武者の記憶
――私は一体何事を成したのだろうか。
物心付いてより父上に剣の道を進むことを強いられ、それが普通であると疑いもせず育ち、齢十歳にして矢や砲が飛び交う戦場に立った。
ただひたすらに剣を振り、目の前の敵を物言わぬ肉の塊へと変え続けた。
時には矢に四肢を貫かれ、敵の刃で袈裟斬りにもされたこともあった。しかし、その度に治療院へと連行され治療を受け、再び戦地に立った。
何のために戦っているのかは知らなかった。
誰を殺したのかも解らなかった。
私だけではない。皆だ。
ただ言われるが儘に刃を振るい、死んでいった。
そこに敵や味方などという区別は存在しなかった。
週に一度だけ戦が止む日というのがあった。
その日だけは普段は矢面に出てこない治療院の者や軍の将といった出てきてはならぬであろう者まで総出で戦地の死体を片付けた。
敵の軍も同様であった。
そんな中で私達は死んでいった、あるいは自らが殺した相手を棺に入れ、戦場の片隅にある共同の巨大な墓地へと運んで行く。
幾度か、前日まで死合いをしていた相手と顔を合わせたこともある。
前日までは味方を殺されたことに怒りと憎しみを覚えて刃を振り下ろしていた相手である。
しかし、何故か毎週のその日だけは敵意も悪意も憎悪も形容し難い吐き気でさえも、浮かんでこなかった。そのことに疑問は浮かばなかった。
ただひたすらに物言わぬ兵達を箱に詰め込み運搬した。
ある日、それまでは特に気にもしていなかった死んだ者の顔を見てみた。おそらく、私が生まれて初めて持った好奇心というモノであった。
箱に入れる時に見た兵士たちは全員が幸せそうな顔をして目を閉じていた。
気持ち悪かった。
幸せそうな顔をして死んでいった者の思考が理解できなかった。
それだけではない。
全員が全く同じ顔をしていたのだ。
私はその時になって初めて恐怖を覚えた。
そして、この戦が何のために行われているのか。いや、
次、止まります 404-フグ @404-fugu
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