②-①
屋上に上がったのは初めてだった。何かあっては怖いので、前の席にいた友人が後ろでこっそりと僕を見守っている。
給水タンクの影から、万希那さんがすっと現れた。――背中に羽を生やして。
「え? それ、なに……?」
「私の……本当の姿です。私は、天界の使いです。この地に落ちたその十字架を探しておりました」
「お土産屋さんにいっぱいあったけど」
「あなたは天使と悪魔の間に産まれた忌み子なのです」
「両親の出来婚で産まれたってきいてます」
万希那さんは僕の答えには全く動じずに、手を差し伸べてきた。
僕はそれよりも、羽が本物なのか気になって仕方なかった。手を払って、羽を触ってみる。微かに温かい。
「おぉ、すごい。羽の付け根にも血液が巡っているんだね?」
「ちょ、やめてください。引っ張らないで。ちぎれるっ、堕天する! 堕天する!」
数枚の羽根がちぎれて、地面に舞い落ちた。これで羽毛布団を作ったら暖かそうだ。
「さぁ、早く手を取ってください。天界にいきますよ」
「天界には、他にも天使がいっぱいいるんだね?」
「もちろんです」
これは、天使の羽根を使ったビジネスにつかえるかもしれない。
僕は万希那さんの手をとった。そのまま屋上の柵を乗り越え、身を預ける。後ろから、友人の止める声が聞こえてきた。
この日、屋上から二人の生徒が飛び降りたと大騒ぎになった。
しかし、二人の姿はどこにもなかったという――。
-完-
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