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メサバ
第1話 はじまりの森
「プリムローズ様。よろしいでしょうか?」
聖騎士長のリズが王女プリムローズに進言するように言った。
「リズ? 様はつけなくていいわよ。昔みたいにプリムと呼んでよ」
「おやめください。皆の前ですよ? それよりよろしいでしょうか? 例の件ですが、先程、依頼していた魔導士ルイザより報告がありました。転移反応を確認したそうです」
「えっ? 本当ですか? つまり言い伝えは真実であったと?」
興奮気味にプリムローズが訊き返した。
「それは何とも……伝承通りに勇者があらわれたとのか、それとも別の存在か、調べてみないことには何とも申し上げられません」
「それもそうですね。それで転移反応があったという場所はどこなのですか? 近いのですか?」
「はじまりの森です」
「はじまりの森……モンスターがいるじゃないですか? 早急に確保をお願いいたします」
「はっ、かしこまりました。今すぐ捜索隊を手配します」
◆
「な、何よ! ゴブリンってこんなに強かったの……!」
剣を構えるカンナ。 対するは自分より一回り小柄な斧ゴブリン。
伝説の勇者が旅立ちの前にレベリングした伝えられるはじまりの森。
そこではじめてモンスターと対峙するカンナの額に汗がじわりと滲ませる。
「カンナ。一人でモンスター狩りなんてお前にはまだ早い。あと一年待て」
先日姉に言われた言葉を思い出す。やはり自分はまだ守られた塀の外に一人で出るのは時期尚早だったらしい。
それでもはやく強くなりたかったのだ。
近々開催される闘技大会で好成績を収め、王女の聖騎士の資格を得るために。
「だからわたしは負けられない!」
ざんっ!
「キェエツッ!」
ゴブリンが断末魔の悲鳴を上げて絶命する。
「ふ、ふぅ~、やった……のね」
カンナはその場に腰が抜けたようにへたり込む。
何とか一匹は仕留めたものの、たった一匹のゴブリンにここまで苦戦するようではレベリングどころではなさそうだった。
ガサッ
物音にハッとし顔を振り返らせる。
「しまっ……もう一匹……!」
背後に忍び寄る斧を振り上げたゴブリン。
しかし態勢を整えている暇はない。
このままではやられると思った瞬間だった。
迫りくるゴブリンとカンナの合間に眩い光。
訳が分からぬカンナであったがゴブリンも同様であったようで、その光から飛び退って距離を取る。
その間にカンナは態勢を整え、ゴブリンに剣を向けつつも光に注視する。
「……人……?」
光から出現したのはこの地方では珍しい黒髪の少年であった。
初めて目にするが、これが転移魔法というやつだろうか? よくわからないけれど彼のおかげで助かった。
カンナは拾った命でもう一匹のゴブリンと対峙することにした。
「ありがとう。助かったわ」
カンナは何とかもう一匹のゴブリンを討伐し、黒髪の少年に礼を述べた。
「えっ? いや……っていうか、その化け物……何? 何なの?」
「え~っと、ゴブリンだけど……」
黒髪の少年はかなり混乱している様子であった。
もしかして強制的に転移させられたのだろうか?
黒髪は東方の民の特徴である。この辺では見慣れぬ服装であるし、その可能性は高そうだ。
「もしかしてだけどあなた東方の民? ここがどこだかわかる?」
「えっ? 東方? ニホンじゃ……ニホン語通じて……でもゴブリンって……あれっ? どういうこと?」
カンナはその様子に苦笑する。
「いいわ。とりあえずうちに来て、帰る手段を探しましょう?」
このまま夜になるまでこの黒髪の少年をはじまりの森に置いておくわけにもいかない。
カンナは命の恩人である黒髪の少年を家に招待することにして、
「あなた名前は?」
と、訊いた。
「名前……ですか? ハザマ……ショウマです」
ハザマ……聞きなれぬ名である。
「じゃあショウマって呼ばせてもらうわね?」
「えっ? あ、はい。えっ~と」
「あ、わたしの方がまだっだったわね? わたしはカンナ……魔法戦士のカンナよ。よろしくねショウマ」
カンナはにっこりと彼に微笑みかけ言ったのだった。
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