狂想の降霊術師〜王国から追放された俺、復讐のために努力したら思ったより最強のスキルにつき〜

もかの

プロローグ

第1話 追放

「がはっ!」


 両手両足を縄で硬く絞められた俺は、Bランクの魔物で溢れかえっている森に、馬車から投げ捨てられた。


「その不気味な力で、精々頑張ることだな。降霊術師ネクロマンサー、バースよ」


 俺が反論する暇もなく、バタンと扉が閉じて走っていった。


 元勇者パーティーの俺、魔王討伐後に追放される。といったところか。

 そんなこと考えてる場合じゃないな。


 まずは状況を整理すべきか。


 幸いにも目隠しはされなかったおかげで、ここが王国と敵対国である帝国領の森であることは分かる。


 そして、今の俺は縄で縛られているため、ここで死ぬか、奇跡的に助かって王国か帝国で殺されるかの2択。


 ……かなり絶望的だが、とりあえずこの拘束を解かないと話にならないな。

 ちょうどよく魔物が来ればいいが……。


「グルルルル……」


 そんなことを考えた最中、一匹の魔狼が殺意を垂れ流しながらゆっくりと歩いてきた。


 そんなに完璧なタイミングすぎたら逆に怖いが、まぁ利用できるものは利用しよう。


「降霊術・前世の俺」


 この世界に転生してくる前の俺を、目の前にやってきた狼に降ろす。


 つまり、敵を意思疎通できるようにし無力化できる。


 俺が降ろされた狼はガクンと頭が落ちると、その後すぐに起き上がった。

 殺意は無くなっていた。


『グルル(もうこれで何回降ろされたと思ってるんだ)』

「ごめんって。とりあえず、この縄切ってくんね」

『グル(はいよ)』


 縄を噛みちぎってもらった。腕もちょっと噛まれて血が出たけど、してもらった立場だから黙っておく。


『グル、グルルルル(それじゃあ帰っていいか? 今美人のお姉さんとティータイムしてたんだ)』

「あぁ、もうちょっとだけ付き合ってくれ。帝国に寝返ろうと思うからそれまで護衛してくれ」


 いろいろ考えた結果、帝国に亡命できたらその後王国に復讐しようと考えた。


『グルルルル(情報が多すぎるけど、マスターに従うことしかできないから分かった)』


 前世の俺に頑張ってもらい、なんとか無事に森を抜けることに成功した。




 そしてしばらく歩いて、帝国1の伯爵家、オーネスト家についた。


「何者だ」


 正門に向かうと、門番の男に声をかけられた。警戒心MAXだった。

 敵ながら素晴らしい。いやこれから仲間になりにいくんだけど。


「たった今身分を失ったものです」

「?」


 門番は分かりやすく困惑の表情を浮かべる。

 おかしいな、この上ない完璧な説明だったはずなのに。


 あと、前世の俺には再び天国に帰ってもらった。魔物を連れていては反逆者にしか見えないからな。


「そ、そんな素性の分からぬやつを通すことは出来ないからな」


 そりゃそうか。ただ、他の家を探すためにこれ以上歩くのは厳しい。

 正直めっちゃお腹すいた。


「では、降霊術師ネクロマンサーのバースだと伝えてくれ。分かるでしょう?」

「なっ……!?」


 俺がそう告げると、護衛はすぐに臨戦態勢を取った。

 よく訓練されているな、素晴らしい。


「この国でこの名を述べることの危険さは貴方も分かるはず。それが嘘でない証拠です。それに、私に攻撃の意はありませんので、どうぞ縛ってもらって」

「???」

「とにかく、当主様に『バースが亡命しにきた』とお伝えしてほしいです」


 これで無理ならもう諦めるしかない。


 まだ亡命できるかも分からないのに、ここまで情報開示するのは危ないかもしれない。


 でも、あれだけ魔王討伐に貢献したのに追放されたのだ。

 冷静に見えるかもしれないが、内心めちゃくちゃ怒ってる。今すぐに滅ぼしたいくらいには。


「ちょ、ちょっと待っててくれ。当主様に確認してくる……お前からは確かに敵意は感じられないが、手だけは拘束させてくれ」

「足はいいんですか?」

「逃げたらそれまでだからな」

「なるほど」


 この護衛、ほんとによくやる。帝国1の伯爵家も伊達じゃないな。

 いい亡命先かもしれない。


 正門の柱に寄りかかって待っていると、「あっ!」という女性の可愛らしい声が、邸宅の聞こえてきた。


 そちらに視線を向けると、腰まであるストレートの長い白髪をさらさらと揺らしながらしゃがみ込み、手のひらに小鳥を乗せている女性がいた。


「あぁ……ケガしちゃってる……」


 気づいたら、俺は彼女の元に歩いていって、声をかけていた。


「どうかしたか?」


 俺の声に彼女は顔を上げた。


 まるで神が作ったように完璧に整えられた美しい顔は、優しい赤色の瞳から溢れた涙で濡れていた。


 年齢は俺と同じ15歳ほどか。


「あなた、は?」

「私は……放浪人、とでも名乗っておこうか。それで、そんなに美しい顔を崩してどうしたんだ?」

「こ、これ……」


 彼女は恐る恐るといった感じで、手に乗せた小鳥を見せてくれる。


 よく見ると、左足が切れていて血が出ていた。

 木の枝とかで引っかいたか。


「ちょっと見てな」

「え……?」


 このくらいの傷なら、うちの霊がなんとかしてくれるだろう。


「降霊術・なんか良い感じに治療してくれるやつ」


 俺がそう言いうと、小鳥が一瞬淡く光った。


 少しすると、光が収まり傷も無くなっていた。そして、何事もなかったようにパタパタと飛んでいった。


「す、すごい……!!」


 彼女が目を輝かせて俺を見つめてくる。


 まぁ、何が降りてきたのか知らんけど。


 俺がさっきみたいに言うと、なんかの霊が降りてきて、自身が宿った身体が怪我をしていると勝手に治療して、治ったらどっかに行ってくれる。


 言語化すると危ないことこの上ないが、魔王討伐の道中からやってきたことだし、ほんとに問題ないんだろう。


「お嬢様!!」


 すると、戻ってきた衛兵の大きな声が聞こえてきた…………ってお嬢様?


「クルードさん! あのねっ! この方が小鳥を治してくれ──」


 彼女が元気よく衛兵──もとい、クルードに返事をした。

 その後ろには、よく鍛えられた男性が付いてきていて……ん? なんかこっちに走ってきてい──


「なぁぁに娘と仲良くしてるんじゃごらあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「ごはぁぁぁッッッ!!!!」


 俺は男性──いや、現当主の膝蹴りを思いっきり腹に食らったのだった──。

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