第2話 エロハザード

「やっぱりここ、異世界ってやつだよな……?」 


 モンスターに剣を振るう美少女、どう見ても日本で見れる風景ではなかった。

 そしてカンナに連れられて森を抜けてその先に広がっていたのは中世ヨーロッパ風の街並み。


 どういう理由か定かではないが、狭間翔馬は異世界に迷い込んでしまったらしかった。


 異世界転移したということは俺は向こうの世界で死んだのろうか?

 確かに死ぬほどショックな出来事があったのは事実だった。

 翔馬はスポーツ推薦で上京し、遠距離恋愛中であった彼女がいたのだが、その彼女にこっぴどく振られたのである。


 彼女はオリンピック強化選手に選ばれるほど優秀な陸上選手であったが、上京してから成績が振るわず、ずっと悩んでいたらしい。


 そしてその日、どういう理由か分らぬまま電話で別れを告げられた。


 そこからよく覚えていないのだが、帰り道に衝動的にふらっとトラックにでも飛び込んだりしたのだろうか?


 いや、そんなことはしていない……と思う。


 しかしこの世界に来る前の記憶がいまいち朧気であった。

 異世界に飛ばされる前何となく夢を見ていたような気がした。


 それはとても変な夢であった。


「あれ……ここは……?」


 翔馬は、一面、霧がかかったような現実空間とは隔離されたような場所に迷い込んでいたのである。


「……ショウ……マ?」


 優しげな女性の声が自身の名前を呼んでいるようだった。


「……誰……んっ? えっ?」


 霧から現れた彼女の姿に翔馬は絶句した。

 女性はやたら露出度の高い衣装を着用していた。そして、耳が尖っていた。


 おそらくは何かのコスプレをしているであろう彼女が、翔馬の顔を愛おし気に見つめて言ってくる


「ああ、やっとだ。やっと会えたよ、ショウマ……」


「えっ?」


 相手は自分を知っているようだが、コスプレ趣味の女性の知り合いなど翔馬には存在せず、困惑するしかなかった。


「眠れぬ夜、何度あなたを思って一人で慰めたことだろう。一万回……そう、一万回だよ、ショウマ?」


「?」


 彼女は翔平の前で膝を折り、制服のズボンに手をかけた。


「えっ? ちょ、何を……」


 抵抗しようとした瞬間である。

 彼女の目が光ったと思ったら体の言うことが利かなり、清い交際をしていた翔馬が体験したことのない淫らな夢が始まった。


 ……………………

 ………………

 …………

 ……

 …


 夢の中ですっきりした後、翔馬をすっきりさせた彼女が言った。 


「ああ、ショウマ……名残惜しいけれど、もうお別れね? 行って……らっしゃい」


「えっ? もうイって……って、んっ? えっ? な、何だ?」


 突如、翔馬の体が発光し始めた。


 そして、そんな淫らな夢から覚めたら気付いたらモンスターがうろつく森に転移していたというわけ。


 いや、それともまだ夢が続いているのだろうか?

 夢だとしたら魔王でも倒せば現実世界に戻れたりするのだろうか?


 よくわからないけれど、今は森で助けてもらったカンナに縋るしかない状況だ。何しろこちらの世界には知り合いなど一人もいやしないのだから。


 カンナは現在、翔馬のために買い物に出かけていた。この街に入って、翔馬の格好が珍しかったためか、かなり不審な目で見られたのである。そんなわけでカンナが服だけでもこちらのものに着替えた方がいいと男物の服を買いに出てくれたのである。

 カンナが帰ってきたら今後どうするのか、これが夢ではないなら帰る手段を見つけなくてはならないだろう。


 ガチャリとドアが開く音。


 噂をすればではないが、どうやらそのカンナが帰ってきたらしい。

 翔馬は椅子から立ち上がり出迎える。


「おかえ――って、あ、あれっ?  誰?」


 帰ってきたのがカンナではなく困惑する。

 カンナより上等な鎧を纏っており、威圧感を感じる女性だった。 


「誰とは人の家で言うセリフか? 貴様こそ誰だ?」


 どうやらカンナの同居人であったらしい。

 言われてみれば顔立ちが似ている。カンナの母ということはないだろうからおそらくは姉であろうか?


