第223話

「本当にありがとうございました」




別嬪さんに立たせてもらって、深々と頭を下げる。



この人がいてくれなかったら、どうなっていたか……。




「1つ、聞いてええか?」



「??」




真っ直ぐ射ぬくような視線を向けられる。



どうぞ、と頷けば




「あの反応、お嬢ちゃん……男に襲われたことがあるんやね?」



「っっ」




思ってもみなかった質問に体が震える。



男……に。




あの……



浮かびそうになる顔を、声を、頭を振って追い出し、自分の体を抱きしめる。




「そうか」




察してくれたようだ。



美しい顔が険しく……



あっでも!!




「……未遂っ」



「ん?」



「未遂ですっ」




言う。



犯されていない。


あんな男に犯されてなんかいない。



誤解してほしくなくて、声が大きくなってしまった。



通りがかりの数人の通行人が、こっちを見てくる。




「……股間を」



「ん?」



「股間を膝蹴りして逃げました……」




商店街で何を言ってるんだ、あたしは。



いたたまれなくなってきた時




「……ふはっ」




別嬪さんが吹き出した。



んん??




「そうか、そうか。股間を……アーッハッハッハッ!!」




そして大爆笑。




……おおぅ。


どこにそんな爆笑要素が。




「ごめんな、お嬢ちゃん。お嬢ちゃんには笑い事やないのに」



「いえいえ」




こうまで豪快に笑いとばされると、大したことではなかったのではないかと思えてきた。




「しっかし、股間を」



「はい、おもっっっいっきり」




日頃の恨みもこもっていたと思う。



潰してやる気で、と言うと、またしても爆笑された。



けれど



別嬪さんは目尻に浮いた涙を指先で拭いながら、もう片方の手であたしの頭を撫でた。




「なんっっも怯えることはない。お嬢ちゃん」



「はい?」



「アンタは強い」




そう言って、別嬪さんは綺麗な青い瞳を柔らかく細め微笑んだ。







ーえ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る