第2話 復讐しよう
「俺は後悔してないからな!」
「当主様。見ず知らずの子供に本気で膝蹴りするのはさすがに後悔してください」
帝国1番の公爵エドワード家の当主──キリア・オーネストさんは、ふん!と効果音が付きそうな勢いで顔を横に向けた。
それを紅茶を差し出しながら、執事──セバスさんと言ったか──が宥める。
応接間に通された俺は……何を見せられてるんだ?
「ふん、まぁいい」
キリアさんは正面を向き、俺の目を見る。
……ってか、「ふん」って口で言っちゃうんだ。
「それで、貴様は何が目的だ?」
鋭い眼光で睨まれ、俺は思わずひゅ、と息を呑んだ。
オーネスト家。帝国1の公爵家であり、王国にも名を馳せている。
交渉の場になれば、巧みな言葉遣いで常に優位に立ち、戦いとなれば最強の3人が出てくる。
かと言って、下手に目立つよつな動きはせず、硬派な貴族。
……弱気に出れば、まず狩られるな。
「と言いますと?」
だから俺は質問で返した。交渉において、『お願いする側』の禁忌を、初っ端から使っていく。
しばらく睨み合いが続くと、キリアさんがふっ、と笑った。
「いい度胸だ。気に入った。いいぞ、警戒を解いて。セバス、こいつに茶を」
「かしこまりました」
セバスさんは一礼して応接間を後にした。
「それで、なぜ試すような真似を?」
「何のことだ?」
「あなたほどの人ともなれば、私に敵意が無いことなど分かるでしょう」
俺がそう言うと、はっはっはと優しい声で笑った。気を許した相手にはここまで態度が変わるのか。
仕事モードとプライベートモードの切り替えも一流だ。
「まぁな。ただ、あの勇者パーティーの者となれば、俺でも見破れんかもしれぬと思ってな」
なるほど。念には念をというヤツか。
「それで……王国から亡命、というのはどういうことだ? あんたたちが魔王を倒したんだろう? 俺たちの手柄をすべて横取りして」
「──当主様、本音が漏れてますよ」
いつの間にか戻ってきていたセバスさんがキリアにツッコむ。
そして、俺の前に紅茶を置いてくれる。
「ありがとうございます」と言いながら小さく装飾されたティーカップを手に持つ。
気分を落ち着かせるいい香りがしてくる。
それに俺は──
「降霊術・なんか良い感じ浄化してくれるやつ」
何の遠慮もなく、降霊術を使った。
「ほう、いい警戒心だ。それにお前、あの降霊術師なのか」
「すいません、何も入ってないとは思いますが。まだ完全に受け入れてもらえてるか分からないので」
「ん?」
「……え? ほんとに何か入ってたのか?」
「いや、まあ……これからもその警戒心は大切にしろよ」
「教えてくれないのが1番たち悪いんだが」
あまりの恐怖に思わず敬語が取れてしまう。
一瞬光り、浄化の終わった紅茶を一口すする。
香ばしい香りが鼻を通り抜け、深みのある味わいが舌をなでる。
リラックス効果もある、いい紅茶だ。
他の紅茶を知らないが。
「それはそうと、本題に戻ろうか」
俺がカップを置くと、キリアさんが話を切り出す。
そして俺はキリアさんに、『追放されたこと』『復讐したいこと』などを大まかに説明した。
やはり改めて言語化しても、『未知のスキルで危険』という理由で追放されたことには怒りしか感じない。
すべてを話し終え、紅茶を一口。
「う、うぅ……」
すると、キリアさんが泣き出した……泣き出した?
「ちょちょ……! どうしたんですか!?」
たしかに全くいい話では無いけど、そんな泣くほどのものでは無いんだが……?
「すいませんバース様。当主様はめちゃくちゃ涙脆く、少しでも可哀想と思えば自然と涙が溢れる生物なんです」
セバスさんが横から説明を入れてくれる。
えぇー……? 初対面膝蹴り筋肉モリモリおじさんが、涙脆い……?
ギャップ萌えしちゃうじゃないか……!
「よし決めた!!」
するとキリアさんは突然バンと机を叩き、勢いよく立ち上がった。
その眼は充血していた……えっ泣きすぎじゃない?
「バースよ、俺の子供となれ!」
俺の子供となれ────俺の子供と────
「…………は?」
キリアさんの言葉が反芻しながら俺の頭に入ってくるが、どれだけ経っても理解できなかった。
『復讐したい』からなんで『子供』になる!?
「あぁ、すまない説明が足りなかったな」
俺が困惑しているのに気づいたキリアさんが、椅子に座りながらそう言った。
よかった、やっぱりなにかの例えだったんだな。
「すでにこの世に生まれているお前が、今から俺の子供となるのは生物学的に不可能だ。どうやら教会に申請すればできるとか聞いたことあるが、俺は知らん。ただ、お前を事実上、書類上の息子として引き取ろうと思ってな。お前の知っての通り──」
「いやそこじゃないんだわ」
なにやら俺の知りたいこととはまったく関係ないことを、ツラツラと述べだしたキリアさんを無理やり止める。
「なんで子供になるんですか!?」
もう俺から聞くことにした。
「だって、帝国に亡命するのだろう?」
「え、えぇ」
「『王国の勇者パーティーのバース』。この名で帝国に入ればいつかは殺されるぞ?」
「……む」
たしかにキリアさんの言うことに一理ある。
帝国の敵代表みたいな名前では生きていけないか。
なるほど、その偽名を得るために子供になる、と。
「俺をここまで信頼していいんですか?」
また疑問に思ってしまうのはしょうがないことだろう。
「さっき話してもらった経緯だが、お前が話している間嘘発見器を使わせてもらったんだ」
「嘘発見器……?」
「あ〜、セバスが開発した魔道具だ」
なるほどなるほど。セバスさんが開発したものなのか…………えっ!?!?
「そこまで驚いてもらえると作ったかいがあったというものですなぁ」
ほっほっほ、とセバスさんが笑いながら、手で隠していた魔道具を俺に見せてくれる。
いやいやいや、魔道具の作成とかほんとに選ばれた人しかできない超高等技術だって……!
すごすぎないか……!?!?
「それに反応しなかったのが信頼を置けた最後の理由だ」
「あ、ありがとうございます……」
「──だから、次が最後だ」
キリアさんが再び鋭い眼光になる。
そして、魔道具からカチッという音がなった。魔道具を起動したのだろう。
「お前の、目的はなんだ?」
何回も答えたその質問。
だが、俺は何回でも嘘ではないと証明してやる。
「俺の目的は、王国に復讐することです。そのためなら、なんだってするつもりだ」
キリアの眼光に負けじと、しっかりと目を合わせて言った。
嘘発見器に反応は、無い。
それを見たキリアは、ふっと笑い。
「よかろう。お前の亡命、この俺が助けてやる。そしてお前の復讐劇もな」
キリアが差し伸べてきた手を、俺はしっかりと握り返した。
《あとがき》
プロローグをお読みいただきありがとうございます。
明日より毎日投稿していけたらな、と思っております。
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狂想の降霊術師〜王国から追放された俺、復讐のために努力したら思ったより最強のスキルにつき〜 もかの @shinomiyamokano
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