきた。
「そういうことだ。それでルイザ。こいつの鑑定をしてくれないか?」
「その子のステータスを鑑定すればいいのね? いいわよ。じゃあそこの椅子に座って」
「えっ? ステータス……あ、はい」
よくわからないけれどルイザと呼ばれた女店主に翔馬は従う。
「じゃあこの水晶に手を置いて」
言われ通りに机の上にこれ見よがしに置いてあった水晶玉に手を置いた。
「なるほど。なるほどね」
ルイザがすらすらと手元の紙にペンを走らせて、
「はい、完了」
と、その紙をリズに手渡す。
それに目を通したリズが顔をしかめる。
「これに間違いはないのか?」
「ええ、間違いないわよ。驚いた?」
「えっ? 何ですか? もしかしてすごい数値だったりするんですか?」
異世界転移特典でボーナス的なステータスを得ている可能性も……
「いえ、違うわ」
すぐさまその可能性はルイザに否定され、
「かなり平凡な数値の村人でレベル1……勇者を期待してこの数値なら驚いても当然よね?」
「えっ? そうなんですか? じゃあやっぱり勇者ってのは間違いってことですか?」
「それはどうかしら? レベルを上げれば勇者適正に目覚めるかもしれないからまだ何とも言えないわ」
「そ、そうですか……」
「ちなみに鑑定の結果、面白いことも分かったわ。彼の運命の人よ」
「運命の人だと? くだらん。そんなものがわかったとして……」
リズはそこで少し考えてから、
「もしや運命の人がプリムローズ様で二人が結ばれて政治的な意味合いでこの国を救うとかいう意味ではあるまいな?」
「えっ? かしこさもそれほど高くないし、違うんじゃない?」
何かもうぼろくそである。
「では運命の人とは?」
「ああ、運命の人はね……魔道具屋の美人店主でお馴染みのこのワ・タ・シ」
「えっ!」
こんなえっちそうなお姉さんが運命の人!
「くだらん。いつも冗談か。行くぞショウマ」
「えっ? 冗談?」
「そうだ。行くぞ」
「あら、ひどい。冗談じゃないわよ。じゃあまたねマイ・ダーリン」
笑顔で手を振るルイザに後ろ髪をひかれつつ、翔馬はリズについて魔道具屋を後にするのだった。
「リズ、ご苦労様でした。彼が異世界からの勇者様ですね?」
RPGみたいなお城に通され謁見の間では王女のプリムローズが出迎えてくれた。若干幼い印象が残る可愛らしい王女様である。
「はい、プリムローズ様。彼が異世界からの転移者であることは間違いないようです。ただステータスはごく平凡なので勇者の素養があるのかは不明です」
「そうですか……勇者様? お名前は何と申されるのです?」
「えっ? 俺……私の名は狭間翔馬です。よ、よろしくお願いします」
とりあえず心証をよくしておくべきだろう。彼女に逆らえば地球に帰る手段を失う可能性すらある。
「ハザマ・ショウマ様……ですね? それでは勇者様、異世界からということで何かと苦労があるかもしれませんがどうか国のために尽くしてくださるようお願いいたします」
「は、はい。自分にできることであらばそうしたいのですが……リズさんがさっきおっしゃられたとおりにステータスが低くて勇者というのは何かの間違いじゃないかと思うのですが?」
「そうですねー、リズはどう思われますか?」
「わかりません。鑑定した魔導士……ルイザの話ですと、レベルが上がれば勇者の素養に目覚める可能性もあるの話でしたが……自分には彼からは戦士としての適性は感じないので判断しかねているところです」
「なるほど。では信用のおけるギルドに彼を預けてレベル上げの依頼を出しましょうか?」
「どうでしょうか? 彼ははじまりの森ですら一人で入れば確実に死にます。ミスが許されないミッションです。なのでわたしにお任せ願えないでしょうか?」
「聖騎士長のあなた自らですか?」
「はい。休暇扱いで構いません。しばらく王宮から離れて我が家で彼を預からせてもらってよろしいでしょうか?」
「あなたがそこまで言うのならお任せしますわ。無論、お給金も出しますのでそこはご安心を」
「はっ、感謝します」
「それでは勇者様、レベル上げ頑張ってくださいね」
「は、はい、が、頑張ります」
と、そんな経緯で翔馬は暫くの間、はじまりの森にてレベル上げに勤しむことが決定したのだった。
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