仕事での失敗〜避難訓練編〜

明鏡止水

第1話 詳細には語れぬ事でございますが。

あるところに、正社員は初めて。

介護も詳しくない。

避難訓練は二度目の経験、という。

明鏡止水というぺーぺーの平社員がおりました。

※この間入った利用者に

「あんたはヒラか? それとも監督か?」

と尊大な態度で聞かれて「ヒラです……」と答えたのを密かに根に持つ明鏡止水。


そんな明鏡止水も四月入社で、五、六、七、八、九、十、十一月が過ぎ。八ヶ月は在籍しております。偉いです。凄いです。しかも仕事で泣いたことは一度もありません!

むしろ先輩を泣かせております! 看護師さんも泣いていると思います!

それくらいに、「あちゃー」な新人なのです。


習っても習っても全然できないし、イレウス? 何それ? 排尿性ショック? 熱発? 感染症?


誰が何を持っているか今更聞けないさ。聞くけど。聞ける時に。


今回の失敗はね。

先輩も「あー……、どうしよっかなあ……」と苦しむくらいのものです。


二度目の避難訓練。どうやら私も何か役割があるようで……。

まあ、PCで文書作ったりとか誘導する人の順番を決めるとかは先輩たちがやってくれているので。

明鏡止水の振り当てられた役割は……。


別館でサイレンが鳴ったら寝てる人を起こして避難口へ誘導する!


だそうです。


……一人で?!

と思ったら先輩が一人ついてくれました。


安心じゃん! と思うじゃないですか。

ただ今回の避難訓練。夜間に起こったという想定なので素早く動かねば!


先輩には「いま寝てる人たちはそのままでいいですから」と言われて「はい!」と元気よく挨拶する明鏡止水。


本館などでは二名で移乗にあたる人や昼間、傾眠の強い人はあらかじめ不参加の札が居室の扉に貼ってあり、参加人数にはいれられていません。

さすが! 施設長、主任、副主任、リーダーの方達! 準備はバッチリです!


しかしねー、統合失調症の影響なのか天然なのか。

明鏡止水は言葉を、「言葉通り」に取ってしまうし、経験も考察も足りない分「質問」が上がってこないのです。


・「いま寝てる人はそのままでいいですから」=不参加でカウントしてるのですか?


とか質問が出てこないんですよ。


別館に行ったら上の役職の方がデイルームの見守りしててくれたんですけどね。四人は寝てるんですよ。仮にあと十人くらいとして全員で十四名いたとします。


しかし、寝てる人たちのところには「不参加 ◯◯様」の張り紙や札もなく、みなさん気持ちよくねていらっしゃる。なかには昼間起きていると疲れてしまう九十代のちっちゃいおばあちゃんもいます。


(ふむ、今寝てる人たちは〜そのまま〜でいいのか)←不参加で起こさず他の人だけ対応すればいいと思っている。


念のため、ぺーぺーの平でも明鏡止水は上の役職の方に報連相します。


「今寝てる人たちは不参加でいいんでしょうか。◯◯さん。⬜︎⬜︎さん、××さん、△△さんとか……」


すると、上の役職の人は。


「え。俺は十四名参加だって聞いてるよ?」


あん? 全員参加だと? あんなにスヤスヤな人たち、普段この時間まで寝てる人たちまで? ここで思うべきなのです。


・避難訓練にカウントする人数おかしくね?


しかし、のちのち語りますが。だんだんと。明鏡止水の夜間想定の避難訓練の定義は、ズレていくわけです。


そこへ、主任がやってきました。


「某先輩に『今寝てる人はそのままでいい』みたいなことを言われたんですが。今寝てる四人は訓練の時、そのままでいいんでしょうか?」


明鏡止水、主任相手に発言頑張りました。

すると主任は

「いや! だって避難訓練の〈実施リーダー〉の人、十四人で考えちゃってるしサ! それに〈不参加〉なら今から張り紙しなきゃでしょ?! あとサイレン鳴ってから全員起こすの大変じゃない?」


ふむふむ。

今回の避難訓練、実施に関して一任されているリーダーの人に今から◯◯さんたち四名寝てるんで、参加人数十名で! と変更・連絡するのはハードルが高い。あんまり喋ったことないのもあるし、向こうも訓練の進行を一任されてピリピリしているかもしれない。ここにきて、初歩の参加人数が変動するとは!


それに、主任の言い放ったお言葉。


訓練の。


サイレン鳴ってから。


起こすの。


タイヘン。


更には上の役職の方の。


俺は。


十四って、聞いてる。


十四て聞いてる。


……それしか言わん。


……明鏡止水。ぶっ壊れます。

あと、夜間想定のひっかけにまんまとハマります。


とにかく、あと一時間から三十分で始まっちゃう!

それに早出の人の仕事で一人オムツ交換入らなきゃ!!


