異世界召喚も楽じゃない

学校帰り

_______目の前に広がる光景に雨水うすいあおいは目を見開く。

さっきまで学校帰りのカラオケにちょっぴり寄って、6時半になったから帰ろうと思ってカラオケを出た瞬間だった。

目の前の光景が異世界めいた街に変わったのだ。


「・・・・・・・・・は?」


振り返ってももうカラオケはない。見たこともない種族たちがこちらを不思議そうに見てきているだけだ。

なんだ、ここは。

その疑問が思考を支配する。ごく普通の男子高校生の葵が、異世界転生?いや、この場合は死んでないから『召喚』とでもいえばいいのか?

意外と冷静な自分に驚きながらも、葵は肩にかけていたバッグの中身を見た。

3500円が入った財布に筆箱、眼鏡ケース。学校には教科書をほとんど置き勉しているが、大学受験用の参考書とデザイン用のブックが入っていた。あとは購買で買ったあんパンと焼きそばパン。


「日本の金って異世界でもイケんのか?いや、そもそも言葉が通じるかも怪しいな」


手の中で500円玉を転がしながら、葵は街を眺める。

漫画とかアニメを見ていたから、目の前を通っていく人らがなんの種族かは曖昧だが分かる気がする。例えばあの鱗が特徴的なのは蜥蜴人とかげびと、あそこの耳が生えてる人は犬人いぬびと。多分、亜人っていうのは見て分かった。

といっても普通の人も居るみたいだし、ここは本当に異世界のようだ。

葵は近くの段差に座って、バッグん中のあんパンを食べる。

___戻る方法とかあんのかなぁ、帰れなかったらヤバいなぁ___

呑気にそう考えながら、葵はこれからの自分の未来を想像した。

そもそも葵は戦闘能力とかは全くない。生まれてこの方、一回も殴り合いをしたことがないんだよ。

___そもそも、葵ってなんで異世界に来たの?なんか特別なことしたっけ?あれか、貴方は選ばれました的なやつか。にしては女神様とか出てこねェんだけど___

葵は考えるのをやめ、段差から立ち上がると、とりあえず近くの店の店主に話しかける。言葉が通じるかは分かっとかねェとな。


「なあ、おっちゃん」


「あん?何だ、あんちゃん」


「何だって言われるとなんて言えばいいんだろ・・・・・・・・・まあ、旅人ってとこかな?そんでおっちゃんに聞きたいけど、ここってどこ?」


「兄ちゃん、旅人っつうわりには何も知らねぇんだな」


___仕方ねェだろ、こちとら異世界召喚されたばっかなんだよ___

心の中でそう思いながらも、葵は笑顔を保つ。


「少し世間知らずでな・・・んで、どこなの?」


「ここは聖都”アンヘル”、大昔に大天使様が創ったってされてる聖国”ディオス”だ」


___このおっちゃん、厳つい見た目の割に優しいな。てか、やっぱ大天使とか居るんだな。異世界っぽいわ___

それに言葉が通じることも分かった。これだけでも結構安心するなと葵は思う。

他にも色々教えてくれた店主の男に礼を言って、葵はとりあえずの目的を決める。

まず、近衛騎兵団このえきへいだんという所に行くことが決定。そこはなんかこの国を守る組織らしく、日本で言う警察と同じ存在だと思われる。


「まず第一の目的、近衛騎兵団にレッツラゴー!」



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