「す、すんません。カンナさんに助けられましてお邪魔さしてもらってます」


「カンナに? それでそのカンナはどこへ?」


「あ、はい。カンナさんは……」


 言いかけた瞬間だった。


 ガチャリ。


「ただいま~」


 今度は本当にカンナが帰ってきたらしかった。


「あれっ? お姉ちゃんどうしたの? 帰ってたの?」


「いや、任務の途中だ。それよりこいつは?」


「ああ、そうそう。彼、転移魔法でこっちに跳ばされてき東方の民っぽいんだけど戻れなくて困ってるみたいなんだけど、どうすればいいかな? 国境越えるにはいろいろと手続きが必要になってくるんでしょ?」


「東方の民……貴様は東方の民なのか?」


「いや、その東方の民というのが日本のことなのかそれとも別の地域を指しているのかすら分からない状況でして」


 カンナの姉からの問い掛けにが翔馬はそう答える。

 もしかすると日本からの転移者が頻繁に訪れていて、彼らのことを東方の民と呼んでいる可能性もある。


「とりあえず転移魔法で跳ばされてきたのは間違いないのだな?」


「魔法かどうかは知りませんが気付いたらこっちの世界にいました」


「なるほど。じゃあわたしが探していたのは貴様で間違いないようだな?」


「えっ? お姉ちゃん、ショウマのこと捜してたの? 何で?」 


「プリムローズ様の命令だ」


「えっ? プリムちゃんの? どういうこと?」 


「実はな――」


 カンナの姉リズは聖騎士長という役職であり転移反応のあったはじまりの森に調査に訪れていたらしい。


 しかしはじまりの森に転移者の姿はなく、街での聞き込みの結果、カンナが黒髪の見慣れぬ服装の少年と一緒だったという目撃証言から家に確認しに戻ったとのこと。


「でもお姉ちゃん? 何で転移魔法の反応なんか気にして追ってたの?」


「いずれ世界を救うかもしれない勇者殿をはじまりの森でみすみす殺すわけにはいかないだろ?」


「へっ? 勇者様って……もしかして俺のこと?」


 と、目をパチクリとさせ訊き返す翔馬。


「ああ、伝承通りならな」


 どうやら異世界より現れし勇者が世界を救う的な伝承があり、転移反応を常に確認していたらしかった。


「異世界より現れし勇者様ってどういうことお姉ちゃん? 彼、東方の民じゃないの?」


「黒髪だが東方の民じゃない。異世界人らしい。そうなのだろ?」


「あ、やっぱりそうなんすね?」


 やはり東方の民は日本人のことではないらしかった。

 翔馬は続けて、


「ただ、俺、何の力もないんで勇者ではないと思うんですけど?」


「かつて世界を救ったとされ勇者もレベル1からのスタートだったとされている。レベルを上げれば何かしらの力に目覚める可能性もある」


「そうなんだ……ショウマが勇者様……でも、世界を救うって? 今、魔族とかって悪さしているの?」


「聖女様の結界に守られたこの国にいると感覚が鈍るけれど世界はそれほど安定はしていない。この国も今後どうなるかはわからない」


「そ、そうなの?」


「それよりショウマ? 元居た世界に戻りたいか?」


「えっ? 戻れるんですか?」


「無論だ。貴様の働き次第でその方法をプリムローズ様……この国の王女であるプリムローズ様が帰る手段を提供してくれるだろう」


「は、働き次第って言われてもな」


 本当に魔王を倒せとかそういうことだろうか?

 だとしたら何年かかることやら。仮に十年かかって倒して地球に戻ったとしても高校中退で十年行方不明になっていた自分に新しい場所ができるのだろうか? もう不安しかない状況である。


「ところでカンナ? お前ははじまりの森にで何をしていた?」


「えっ? いや、それは……」


「言わなかったか? 一人でレベリングは危険だ、と?」


「だ、だって闘技大会近いし」


「今年はもう諦めろ」


「えー、また一年待たないとなの? わ、わたしだってお姉ちゃんみたいにプリムちゃんのために働きたいのに!」


「だからって無茶なレベリングして死んだら元も子もないだろ? 時が来たら付き合ってやるからもう無茶はするな」


「えっ? 本当に?」


「諦めろ言われても無理ならばせめてわたしの目が届く範囲でやれと言っている」


「う~ん。わかった。そうする」


 カンナは一人でのレベリングは危険であり効率も悪いと今日の経験で学んだのもあるのか、渋りつつも納得した様子で言った。


「それではショウマよ。城に行くから準備しろ」


「準備ですか? 何の?」


「あ、ショウマ。これ」


 と、カンナに着替えを渡され思い出す。この服では目立つからとこちらの服をカンナに買いに行ってもらったところだった。 


 早速着替えて準備を整える。


「よかった。ぴったりだ」


 と、カンナ。


「はい。ありがとうござました」


「それじゃあ行くぞ」


「はい」


「いってらっしゃ~い」


 と、手を振りながら明るく見送ってくれるカンナ。


「はい。お世話になりました」


 そんなわけで二人は家を出てお城に向かうことになった。

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