とりあえずオムツ交換に入ってそんなやり取りをしていたらもう、あと三十分で開始時間ですヨ。


ツッコミ所満載ですがね。

明鏡止水、寝てる人をサイレン鳴る前から起こしにかかります。すると、様子を見にきた某先輩が……。引き攣った笑顔で。


「明鏡さん、今回、夜間の想定の訓練なので寝てる人はサイレン鳴ってから起こすんですよ……」


……。


……。


あ。←理解。


「やばい。〈火事想定してる人〉じゃん」


「つうかもはや〈犯人〉ですよね(火事の)」


明鏡止水はものすごい勢いで言い訳をかましましたよ。そういう主張を言い訳だと分かっていても主張として耳を傾けてくれる職場だからなんとかなってます。


「課長は俺は十四名参加だって聞いてる、っていうし、主任は人数が変わるならリーダーに連絡? しなきゃだっていうし、サイレン鳴ってから起こすの大変でしょう、っていってたんですよううう〜!!!!!」


私、年上なのに、めっちゃ仕事できないやん。

つか、改めて考えると夜間想定の避難訓練、根本からひっくり返るわ。これが実際だったら、火事が起こる前に利用者叩き起こしてデイルームや食堂に集める予知能力&迷惑・介護職員の爆誕です……。


泣きつきましたよ、今回も先輩に。

起こしちゃいました、と。


みんなの言葉を言葉通りに受け取ってしまう自分の気性? 性格? 経験のなさや浅慮な自分が全ていかんのか!! もしかして持病のせいで言語の捉え方が拙いのかもしれない。


しかも、ひとりおばあちゃんがガンとして起きない。


今寝たのに!!


と。


先輩はできない年上後輩に困りつつ。

「どうしよっかなー……」と頭を抱え出すまでに至ります。


そうこうしてる間にあと十分で、訓練の放送がっ。


とりあえず先輩は比較的車椅子で自走できるすぐ動ける人を居室に四人ほど送り、


「始まったら今の人たちを避難口まで誘導してください。必ず居室に誰もいないことを確認して。夜間想定なので私はいないものと思って行動してください」


あざやか。


鮮やかです!!


やがて避難訓練のサイレンが鳴りました。

先輩も〈いない者〉存在として存在しつつ、こっそり誘導をしてくれます。

そして、

「耳がつんざく!!」

と激怒する寝ちゃって絶対起きない利用者様お一人。


ひとりだったら、パニくりますね。実際の火事が恐ろしい。


やがて内線が鳴り、「本館の避難が完了!」したことが知らされますので、私の役目はここで別館も避難が完了したことを伝えることなのですが。


緊張と焦りと経験不足って、なんでしょうね……。


「はい! 一階別館本館の明鏡です! 

十四名! 無事に避難しました!」


……どっち?(別館かい? 本館かい? 別館だろうが)


もう。総合してなんたる凄惨な散々な成績?

誘導?


反省点、三つ。


・サイレンが鳴る前から利用者を起こしにかかってる。改善点としては怯まずに実施リーダーか主任にもう少し食い下がって人数や休んでいる人の参加をどうすればいいか聞けば良かった。


・一人、めっちゃ起きなくて。そういう時は訓練だろうが本当は引っ張っていってでも避難訓練させたいくらいだが無理強いはしないのでそのまま。スムーズに誘導できたらよかった、と心残り。

……ほんまの火事なら取り残されるやん。私と利用者のそのおばあちゃんが。建物の造り的に火はこなさそうと言われているところですが、煙や風向きなどなにがあるかわからんので。

実際火事になったら命懸けで避難一緒にしようと思います……。


・もう一つ、落ち着いて内線にて報告できなかったこと。


その後は消化器にお水を入れて三角コーンに、発射して消火訓練等。


帰ってきて、先輩、ひと段落したら。

明らかにご立腹、に見える。

しかも私が持ってこなくても良いかな? と判断した記録ファイルをいつのまにか持ってきていて。

利用者全員の個別記録に避難訓練に参加されたことをしっかりご記入。


至らなくてすみません、というよりは。


私だって皆さんの主張に翻弄されたひとりだよ……、ととほほな訓練でした。


本当の火事があったら、本当に大変だろうな。


・消防隊が到着するまで七分、と言われている。

・しかし、今回かかった時間は十分以上。

・実際はもう少しかかることが想定されるだろう。

とのこと。


もし、私がサイレンが鳴ってから寝ていた人を起こしていたら二十分以上かかっていたので、ヤバヤバではないデスカ。


と、私もモヤモヤしておりました。


とりあえず、今日はよく見ていただいてる厳しい先輩は夜勤明けで早々に帰ったのでこの事態は知られることはなく。教育係の先輩もお休みでした。


これも、経験、と割り切るにはちょっとやっぱりさっきも書いたけどモヤモヤする。


一応、反省点は主任に報告しておいたけど。

なあなあになりそう。


そんな感じで、今日も介護職員として経験を積ませていただいている明鏡止水でした。


皆さんのお仕事のモヤモヤや、どうにもうまくいかなかったお話など待ってます。


なお、実際の施設を想起・特定されないよう利用者の人数やその他の事柄は少し変えさせていただいて書いてますね。

皆さんの地域の老人ホームも利用者様やそのご家族のために尽くしていると願って、日々、それを糧に精進いたします!

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仕事での失敗〜避難訓練編〜 明鏡止水 @miuraharuma30

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